5 / 26
05
しおりを挟む
セインがヒイロの山小屋に匿われて、一週間が経過していた。
この一週間、セインは憎まれ口を叩きながらもヒイロの食事や介護をありがたく享受しており、ヒイロも喜んで彼に尽くしていた。
最初の数日は作りすぎたお粥を始めとした病人食ばかりで、ベッドから出るだけの体力もなかったセインだが、近頃は少しずつだが固形物を食べれるようになり、部屋の中でなら起きて歩き回ることもできるようになっていた。
これをヒイロはいたく喜び、回復記念にパーティーでも開こうかと張り切ったのだが――。
「馬鹿野郎!! ちょっと起き上がれるようになっただけで大袈裟なんだよ!」
「ええっ!? でも、セインの快気祝いだよ……? パーティーしない理由がなくないか!?」
「そもそも二人きりでパーティーもクソもあるかよ! おまえまた、アホみたいに飯作るつもりだろ!? 食べ切れる量ってのを考えろよな!!」
浮かれてパーティーを開こうとするヒイロを、セインは呆れながらも全力で止める。
一週間の共同生活の中で、彼の好きにさせるととんでもないことになるというのを学んだ結果である。
ヒイロも、セイン本人が嫌がるならば無理強いする気はないようで、渋々といった様子で首を縦に振る。
「う、うーん……わかったよ。そんなに言うなら、量は普段通りにする。でも、代わりに、セインの好物作るってのはどうかな!? ほら、そろそろ脂っこいものとか食べても大丈夫だと思うし……」
「……それ、おまえが俺の好物知りたいだけじゃねえの」
「そんなことないよ!? あ、いや、もちろんセインの好きなものは何でも知りたいけど! 僕がセインにできることって、おいしい料理を作るとか、そのくらいしかないから……」
ヒイロの態度に下心は感じられず――さらっと『なんでも知りたい』などと重たいことを言ってはいたが――純粋に、セインを思いやっての言葉なのだろうことは伝わってくる。
だからこそ、セインは返答に困ってしまうのだ。
「好物、ねえ……」
「なんでもいいよ! 一応、一般的な家庭料理ならほぼ、なんでも作れるから……!」
「なんでもって……、主人公は料理も得意ってか? はぁ、これだから万能人間はよ……」
「えっ!? それ褒めてる!? 褒めてくれたんだよな!? ありがとう!!」
「ち、ちげえ!! 貶してんだよ!!」
「え? で、でも、どのへんが……?」
「この……っ、皮肉も通じねえアホ野郎め……!」
口では散々に罵倒をしていたが、セインの表情は柔らかいものだ。呆れ混じりではあるが、それなりにリラックスしている様子である。
本人は絶対に認めないだろうが、ヒイロとのざっくばらんなやり取りは、セインにとっても悪くはないものになっていたのである。
「それで? 好物じゃなくても、何かないのかな、今夜の夕飯のリクエスト!」
「……別に。食い物に好きとか嫌いとか、考えたことねえし……」
「ええっ……!? そ、そんなことあるのかい!?」
「……言っとくが、別に食うに困った経験がある、とかじゃねーぞ。ただ、食事に興味がねえだけで」
驚愕するヒイロに、ばつの悪そうな顔をしながら、セインは語る。
「……ガキの頃から、飯なんて腹が膨れて最低限の栄養が取れりゃいい、みたいな感じだったからな。好きな味とか、好物とか言われても、ピンとこねえんだよ」
セインの――佐出征時の幼少期は、いわゆる『鍵っ子』というやつだった。両親は共働きで帰りも遅く、夕飯というと、冷蔵庫の中の冷え切った食事を一人ぼっちで温めて食べるもので。
おまけに、両親揃って食への興味が薄く、最低限の栄養補給さえできればいいという考え方の持ち主だったものだから、自然と征時もそういう考え方に育っていった。
また、ある程度の歳になってからは、受験戦争で勝ち抜くためにと食事をする間も惜しんで勉強に明け暮れていたので、ますます食事への興味も薄くなったのだ。
(……よくある話だ。わざわざ不幸ぶって他人に話すようなことでもねえ。けど……好物がねえ、とか言うと、空気しらけさせちまうんだよな……。嘘でもいいから、なんか用意しときゃ……、……いや、ヒイロ相手にテキトーな嘘つく意味もねえんだけど……)
どうして自分がヒイロの顔色を伺っているのだとモヤモヤした気分になりながらも、気まずさから、セインは言葉を濁す。
そんな彼を、ヒイロは、優しい眼差しで見つめていた。
「……ねえセイン。好物じゃなくても、なにか思い出の味とか、記憶に残ってる食べ物はないのかい?」
「いや、だから……あんまりメシに興味がなくて……」
「でも、オカユやウメボシは覚えてただろ? ……あんなに美味しそうに食べてくれたんだもん。食事に興味ないってことはないんじゃないかな? セイン自身も、気がついていないだけで」
「っ……!?」
優しい声に、セインの表情に動揺が走る。
(……そんなこと、意識したこともなかった。あれはメシの記憶、っつーより、婆さんとの思い出って感じで……。……言われてみりゃ、婆さんは結構、料理とか好きだったみてえなんだよな)
ヒイロに意表を突かれたのが悔しいのか、むっすりとした顔をしながら、セインは言う。
「……相変わらず、忌々しいくらいのポジティブだな、おまえは」
「えっ!? セインがまた褒めてくれた!?」
「だから褒めてねえ!!」
――征時の祖母は、彼の住む家から数駅隣の町に住んでいた。征時が幼い頃は、一人で留守番できない彼は祖母の家に預けられることが多かったのだが、小学校に上がったくらいでそれも卒業になった。
『おばあちゃんの家で遊んでる暇があるなら勉強しなさい』というのが、母の口癖だった。
祖母と、その娘である征時の母の仲は悪くはないが、どうにも子育てへの姿勢から揉めることが多かったらしい。
母が次第に祖母を遠ざけるようになり、征時が祖母の家に遊びに行くことにさえ、嫌な顔をするようになった。
それでも、月に一度か二月に一度くらいの頻度で祖母の家に訪れることはあったし、征時が体調を崩したときには祖母が看病しに来てくれた。
病気のときに作ってくれたお粥、自分で作っているのだと嬉しげに分けてくれた梅干し、それから、祖母の家に遊びに行くとごちそうしてくれた温かな手料理。
それらの記憶は、今でも征時の心の片隅にしっかりと残っている。
「……あ。からあげ……」
記憶をたどり、ぽつり、とセインが言葉をこぼした。
「カラアゲ?」
「……こ、こっちにある料理なのか、知らねえけど。ガキの頃、うちの婆さんがよく作ってくれたんだよ。……子供はからあげが好きだろう、って」
この世界に果たして唐揚げがあるのか無いのか知らないが、駄目元でそう言ってみれば。ヒイロにも心当たりがあったようである。
「カラアゲって……あれかな、最近王都で流行ってる、フライドチキンの東方風みたいなやつ」
「……え、流行ってんの?」
「よし!! じゃあ、今から王都行って買ってくるね!!」
「は!? い、今から!?」
王都で唐揚げが流行っている、ということにも驚いたが、それ以上にヒイロの行動力あふれる姿のほうがインパクトが大きかった。
ここから王都までは、セインの前世の単位で示すならば数十キロメートルほど離れており、車や電車があるわけでもないこの世界では、そう簡単に行き来できる距離ではないはずなのだ。普通は。
「い、いやいやいや……。おまえ、なんか王都に用事あったの?」
「え? だから、カラアゲを買いに……」
「んなことのためにわざわざ!? こっから王都までどんだけ離れてると思ってんだ!?」
「えっ、でも、転移魔法使えばすぐだよ?」
「こ、これだから万能主人公は……!」
転移魔法、というのはその名の通りの瞬間移動、ゲームで言うところのファストトラベル的な魔法なのだが、これまた使用者は限られている。
原作ゲーム内では、主人公と一部の強キャラのみが使える特殊能力枠に収まっており、この世界においても転移を使えるものはごく一握り。セインが知る限り、これを使える冒険者は、セインとヒイロを除けば原作に出てくるキャラクターのみである。
「たしかにレアな魔法かもしれないけど、使える力は活用しないと損だろ?」
「そ、そこまでして食いたいわけじゃねえし……。そもそも、お、おまえ、いきなり冒険者やめたのに王都に戻って平気なのか……? ほら、その、なんで辞めたんだって恨まれたりとか……」
無駄に思い切りのいいヒイロに呆れつつ、意地を張るのも忘れて素直に心配を口にするも、ヒイロは一切気にした素振りもない。
「うーん……もしかしたら、そういう人もいるかもしれないけど。それとこれとは別っていうか、だからって、僕がやりたいことを我慢する必要はないだろ? 本当なら僕が作ってあげたいけど、さすがに、食べたこともない料理は作れないし……」
「…………」
この一週間で散々理解させられたことだが――ヒイロがセインに向ける愛情は、かなり重い。そして、一度セインのためになにかしよう、と決断した彼は、梃子でも動かない。
セインが呆れるあまりフリーズしているうちに、颯爽と転移を発動させていた。
「ってことで、行ってくるな!! すぐ帰るからゆっくり待っててよ!」
「あ!? お、おい、待てって……! ……行っちまった」
残されたセインは一人、呆れを剥き出しにしてひとりごちる。
「あーあ……バッカじゃねえの。俺のために、わざわざ唐揚げ買いに王都に戻るとか。誰も頼んでねえのにさあ……」
憎まれ口を叩いてこそいるが、彼はそわそわと落ち着かない様子だった。口角が上がりそうになるのを懸命に堪えて、それでも我慢しきれず、にまにまとした笑みを浮かべている。
「……あいつ、そんなに俺のこと好きなのか? 好物で機嫌取ろうって? ……ははっ、まじで馬鹿なヤツ……」
セインに――佐出征時に、損得抜きでここまで尽くしてくれた人間は初めてだった。
セインとして英雄ムーブをしていた頃には、多くの人間が彼に擦り寄り、これでもかとチヤホヤしてくれたわけだが……それらは皆、セインの逮捕と共に彼を見限った。
今のセインはただの罪人だ。チート能力だってヒイロの実力には負けてしまうし、そもそも、弱りきっていて部屋から出るのもやっとなくらいの状態である。
なんの役にも立たない自分に、ヒイロは、ただ『セインだから』という理由で尽くしてくれる。それが『救われた』という勘違いから始まった恋だとしても。
当初はヒイロの献身にある種の罪悪感を抱いていたセインだが、それも、一週間もその生活が続けば慣れてくる。
共に過ごせば過ごすほどヒイロの変人ぶりが明らかになり、『こいつはこういう生き物なんだ』と認識してしまったのもあってか、セインはヒイロの重たい愛情表現に呆れつつも、それを受け流せるようになっていた。
「暇だな。……早く帰って来ねえかな」
――世間ではそれを『絆された』というのだが、天の邪鬼でプライドの高いセインは、断固としてそれを認めないことだろう。
この一週間、セインは憎まれ口を叩きながらもヒイロの食事や介護をありがたく享受しており、ヒイロも喜んで彼に尽くしていた。
最初の数日は作りすぎたお粥を始めとした病人食ばかりで、ベッドから出るだけの体力もなかったセインだが、近頃は少しずつだが固形物を食べれるようになり、部屋の中でなら起きて歩き回ることもできるようになっていた。
これをヒイロはいたく喜び、回復記念にパーティーでも開こうかと張り切ったのだが――。
「馬鹿野郎!! ちょっと起き上がれるようになっただけで大袈裟なんだよ!」
「ええっ!? でも、セインの快気祝いだよ……? パーティーしない理由がなくないか!?」
「そもそも二人きりでパーティーもクソもあるかよ! おまえまた、アホみたいに飯作るつもりだろ!? 食べ切れる量ってのを考えろよな!!」
浮かれてパーティーを開こうとするヒイロを、セインは呆れながらも全力で止める。
一週間の共同生活の中で、彼の好きにさせるととんでもないことになるというのを学んだ結果である。
ヒイロも、セイン本人が嫌がるならば無理強いする気はないようで、渋々といった様子で首を縦に振る。
「う、うーん……わかったよ。そんなに言うなら、量は普段通りにする。でも、代わりに、セインの好物作るってのはどうかな!? ほら、そろそろ脂っこいものとか食べても大丈夫だと思うし……」
「……それ、おまえが俺の好物知りたいだけじゃねえの」
「そんなことないよ!? あ、いや、もちろんセインの好きなものは何でも知りたいけど! 僕がセインにできることって、おいしい料理を作るとか、そのくらいしかないから……」
ヒイロの態度に下心は感じられず――さらっと『なんでも知りたい』などと重たいことを言ってはいたが――純粋に、セインを思いやっての言葉なのだろうことは伝わってくる。
だからこそ、セインは返答に困ってしまうのだ。
「好物、ねえ……」
「なんでもいいよ! 一応、一般的な家庭料理ならほぼ、なんでも作れるから……!」
「なんでもって……、主人公は料理も得意ってか? はぁ、これだから万能人間はよ……」
「えっ!? それ褒めてる!? 褒めてくれたんだよな!? ありがとう!!」
「ち、ちげえ!! 貶してんだよ!!」
「え? で、でも、どのへんが……?」
「この……っ、皮肉も通じねえアホ野郎め……!」
口では散々に罵倒をしていたが、セインの表情は柔らかいものだ。呆れ混じりではあるが、それなりにリラックスしている様子である。
本人は絶対に認めないだろうが、ヒイロとのざっくばらんなやり取りは、セインにとっても悪くはないものになっていたのである。
「それで? 好物じゃなくても、何かないのかな、今夜の夕飯のリクエスト!」
「……別に。食い物に好きとか嫌いとか、考えたことねえし……」
「ええっ……!? そ、そんなことあるのかい!?」
「……言っとくが、別に食うに困った経験がある、とかじゃねーぞ。ただ、食事に興味がねえだけで」
驚愕するヒイロに、ばつの悪そうな顔をしながら、セインは語る。
「……ガキの頃から、飯なんて腹が膨れて最低限の栄養が取れりゃいい、みたいな感じだったからな。好きな味とか、好物とか言われても、ピンとこねえんだよ」
セインの――佐出征時の幼少期は、いわゆる『鍵っ子』というやつだった。両親は共働きで帰りも遅く、夕飯というと、冷蔵庫の中の冷え切った食事を一人ぼっちで温めて食べるもので。
おまけに、両親揃って食への興味が薄く、最低限の栄養補給さえできればいいという考え方の持ち主だったものだから、自然と征時もそういう考え方に育っていった。
また、ある程度の歳になってからは、受験戦争で勝ち抜くためにと食事をする間も惜しんで勉強に明け暮れていたので、ますます食事への興味も薄くなったのだ。
(……よくある話だ。わざわざ不幸ぶって他人に話すようなことでもねえ。けど……好物がねえ、とか言うと、空気しらけさせちまうんだよな……。嘘でもいいから、なんか用意しときゃ……、……いや、ヒイロ相手にテキトーな嘘つく意味もねえんだけど……)
どうして自分がヒイロの顔色を伺っているのだとモヤモヤした気分になりながらも、気まずさから、セインは言葉を濁す。
そんな彼を、ヒイロは、優しい眼差しで見つめていた。
「……ねえセイン。好物じゃなくても、なにか思い出の味とか、記憶に残ってる食べ物はないのかい?」
「いや、だから……あんまりメシに興味がなくて……」
「でも、オカユやウメボシは覚えてただろ? ……あんなに美味しそうに食べてくれたんだもん。食事に興味ないってことはないんじゃないかな? セイン自身も、気がついていないだけで」
「っ……!?」
優しい声に、セインの表情に動揺が走る。
(……そんなこと、意識したこともなかった。あれはメシの記憶、っつーより、婆さんとの思い出って感じで……。……言われてみりゃ、婆さんは結構、料理とか好きだったみてえなんだよな)
ヒイロに意表を突かれたのが悔しいのか、むっすりとした顔をしながら、セインは言う。
「……相変わらず、忌々しいくらいのポジティブだな、おまえは」
「えっ!? セインがまた褒めてくれた!?」
「だから褒めてねえ!!」
――征時の祖母は、彼の住む家から数駅隣の町に住んでいた。征時が幼い頃は、一人で留守番できない彼は祖母の家に預けられることが多かったのだが、小学校に上がったくらいでそれも卒業になった。
『おばあちゃんの家で遊んでる暇があるなら勉強しなさい』というのが、母の口癖だった。
祖母と、その娘である征時の母の仲は悪くはないが、どうにも子育てへの姿勢から揉めることが多かったらしい。
母が次第に祖母を遠ざけるようになり、征時が祖母の家に遊びに行くことにさえ、嫌な顔をするようになった。
それでも、月に一度か二月に一度くらいの頻度で祖母の家に訪れることはあったし、征時が体調を崩したときには祖母が看病しに来てくれた。
病気のときに作ってくれたお粥、自分で作っているのだと嬉しげに分けてくれた梅干し、それから、祖母の家に遊びに行くとごちそうしてくれた温かな手料理。
それらの記憶は、今でも征時の心の片隅にしっかりと残っている。
「……あ。からあげ……」
記憶をたどり、ぽつり、とセインが言葉をこぼした。
「カラアゲ?」
「……こ、こっちにある料理なのか、知らねえけど。ガキの頃、うちの婆さんがよく作ってくれたんだよ。……子供はからあげが好きだろう、って」
この世界に果たして唐揚げがあるのか無いのか知らないが、駄目元でそう言ってみれば。ヒイロにも心当たりがあったようである。
「カラアゲって……あれかな、最近王都で流行ってる、フライドチキンの東方風みたいなやつ」
「……え、流行ってんの?」
「よし!! じゃあ、今から王都行って買ってくるね!!」
「は!? い、今から!?」
王都で唐揚げが流行っている、ということにも驚いたが、それ以上にヒイロの行動力あふれる姿のほうがインパクトが大きかった。
ここから王都までは、セインの前世の単位で示すならば数十キロメートルほど離れており、車や電車があるわけでもないこの世界では、そう簡単に行き来できる距離ではないはずなのだ。普通は。
「い、いやいやいや……。おまえ、なんか王都に用事あったの?」
「え? だから、カラアゲを買いに……」
「んなことのためにわざわざ!? こっから王都までどんだけ離れてると思ってんだ!?」
「えっ、でも、転移魔法使えばすぐだよ?」
「こ、これだから万能主人公は……!」
転移魔法、というのはその名の通りの瞬間移動、ゲームで言うところのファストトラベル的な魔法なのだが、これまた使用者は限られている。
原作ゲーム内では、主人公と一部の強キャラのみが使える特殊能力枠に収まっており、この世界においても転移を使えるものはごく一握り。セインが知る限り、これを使える冒険者は、セインとヒイロを除けば原作に出てくるキャラクターのみである。
「たしかにレアな魔法かもしれないけど、使える力は活用しないと損だろ?」
「そ、そこまでして食いたいわけじゃねえし……。そもそも、お、おまえ、いきなり冒険者やめたのに王都に戻って平気なのか……? ほら、その、なんで辞めたんだって恨まれたりとか……」
無駄に思い切りのいいヒイロに呆れつつ、意地を張るのも忘れて素直に心配を口にするも、ヒイロは一切気にした素振りもない。
「うーん……もしかしたら、そういう人もいるかもしれないけど。それとこれとは別っていうか、だからって、僕がやりたいことを我慢する必要はないだろ? 本当なら僕が作ってあげたいけど、さすがに、食べたこともない料理は作れないし……」
「…………」
この一週間で散々理解させられたことだが――ヒイロがセインに向ける愛情は、かなり重い。そして、一度セインのためになにかしよう、と決断した彼は、梃子でも動かない。
セインが呆れるあまりフリーズしているうちに、颯爽と転移を発動させていた。
「ってことで、行ってくるな!! すぐ帰るからゆっくり待っててよ!」
「あ!? お、おい、待てって……! ……行っちまった」
残されたセインは一人、呆れを剥き出しにしてひとりごちる。
「あーあ……バッカじゃねえの。俺のために、わざわざ唐揚げ買いに王都に戻るとか。誰も頼んでねえのにさあ……」
憎まれ口を叩いてこそいるが、彼はそわそわと落ち着かない様子だった。口角が上がりそうになるのを懸命に堪えて、それでも我慢しきれず、にまにまとした笑みを浮かべている。
「……あいつ、そんなに俺のこと好きなのか? 好物で機嫌取ろうって? ……ははっ、まじで馬鹿なヤツ……」
セインに――佐出征時に、損得抜きでここまで尽くしてくれた人間は初めてだった。
セインとして英雄ムーブをしていた頃には、多くの人間が彼に擦り寄り、これでもかとチヤホヤしてくれたわけだが……それらは皆、セインの逮捕と共に彼を見限った。
今のセインはただの罪人だ。チート能力だってヒイロの実力には負けてしまうし、そもそも、弱りきっていて部屋から出るのもやっとなくらいの状態である。
なんの役にも立たない自分に、ヒイロは、ただ『セインだから』という理由で尽くしてくれる。それが『救われた』という勘違いから始まった恋だとしても。
当初はヒイロの献身にある種の罪悪感を抱いていたセインだが、それも、一週間もその生活が続けば慣れてくる。
共に過ごせば過ごすほどヒイロの変人ぶりが明らかになり、『こいつはこういう生き物なんだ』と認識してしまったのもあってか、セインはヒイロの重たい愛情表現に呆れつつも、それを受け流せるようになっていた。
「暇だな。……早く帰って来ねえかな」
――世間ではそれを『絆された』というのだが、天の邪鬼でプライドの高いセインは、断固としてそれを認めないことだろう。
70
あなたにおすすめの小説
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
推しカプのために当て馬ヤンデレキャラを演じていたら、展開がおかしくなってきた
七瀬おむ
BL
■BL小説の世界に転生した腐男子が、推しカプのために「当て馬ヤンデレキャラ」を演じていたら、なぜか攻めに執着される話。
■だんだん執着してくる美形生徒会長×当て馬ヤンデレキャラを演じる腐男子
美形×平凡/執着攻め/ハッピーエンド/勘違い・すれ違い
《あらすじ》
伯爵家の令息であるアルト・リドリーは、幼い頃から療養のため家に籠っていた。成長と共に体調が安定し、憧れていた魔法学園への途中入学が決まったアルトは、学園への入学当日、前世を思い出す。
この世界は前世で読んでいた「学園モノのBL小説」であり、アルトは推しカプの「攻め」であるグレン・アディソンに好意を寄せる、当て馬ヤンデレキャラだったのだ。アルトは「美形クール攻め×平民の美少年」という推しカプを成立させるため、ヤンデレ当て馬キャラを演じることを決意する。
アルトはそれからグレンに迫り、本人としては完璧に「ヤンデレ」を演じていた。しかし、そもそも病んでいないアルトは、だんだん演技にボロがではじめてしまう。そんな中、最初は全くアルトに興味がなかったグレンも、アルトのことが気になってきて…?
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
邪神の嫁として勝手に異世界召喚されたけど、邪神がもろタイプだったので満更でもないです
我利我利亡者
BL
椎葉 譲(しいば ゆずる)は突然異世界に召喚された。折角就活頑張って内定もらえてこれからって時に、冗談じゃない! しかも、召喚理由は邪神とやらの神子……という名の嫁にする為だとか。こっちの世界の人間が皆嫌がるから、異世界から神子を召喚した? ふざけんな! そんなの俺も嫌だわ! 怒り狂って元の世界に戻すよう主張する譲だったが、騒ぎを聞き付けて現れた邪神を一目見て、おもわず大声で叫ぶ。「きゃわいい!」。なんと邪神は猫の獣人で、何を隠そう譲は重度のケモナーだった。邪神は周囲からあまりいい扱いを受けていないせいかすっかり性格が捻くれていたが、そんな事は一切気にせず熱烈にラブコールする譲。「大好き! 結婚しよ!」「早く元の世界に帰れ!」。今日もそんな遣り取りが繰り返される。果たして譲は、邪神とフォーリンラブできるのか!?
孤独な邪神でもある黒猫獣人×重度のケモナーでもあるおチャラけ根明
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる