青の王国

ウツ。

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第3章 隣国へ

ウィングベール

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賑わう人波をかき分け城門の前に着くと、すでに二人の先客がいた。一人は見覚えのある、見間違えようのないあの大臣だ。そして横に立つ、綺麗な髪を風になびかせた肌白の美青年がこのフィーレン国の王子だろう。
ロゼは大臣を見て少し固まったが、隣国の王子の美しさに思わず目を奪われた。
「久しぶり、エリス。体調はどうだ?」
「アル!久しぶり。今日は体調万全だよ」
アルはエリスと目が合うと明るく挨拶を交わした。あまり会ったことがないと言っていたが二人はすでに友達なのだろう。
「クロード大臣もお久しぶりです」
「お、お久しぶりです」
アルの挨拶に大臣はあからさまに気まずいといった顔で挨拶を返した。
「ロゼ」
「あ、うん」
ロゼはアルに声をかけられて一歩前に進み出た。
「初めまして、エリス王子。ご招待を受けましたロゼと申します」
「初めまして。君がロゼさんか。僕はこの国の第一王子、エリス・メイティア・フィーレンです。へぇ、本当に綺麗な髪と瞳をお持ちだね」
エリスは優しく綺麗な笑顔でロゼを見つめた。
「あ、あの…先月の会議では大臣に失礼な態度を取ってしまい…」
「うん。そのことは噂でも聞いているよ。大臣相手に発言をしたメイドがいるってね」
「わああ…なんか、その、すみません…」
ロゼは半ば目を回しながら頭を下げた。
「いいのいいの。君は何も悪くないんだから。悪いのは勝手に髪に触れたクロード大臣だよ。大臣、謝りたかったんでしょう?女の子に先に謝らせてどうするのさ」
エリスにそう言われ、大臣はロゼに頭を下げた。
「あの時はとんだご無礼を。謝って済む話ではないが、ロゼ君を嫌な気持ちにさせてしまったこと、本当に申し訳なかったと思っている」
あまりに深々と頭を下げられた大臣に一瞬びっくりしたが、ロゼは慌てて顔を上げるように言った。
「あの、顔を上げてください。私確かにあの時はちょっとびっくりしましたし、嫌な気持ちにもなりましたけど、謝っていただけただけで十分です。それにお祭りにまでご招待いただいて。私は今日がとても楽しみでした。だからありがとうございます」
大臣はロゼの笑顔にホッとしたように胸をなでおろした。
「そちらは側近のイザベラさんとエドさんだね。お久しぶりです」
エリスは二人にも丁寧に頭を下げた。
「お久しぶりです。エリス王子」
「お久しぶりです」
二人は揃って挨拶を返した。
「そういえばエリスの側近たちは?」
アルが辺りを見渡して尋ねる。
「今日は非番にしてるんだ。お祭りの時くらい肩の力を抜かせてあげないとね」
「なるほど」
アルはそういうとエドの方を見た。イザベラの視線もエドに注がれている。
「えっ?私なら大丈夫です。お気になさらず」
エドは一瞬だけ動揺を見せたがまたいつものごとくキリッとした表情に戻った。
「エリスに見習わなきゃいけないことが俺には沢山あるな」
アルはそう言って笑って見せた。エリス、大臣、アル、ロゼ、イザベラ、エドの6人は揃ってお店の立ち並ぶ通りへ足を踏み入れた。
「ロゼ、何か買いたいものとかあるか?」
「私は日記帳とか、何か書類を綴れるものとかがあればいいなって思ってる」
その時、ロゼは横をすれ違う人たちの視線が自分に注がれているのに気がついた。別に悪いことをしているわけではないとわかっていても、その視線はあまり気持ちのいいものではない。
「やっぱり目立つのは嫌か」
「うん、ちょっと」
アルに言われ、ロゼは少しだけ顔を伏せた。それを見かねたエリスは一人どこかへ駆けて行った。
しばらくするとすぐにエリスは戻ってきた。
「これ」
ロゼの頭にふわっと何かがかけられる。それは白い生地でできたベールだった。
「これはこの国伝統の織物でね、見た目はしっかりしてるのに羽のように軽いことからウィングベールと呼ばれているものなんだ。日差しを避けたい女性なんかがよくつけているごく一般的なアイテムだよ」
ロゼはそう言われて辺りを見渡した。確かに行き交う人の中にもこのベールをつけている人が何人かいる。
「へぇ…。すごく綺麗な織物だな」
アルはロゼのベールを少し触って感激したように呟いた。
「これでさっきよりは目立たないと思うよ」
「あ、ありがとうございます!いきなり買ってもらっちゃって…!お金ならちゃんと…」
「お金なんていいよ。気に入ってもらえたなら何より。ちょっとしたプレゼントだと思って」
「ありがとうございます!でもいつかこのお返しは必ず!」
ロゼは嬉しそうにベールに触れた。確かにしっかりした生地なのに頭に乗せた感じは何もつけてないかのように軽いものだった。
「じゃあ改めてお店を回ろうか」
エリスの声に皆は再び歩みを進めた。
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