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第3章 隣国へ
招待
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「約一ヶ月お疲れ様」
日が沈んだ時刻、アレッサはそう言ってロゼに一通の封筒を渡した。
ロゼが城に上がってから約一ヶ月。今日は給料日だった。
「ありがとうございます!」
ロゼは大事にその封筒を受け取ると、帰っていくメイド仲間に「お疲れ様です」と言って自室へ歩き始めた。
一ヶ月、長いようで早かった日々だった。初めてのことが沢山で、慌てることも多かったけど、自分はメイドとして働いていてよかったと思っている。令嬢としてこの城にいさせてもらっていたらこんなに充実した日々は送れなかっただろう。
その時、廊下の向かいから見覚えのあるシルエットが現れた。
「うわ…」
ロゼは思わず声を漏らした。正直会いたくない相手である。
「ごきげんよう」
綺麗なドレスをまとった大臣の娘、シャルロットはそんなロゼの様子を気にもせず、挨拶を投げかけた。
「ご、ごきげんよう…」
ロゼはなれない挨拶を同じように返した。このまま何事もなく通り過ぎてくれればいいのだが…。
しかし案の定そうはいかなかった。
「あら、その手に持っているのはお給料の封じゃなくって?ちょっと貸してみなさいよ」
シャルロットは言うが早いか、ロゼの封筒を奪い取った。
「ちょっと…!」
「メイドのお給料がどれくらいのものなのか前々から気になってたのよね」
シャルロットはロゼの声を無視し、封筒を開けた。
「へ~。こんなものなのね。私のお父様の給料の半分もないじゃない」
「返して!」
ロゼはシャルロットから封筒を奪い返した。
「そんな額で満足できるなんて、あなた小さい頃からよっぽど貧しい暮らしをしてきたんでしょうね。私なんて毎日他の令嬢たちとおしゃべりしてるだけでお金が入ってくるのに。なんてかわいそうなのかしら」
シャルロットはそういうと声をあげて笑った。
「あなたにとっては少ないでしょうけど、私にとっては大切なお給料です。一生懸命働いて稼いだお金を他人に馬鹿にされる権利はありません。失礼します」
ロゼはそういうと睨み返すシャルロットには目もくれず、廊下を歩き出した。去り際、シャルロットの舌打ちが聞こえたような気がした。
****************
「あー!せっかく嬉しい気持ちでいっぱいだったのに、嫌な気分になった!」
部屋に着くなり、ロゼはベッドに突っ伏した。あのシャルロットという令嬢はロゼと会うたび突っかかってくる。あまり人を嫌わないロゼでも、正直会いたくない相手ナンバーワンであった。
「そりゃ父親は今城を任されてる大臣だもん。お給料が高いのは当たり前でしょー!そのお金を分けてもらってるんだから、嫌味を言うよりもっと父親に感謝するとかすればいいのに…!」
ロゼは納得のいかないシャルロットの言動に腹が立っていた。それをぶつけるように自分の枕に顔を埋める。
「うー…。別のこと考えよう。シャルロットのことを考えても時間が無駄になるだけだ」
ロゼは自分に言い聞かせるように呟くと、ポケットにしまっていたスケジュール帳を取り出した。明日のページを開くと「休み」と書かれた文字が目に入った。
「そっか、私明日久々の休みなんだ。お給料入ったし、城下町で買い物でもしようかな」
ロゼはそう言って何を買おうか考え始めた。今後のことも考えて貯金もしていきたい。
「日記をつけてた紙もいっぱいになってきたし、それを綴るファイルでしょ。これを機に日記用のノートを買うのもありだな…」
明日はちょっとだけお寝坊をしたりなんかして、それから城下町に出かけよう。
ロゼは楽しみに胸を膨らませながらお風呂へと向かった。
****************
「ロゼ…おーい」
「んー…」
ロゼは徐ろに寝返りをうった。私を起こしているのは誰だろう…。今日はちょっとお寝坊を…。
「ロゼ、もう昼の12時だぞ」
「へ?!」
ロゼはその声に飛び起きた。目の前にはアル、イザベラ、エドが揃っている。
「あ、あああ、アル?!皆さん!おはよう!」
「おそようだな」
アルは少し呆れたように笑った。
「12時?!私寝すぎだー…」
今日は城下町へいくつもりだというのに、うっかり寝すぎてしまった。ロゼは頭を抱えて項垂れた。そこで思考がやっと回り出し、現状がいつもと違うことに気づいた。
「アルたちなんで私の部屋に?いつから?勝手に入ってきたの?!」
「あー…、今日休みだってのは知ってたんだけど、あまりにも部屋から出てこないから、イザベラの監修のもと、部屋に入りました」
「じゃ、じゃあ寝顔とか…」
「見たよ」
「うわああ!」
ロゼは顔を真っ赤にして思わず手元にあった枕をアルに投げつけた。
「いてっ!別にいいだろ。…可愛かったし」
「ひゃあああ…」
ロゼは顔を隠してしばらく悶絶していた。
****************
しばらくして落ち着いたロゼはアルたちの話を聞くことにした。
「どうしてまた私の部屋にお集まりに?」
「それなんだが、エド、例の文書を」
「はい」
アルはエドから一枚の紙を受け取った。それは手紙のようだった。
「隣国の王子からで、概要だけ話すと、明日隣国でお祭りが行われるらしいんだ」
「お祭り?!すごい!行ってみたい!」
ロゼは目を輝かせた。アルは「そういうと思った」と言って笑った。
「でもここからもしかしたらロゼは嫌な気分になるかもしれないんだが、その、例の大臣が、前の会議でのことを謝りたいとロゼに会いたがっているそうだ」
ロゼはそれを聞いて固まった。会議の時、反発の意を示してしまった大臣。気まずいことこの上ない。
「え、えっと…それって私招待されてる?」
「そういうこと。まあ気が向かなかったら行かなくてもいいよ。何も無理して会うことはない」
「アルたちは行くんだよね?」
「まあ、招待状だからな」
正直大臣に会うのは気が引けるが、お祭りには行ってみたいという気持ちが勝った。
「私、行きたい」
ロゼの言葉にアルたちは微笑んで頷くと、ロゼの分も仕事の休み申請を出してくると言って部屋を後にした。
ロゼは明日のお祭りで何か買い物をしようと、今日のお出かけ日程はやめにした。
スケジュール帳にすかさず「お祭り」と書き込む。
それはロゼにとって楽しみな日の一つになった。
日が沈んだ時刻、アレッサはそう言ってロゼに一通の封筒を渡した。
ロゼが城に上がってから約一ヶ月。今日は給料日だった。
「ありがとうございます!」
ロゼは大事にその封筒を受け取ると、帰っていくメイド仲間に「お疲れ様です」と言って自室へ歩き始めた。
一ヶ月、長いようで早かった日々だった。初めてのことが沢山で、慌てることも多かったけど、自分はメイドとして働いていてよかったと思っている。令嬢としてこの城にいさせてもらっていたらこんなに充実した日々は送れなかっただろう。
その時、廊下の向かいから見覚えのあるシルエットが現れた。
「うわ…」
ロゼは思わず声を漏らした。正直会いたくない相手である。
「ごきげんよう」
綺麗なドレスをまとった大臣の娘、シャルロットはそんなロゼの様子を気にもせず、挨拶を投げかけた。
「ご、ごきげんよう…」
ロゼはなれない挨拶を同じように返した。このまま何事もなく通り過ぎてくれればいいのだが…。
しかし案の定そうはいかなかった。
「あら、その手に持っているのはお給料の封じゃなくって?ちょっと貸してみなさいよ」
シャルロットは言うが早いか、ロゼの封筒を奪い取った。
「ちょっと…!」
「メイドのお給料がどれくらいのものなのか前々から気になってたのよね」
シャルロットはロゼの声を無視し、封筒を開けた。
「へ~。こんなものなのね。私のお父様の給料の半分もないじゃない」
「返して!」
ロゼはシャルロットから封筒を奪い返した。
「そんな額で満足できるなんて、あなた小さい頃からよっぽど貧しい暮らしをしてきたんでしょうね。私なんて毎日他の令嬢たちとおしゃべりしてるだけでお金が入ってくるのに。なんてかわいそうなのかしら」
シャルロットはそういうと声をあげて笑った。
「あなたにとっては少ないでしょうけど、私にとっては大切なお給料です。一生懸命働いて稼いだお金を他人に馬鹿にされる権利はありません。失礼します」
ロゼはそういうと睨み返すシャルロットには目もくれず、廊下を歩き出した。去り際、シャルロットの舌打ちが聞こえたような気がした。
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「あー!せっかく嬉しい気持ちでいっぱいだったのに、嫌な気分になった!」
部屋に着くなり、ロゼはベッドに突っ伏した。あのシャルロットという令嬢はロゼと会うたび突っかかってくる。あまり人を嫌わないロゼでも、正直会いたくない相手ナンバーワンであった。
「そりゃ父親は今城を任されてる大臣だもん。お給料が高いのは当たり前でしょー!そのお金を分けてもらってるんだから、嫌味を言うよりもっと父親に感謝するとかすればいいのに…!」
ロゼは納得のいかないシャルロットの言動に腹が立っていた。それをぶつけるように自分の枕に顔を埋める。
「うー…。別のこと考えよう。シャルロットのことを考えても時間が無駄になるだけだ」
ロゼは自分に言い聞かせるように呟くと、ポケットにしまっていたスケジュール帳を取り出した。明日のページを開くと「休み」と書かれた文字が目に入った。
「そっか、私明日久々の休みなんだ。お給料入ったし、城下町で買い物でもしようかな」
ロゼはそう言って何を買おうか考え始めた。今後のことも考えて貯金もしていきたい。
「日記をつけてた紙もいっぱいになってきたし、それを綴るファイルでしょ。これを機に日記用のノートを買うのもありだな…」
明日はちょっとだけお寝坊をしたりなんかして、それから城下町に出かけよう。
ロゼは楽しみに胸を膨らませながらお風呂へと向かった。
****************
「ロゼ…おーい」
「んー…」
ロゼは徐ろに寝返りをうった。私を起こしているのは誰だろう…。今日はちょっとお寝坊を…。
「ロゼ、もう昼の12時だぞ」
「へ?!」
ロゼはその声に飛び起きた。目の前にはアル、イザベラ、エドが揃っている。
「あ、あああ、アル?!皆さん!おはよう!」
「おそようだな」
アルは少し呆れたように笑った。
「12時?!私寝すぎだー…」
今日は城下町へいくつもりだというのに、うっかり寝すぎてしまった。ロゼは頭を抱えて項垂れた。そこで思考がやっと回り出し、現状がいつもと違うことに気づいた。
「アルたちなんで私の部屋に?いつから?勝手に入ってきたの?!」
「あー…、今日休みだってのは知ってたんだけど、あまりにも部屋から出てこないから、イザベラの監修のもと、部屋に入りました」
「じゃ、じゃあ寝顔とか…」
「見たよ」
「うわああ!」
ロゼは顔を真っ赤にして思わず手元にあった枕をアルに投げつけた。
「いてっ!別にいいだろ。…可愛かったし」
「ひゃあああ…」
ロゼは顔を隠してしばらく悶絶していた。
****************
しばらくして落ち着いたロゼはアルたちの話を聞くことにした。
「どうしてまた私の部屋にお集まりに?」
「それなんだが、エド、例の文書を」
「はい」
アルはエドから一枚の紙を受け取った。それは手紙のようだった。
「隣国の王子からで、概要だけ話すと、明日隣国でお祭りが行われるらしいんだ」
「お祭り?!すごい!行ってみたい!」
ロゼは目を輝かせた。アルは「そういうと思った」と言って笑った。
「でもここからもしかしたらロゼは嫌な気分になるかもしれないんだが、その、例の大臣が、前の会議でのことを謝りたいとロゼに会いたがっているそうだ」
ロゼはそれを聞いて固まった。会議の時、反発の意を示してしまった大臣。気まずいことこの上ない。
「え、えっと…それって私招待されてる?」
「そういうこと。まあ気が向かなかったら行かなくてもいいよ。何も無理して会うことはない」
「アルたちは行くんだよね?」
「まあ、招待状だからな」
正直大臣に会うのは気が引けるが、お祭りには行ってみたいという気持ちが勝った。
「私、行きたい」
ロゼの言葉にアルたちは微笑んで頷くと、ロゼの分も仕事の休み申請を出してくると言って部屋を後にした。
ロゼは明日のお祭りで何か買い物をしようと、今日のお出かけ日程はやめにした。
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