ざまぁされた小悪党の俺が、主人公様と過ごす溺愛スローライフ!?

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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「えーと、まずは鶏肉を切って、下味をつける……んだけど。フライドチキンなら塩コショウして、卵と牛乳、ニンニクとスパイス……」
「牛乳!? フライドチキンって、牛乳使ってるのか!?」
「うん、衣にちょっとだけね。ええと……カラアゲは多分、スパイスは使ってないと思うから、スパイス抜きにして代わりにショーユ入れて作ってみようか」
「あ。うちの婆さん、ニンニク苦手だったから。それも使ってねえかも……」
「ええと……、なら、代わりの臭い消しがいるよね。ハーブ? いやでも、東方風なら……ショウガとか……?」
「ハーブじゃねえことは俺にもわかる」

 何もかもが探り探りの中、二人は調理を開始した。
 なにせレシピも知らず、セインは料理初心者で、料理上手のヒイロは目標としている『征時のお婆さんの唐揚げ』を食べたことがないのだ。あれこれと悩みながらも、まずは試しに作ってみるかということになった。

「お肉は……もも肉でいいかな。そしたらこれを切って……しばらく漬け込んで……」
「……き、切るくらいなら俺でもできる。味付けとかよくわかんねーから、そっち、おまえがやれよ」
「えっ!? い、いいのかい、頼んでも……!?」
「お、俺をなんだと思ってんだよ!! やるっつったからにはそのくらいやるわ!!」

 照れ隠しからか、乱暴な態度を取りながらも、セインも調理に協力する気満々だ。
 不慣れな様子で包丁を手に取ると、おっかなびっくり、もも肉を程よいサイズに切り分けていく。

(……おっ。思ったより簡単じゃねーか。これなら魔物斬るのと変わんねーし……まさか俺のチートって、料理にも適応されてたのか!?)
「わぁ、すごいねセイン! 料理に慣れてない、って本当かい? とてもそうは見えないよ!」
「べ、別に? 斬るくらい誰だってできんだろ。……それより、さっさとそっちも進めろよ!」
「ああごめん! つい、セインの姿に見とれちゃって……!」

 和気藹々と会話をしながらも、二人は着々と調理を進めていく。セインが肉を切り終えた頃には、ヒイロも漬け込み液の準備を終えていた。

「あとはお肉をこれに漬けておいて、しばらくしたら揚げる……って感じかな」
「へー……。案外簡単なんだな」
「漬け込みに時間はかかるけどね! まあ、夜ご飯にはちょうどいいんじゃないかな?」

 時計を見れば、もう午後の四時を過ぎていた。ゲームを元に作られたからだろうか、この世界の時間の単位は、セインの前世の世界と同様である。

 夕飯まではまだだいぶ時間がある。なんとなく暇を持て余しつつ、二人は協力して、調理器具を洗ったり片付けたりしていった。
 作業のため手を動かしながらも、ふと、セインが問いかける。

「……そういやおまえ、この肉とか、そうじゃなくても、その……飯の材料とか。どんだけ備蓄してるんだ? 空間収納があるとはいえ、一人暮らしの量じゃねえだろ」
「え? だってそれは……ほら。セインと二人暮らしだし……」
「ま、待て待て待て!! おまえが俺を拾ったのはほんの一週間前だろ!? なんでこんな用意周到なんだよ!!」
「前から用意してたわけじゃないよ!? ただ、二人暮らしするって決まったその日に、いつかセインと結ばれたときのための貯金をはたいて空間収納いっぱいになるまで買い込んだだけで……!」
「な……ッ、なんなんだよそのキショイ貯金は!! つか、貯金使い込むとか馬鹿すぎだろ!! 何してんだよ!?」

 思わず手を止めてセインがツッコめば、ヒイロは、雨に濡れた子犬のようにしゅんとなってしまう。

「……ご、ごめん……。嫌だったかい? 僕、また君のこと怒らせちゃったのか……?」
「い、いや……怒ってはねえ、けど……。馬鹿すぎて呆れてるだけで……」
「えええ!? そんなぁ……!」

 心外だ、と言いたげなヒイロに、思わず、呆れのため息が出る。

「……おまえさぁー。それ、冒険者としての稼ぎを注ぎ込んで、俺の飯だのなんだのに使ってるってことだろ?」
「う、うん……。あっでも心配しなくてもいいよ! 貯金はまだまだあるし、それに、このへんの魔物を狩れば報奨金が出るから、生活の心配はいらないから!!」
「そういうこと言ってんじゃねえわ!!」

 ヒイロは、ナチュラルにセインを養う気満々だった。彼の頭には、療養中のセインを働かせるという選択肢はないらしい。
 そのことが、セインの自尊心をわずかに傷つけた。

「……それだとさ、俺、完全にただのヒモみてえじゃねえか……」
「紐?」
「ああ……こっちにはそういう言葉ってねえの? じゃあなんつーんだ……? ニート? 穀潰し? ……要するに、恋人ぶってる相手に寄生して仕事もしねえクズ男のことだよ」

 自嘲し、わざと露悪的な言葉を選んで言えば、ヒイロは瞳を大きく見開く。

「なっ……!! セインは……セインはそんなんじゃないだろう!? だって、今までトップ冒険者として頑張ってきたのに! 理不尽に追放されて、奴隷に落とされて……、君には休息が必要なんだよ! 僕はただ、少しでもセインの力になりたくて……、恋人ぶるつもりだってないし……!!」
「……理不尽? はっ、どこまでお人好しなんだよ、おまえ。俺はおまえを殺すよう、犯罪者グループに依頼した。だから犯罪者になって、奴隷落ちした。その挙げ句、おまえに拾われてヒモやってるって……外聞悪すぎて笑えてくるよな」

 どこまでも自分を蔑むようなセインの言葉に、ヒイロは、今にも泣きそうな顔をしてしまう。
 慌てて、セインは言い繕った。
「……っ、わりぃ。おまえにそんなツラさせるつもりじゃなくて……、だ、だから、その。俺が言いたかったのは……。俺なんかのために金使うなんざ、馬鹿らしいだろ、って、それだけで……」

 おろおろとしながら紡いだ言葉は、紛れもなくセインの本心だ。
 それが伝わっているからこそ――ヒイロは、真っ直ぐに彼の瞳を覗き込み、言う。

「……馬鹿らしくなんか、ないよ」
「ヒイロ?」
「僕にとっては……セインが健やかでいてくれることが、なによりの幸せなんだ。その隣に、僕がいるのを許されたなら、なお幸福だと思ってる。『俺なんか』なんて言わないで? いくらセイン本人でも……セインを悪く言うのは、許さないよ」

 いつもよりも凛とした声は、それだけ、本気でヒイロが怒っているということなのだろう。
 セインの――征時の人生には、今まで、こんな奇特な人間は存在していなかった。征時セイン本人にすら、征時セインのことを悪く言われたくない、だなんて。そんなこと、二十年以上生きてきて、初めて言われた言葉だった。

「……お、おまえ、なんで……。なんで、そこまで俺に優しいんだよ!? なあ、この一週間でよくわかったろ!? お、おまえが惚れた、おまえを助けた『かっこいい冒険者のセイン』は偽物だ! 全部演技だ、カッコつけでしかねえんだよ!! ……ホントの俺にはなんにもない、ただの、な、何もできねえニートなのに……なんで……」

 ヒイロから向けられる愛の理由がわからなくて、恐ろしくて、セインは思わずうろたえてしまう。

 今の自分に、そんな価値があるとは思えなかった。誰かから特別に愛されるには、誰からも認められるような、素晴らしい人間にならなければいけないと思ってきた。それなのに。
 なにもできないありのままのセインに、ヒイロが、真摯に愛を囁くものだから。どんどん、それを拒めなくなっていく。

「たしかに最初は、君の虚像に憧れて、好きになったのかもしれないけど……。僕はずっと、本当のセインを知りたいなって思ってたんだよ」
「う、嘘だ……。なんで……」
「君のこと、知れば知るほど好きになるんだ。君と出会えて、君を好きになれて良かったって思ってる。たとえ、君が僕のことを嫌いだとしても……僕は一生君を愛するよ」

 ヒイロの、夕日のように輝くオレンジの瞳が、どこまでも真っ直ぐにセインを見つめている。
 紡がれた真摯な愛の言葉に、どこまでも真剣そのものな表情に――どくりと、セインの心臓が高鳴った。

「ッ~~!! べ、べつに! 嫌いだとは、言ってねえ……だろ!?」
「……え?」
「す、す、す、好き……とかぁ!? そういうあれじゃねえけどぉ!? おまえのストーカーじみたとことか、ガチでキショイけど!! でも!! ……きっ、嫌いじゃ……ねえ、から……」

 ――ばくばくと早くなる鼓動を誤魔化すように、セインが捻り出したのは、ツンデレにすらなりきれていない憎まれ口だった。
 好きじゃない、だの、キショイ、だの、散々な物言いはいつものこと。それよりも、耳まで真っ赤になった顔色が、落ち着かなさげにそらされる視線が、何よりも彼の本心を物語る。

「っ~~!! あ、ありがとう、セイン!! 僕も君のこと、大好きだよ!」
「だ、だからっ!! 嫌いじゃねえだけで、別に、す、す、好きじゃねえし……!?」

 感極まったヒイロがセインに抱きつく。言葉では邪険にしながらも、セインは、それを振り解くことなく……仕方がないと言わんばかりに、受け止めていたのだった。

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