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「セイン! 四時の方向に魔物反応、3体あるよ! 中型、属性不明!」
「おう! なら……風魔法でまとめて切り刻んどくか! 【ウインド・カッター】!!」
ヒイロが索敵魔法を仕掛け、数十メートル離れた先の、森の奥にいる魔物を発見する。すかさずセインが攻撃魔法を発動させた。
二人が、敵の反応があった場所にたどり着くと、そこには見事に急所を切り裂かれて絶命した猪に似た魔物が3体転がっている。
「さっすがセイン! 遠隔操作、しかも詠唱短縮で、一撃で仕留めちゃうなんて……!!」
「ま、まあな。このくらい、俺のチートがあれば当然だっての!! ……いや、まあ、おまえがやる気になればこんくらい余裕なんだろーけど……」
いつものようにセインを持ち上げるヒイロ。セインは調子に乗りかけるも、相手が自分以上のチート野郎だったことを思い出して失速する。
ちなみに、魔法を発動させるには長ったらしい詠唱が必要になるのだが、優れた使い手であれば技名を唱えるだけでも魔法を発動させられる。ヒイロが褒めていた『詠唱短縮』とはそのことだ。
「僕は攻撃より、索敵とか支援系の魔法のほうが得意だからね! 属性も、光属性の魔法しか使えないし……」
「そ、それこそ、やる気の問題だろ……。おまえのスペックなら、勉強したら全属性だって余裕のはずだ」
「セインがそうしてほしい、って言うなら頑張ってみようかな? あっ、でも、勉強でセインと過ごす時間が減るのは困っちゃうよ!?」
「はぁ、ったく……。おまえなー……」
この世界における魔法は、火、風、土、水、光、闇の6属性に分かれている。原作となるゲームでも、この世界でも、どの属性の魔法を覚えられるのかは本人の努力次第だ。多少の適正こそあれど、基本的には、使いたい魔法に対応する魔力を鍛えていけば、誰でも、どんな魔法も覚えられるようになっている。
そのため、原作ゲームにおいては、主人公や味方キャラをどのように育成し、どんな魔法を覚えさせるのか……というのが遊び方の醍醐味になっていた。
なお、光属性と闇属性の魔法は習得難易度が高く、他の属性の倍くらいの修練が必要になってくる。それ単体とはいえ、光属性を習得しているヒイロは、相当な努力家と言えるだろう。
ちなみにセインは火属性と風属性の魔法を使えるが、それらは転生した瞬間から使えていた完全なる借り物、文字通りのチート能力なので論外である。
とはいえ、努力家のヒイロも、今は魔法の習得よりもセインと過ごす時間のほうが大切らしい。
あまりにもブレない彼の態度に呆れつつも、セインはちょっとばかし喜んでいる。他の何よりも自分を大切にされるなど、彼の人生ではほとんど無かったことだからだ。
二人がいつもどおりに、ナチュラルにイチャついていると――がさっ、と茂みから音がした。
「っ!!」
すかさず、そちらを振り返ったヒイロが魔法を発動する。詠唱短縮の上位版、技名すら唱えない、無詠唱での発動。
茂みに向かい放たれたのは、光魔法によるビーム攻撃である。
ジュッ……と何かが焼けるような音がしたかと思うと、仕留められた魔物がふらふらと茂みから現れた。
二人の目の前で、核を残して蒸発していったのはスライム――この世界における最弱と言っていい雑魚魔物である。
「わ、びっくりした……。よかった、ただのスライムで!」
「……あのさぁ。無詠唱で、一番ムズい光属性バンバン打つやつが、なんで俺なんかの詠唱短縮にキャーキャー言うんだよ。マジ、意味わかんねえ……」
「だって、仕方ないだろ? 戦ってるセインはかっこいいんだもの……!」
「あー、もう、バカ。おまえ、ほんっとバカ……!!」
ほっと一息をつくヒイロを、セインは思わずジト目で睨んでしまうが、当人はどこ吹く風である。むしろ戦うセインがいかに魅力的かと語りだしかねない勢いだったので、セインも嫉妬どころではなく、頭を抱えるしかなくなってしまった。
あたりを警戒しつつ、森の奥に進む二人だが――ふと、セインが違和感を感じ取った。
「……つか、これ、あれじゃね? この先ってさあ……、魔物の巣じゃね? めっちゃ嫌な魔力感じるんだけど」
「あ、ほんとだ……。はやく駆除しないと危ないね」
二人が感じ取った気配は、そこそこ強力な魔物が何体も蠢いている様子であった。
普通、魔物の巣があると運良く気付けた人間は、血相を変えてその場から逃げ出すものである。腕に自信のある冒険者であっても、一度戻って装備を見直すのがセオリーだ。
なぜなら、彼らの巣ともなれば、ただでさえ危険な魔物が群れをなして生息する可能性が高いのだ。か弱い人間などゴミのように踏みつけられて即死、餌になること間違いなしなのである。
……だが、ここにいるのはチート転生者と、チート抜きにして最強な世界の主人公様だった。
「っしゃあ! 臨時収入だな!! おいヒイロ、攻撃魔法出し惜しみすんなよ!?」
「もちろん! 僕たちのスローライフのためだもんね! しっかり狩りは済ませないと……!」
二人は闘志を燃やして、颯爽と魔物の巣へと踏み込んでいった。
――そこにいたのは、強靭な鱗を持つ小型ドラゴンの群れだった。ドラゴンたちは、のこのこと現れた2つの獲物に舌なめずりして、我先にとばかりに一斉に襲いかかってくる。……が。
「……邪魔だッ、雑魚ども!! この俺の経験値とメシ代になりやがれぇッ!!」
「さあ……お掃除、頑張らないとね!!」
セインとヒイロが気合を入れて叫ぶ。それだけで、彼らの周囲に魔力が渦巻き、その気迫にドラゴンたちは威圧される。圧倒的な実力差があることを、野生のドラゴンたちは理解させられてしまったのだ。
自らは狩る側ではなく狩られる側なのだと理解したドラゴンたちは恐慌状態となり、錯乱しながら逃げ出そうとする。それを見逃す彼らではない。
「渦巻け業火……【ヘルフレイム】!!」
「そーれ!! なんかすごい光魔法っ!!」
セインの炎の魔法が、ヒイロの光の魔法が、それぞれドラゴンの群れを一気になぎ倒していく。
燃え盛る炎は一瞬で何匹ものドラゴンを蒸し焼きにして絶命させ、横凪の光線は、触れただけでドラゴンたちの首をはねていく。
逃げようとした端から二人の魔法に捕捉され、もはや、ドラゴンたちに逃げ場など存在していなかった。
「おまっ!? なんだそのテキトーな詠唱!? なんでそれで最上級魔法使えんだよっ!?」
「え? でも僕、昔からこうだし……」
「だ~ッ!! こ、これだから主人公サマは……!!」
いつもどおりの軽口をたたき、農作業や薪割りをするときとまったく同じトーンで、作業としてドラゴンを始末する二人。完全にオーバーキルであった。
化け物すぎる二人の全力もあり、この巣に生息していたドラゴンを狩り尽くすまでは5分もかからなかった。探索と称して山歩きをしていた時間のほうがよほど長い。
すっかりドラゴンを殺し尽くし――もちろん二人の魔法制御は完璧なので、ドラゴン以外の自然、森の木々などは無傷である――死体の山を目の前にして、セインは言う。
「さて……あとは素材剥ぎ取って終わりか。この作業がダルいんだよな……」
「さっき倒した猪魔物も解体しなきゃね。素材はそんなに売れないけど、お肉が美味しいって噂だよ!」
「マジ? なら今日はステーキだな! ……ちなみに、ドラゴンの肉って食えねえの?」
「うーん……加工したらいけなくはない、かも……? かなり硬くて食べにくいんだよね、栄養は豊富らしいんだけど……」
「なら、そこまでして食わなくてもいいか……? あ、でも、自給自足すんなら保存食にする手もあるんじゃねーの?」
他愛もない雑談をしつつ、二人はテキパキとドラゴンを解体し、売れる素材――この場合は牙と鱗だ――を回収していく。
二人とも、冒険者として活動していただけのことはあり、解体の手付きも慣れたものだ。
「そういや……おまえ一人で狩りしてた頃って、解体、どうしてたんだよ。その場で解体してたにしちゃあ、帰りが早すぎなかったか?」
「ああ……、面倒なときは、死体をまるごと空間収納にぶちこんだりしてたかな。あっ、もちろん、食料とかとは別の空間にね!? それで、暇なときに解体したり……」
「うっわ……。それ普通、容量オーバーで無理なんだよ!! どうなってんのおまえの空間収納!?」
「あ、あとは、雑に解体してもいい素材のときは、ほしい部分以外を光魔法で蒸発させたり……?」
「え、光魔法ってそんなんもできんの!?」
「うん、でも魔物によるんだよね……。相手が闇属性の魔物だと、素材ごと蒸発しちゃうみたいで……」
「……ってことは、今日の獲物には使えねえな。くっそ、楽できるかと思ったのによ~」
今日の獲物であるドラゴンは、闇属性のブラックドラゴンだ。猪魔物も闇属性だったので、光魔法でのスピード解体は難しそうである。
がっくりと肩を落としながらも、セインの解体ペースは変わらない。感心したようにヒイロが言う。
「セイン、ドラゴン捌くの上手だね?」
「ん~……それな。前よりなんか、サクサク斬れる気がするんだよな。……もしかして、唐揚げ作りの影響か!?」
「そんなことあるんだ!?」
「いや俺も半信半疑なんだが!?」
――まさか、こんなところで鶏肉を切りまくっていた成果が出るとは。二人はなんだかおかしくなって、顔を見合わせて吹き出していた。
けらけらと笑いながらも、二人は無事に魔物の素材を解体し、ついでに肉も空間収納へと放り込むことにした。猪魔物は今晩のおかずになるが、ドラゴン肉は、何かうまい調理法がないかと研究してみる予定である。
なお、剥ぎ取った素材は後日ヒイロが王都で換金して、二人の生活費に当てることになっていた。
「ドラゴン肉なぁ……。硬いんなら、いっそ、ジャーキーとかにして保存しちまえば? 栄養あるなら非常食にはぴったりだろ」
「元々硬いのに、ジャーキーにしたらもっと硬くならないかな……? むしろ、柔らかくなるまで煮込んでみる、とか……?」
「煮込み……っつーと、ビーフシチュー、みたいな? そろそろ寒くなってきたし、いいんじゃねえの」
「保存食にするのも悪くないとは思うんだよね、なにせ、量が量だし……。空間収納に入れておけば腐らないとはいえ、邪魔になるしさあ……」
「おまえの収納、容量ほぼ無限なのに何言ってんだよ……」
「それはそれとして整理整頓も必要なんだよ!? ……ほんとだって!!」
狩った大量の肉をどうしようかと話し合いつつ、二人は家である山小屋への道を仲良く歩く。
化け物レベルの凄腕冒険者とは思えない、穏やかで平和で、そして相思相愛のほのぼのカップルの姿がそこにはあった。
「おう! なら……風魔法でまとめて切り刻んどくか! 【ウインド・カッター】!!」
ヒイロが索敵魔法を仕掛け、数十メートル離れた先の、森の奥にいる魔物を発見する。すかさずセインが攻撃魔法を発動させた。
二人が、敵の反応があった場所にたどり着くと、そこには見事に急所を切り裂かれて絶命した猪に似た魔物が3体転がっている。
「さっすがセイン! 遠隔操作、しかも詠唱短縮で、一撃で仕留めちゃうなんて……!!」
「ま、まあな。このくらい、俺のチートがあれば当然だっての!! ……いや、まあ、おまえがやる気になればこんくらい余裕なんだろーけど……」
いつものようにセインを持ち上げるヒイロ。セインは調子に乗りかけるも、相手が自分以上のチート野郎だったことを思い出して失速する。
ちなみに、魔法を発動させるには長ったらしい詠唱が必要になるのだが、優れた使い手であれば技名を唱えるだけでも魔法を発動させられる。ヒイロが褒めていた『詠唱短縮』とはそのことだ。
「僕は攻撃より、索敵とか支援系の魔法のほうが得意だからね! 属性も、光属性の魔法しか使えないし……」
「そ、それこそ、やる気の問題だろ……。おまえのスペックなら、勉強したら全属性だって余裕のはずだ」
「セインがそうしてほしい、って言うなら頑張ってみようかな? あっ、でも、勉強でセインと過ごす時間が減るのは困っちゃうよ!?」
「はぁ、ったく……。おまえなー……」
この世界における魔法は、火、風、土、水、光、闇の6属性に分かれている。原作となるゲームでも、この世界でも、どの属性の魔法を覚えられるのかは本人の努力次第だ。多少の適正こそあれど、基本的には、使いたい魔法に対応する魔力を鍛えていけば、誰でも、どんな魔法も覚えられるようになっている。
そのため、原作ゲームにおいては、主人公や味方キャラをどのように育成し、どんな魔法を覚えさせるのか……というのが遊び方の醍醐味になっていた。
なお、光属性と闇属性の魔法は習得難易度が高く、他の属性の倍くらいの修練が必要になってくる。それ単体とはいえ、光属性を習得しているヒイロは、相当な努力家と言えるだろう。
ちなみにセインは火属性と風属性の魔法を使えるが、それらは転生した瞬間から使えていた完全なる借り物、文字通りのチート能力なので論外である。
とはいえ、努力家のヒイロも、今は魔法の習得よりもセインと過ごす時間のほうが大切らしい。
あまりにもブレない彼の態度に呆れつつも、セインはちょっとばかし喜んでいる。他の何よりも自分を大切にされるなど、彼の人生ではほとんど無かったことだからだ。
二人がいつもどおりに、ナチュラルにイチャついていると――がさっ、と茂みから音がした。
「っ!!」
すかさず、そちらを振り返ったヒイロが魔法を発動する。詠唱短縮の上位版、技名すら唱えない、無詠唱での発動。
茂みに向かい放たれたのは、光魔法によるビーム攻撃である。
ジュッ……と何かが焼けるような音がしたかと思うと、仕留められた魔物がふらふらと茂みから現れた。
二人の目の前で、核を残して蒸発していったのはスライム――この世界における最弱と言っていい雑魚魔物である。
「わ、びっくりした……。よかった、ただのスライムで!」
「……あのさぁ。無詠唱で、一番ムズい光属性バンバン打つやつが、なんで俺なんかの詠唱短縮にキャーキャー言うんだよ。マジ、意味わかんねえ……」
「だって、仕方ないだろ? 戦ってるセインはかっこいいんだもの……!」
「あー、もう、バカ。おまえ、ほんっとバカ……!!」
ほっと一息をつくヒイロを、セインは思わずジト目で睨んでしまうが、当人はどこ吹く風である。むしろ戦うセインがいかに魅力的かと語りだしかねない勢いだったので、セインも嫉妬どころではなく、頭を抱えるしかなくなってしまった。
あたりを警戒しつつ、森の奥に進む二人だが――ふと、セインが違和感を感じ取った。
「……つか、これ、あれじゃね? この先ってさあ……、魔物の巣じゃね? めっちゃ嫌な魔力感じるんだけど」
「あ、ほんとだ……。はやく駆除しないと危ないね」
二人が感じ取った気配は、そこそこ強力な魔物が何体も蠢いている様子であった。
普通、魔物の巣があると運良く気付けた人間は、血相を変えてその場から逃げ出すものである。腕に自信のある冒険者であっても、一度戻って装備を見直すのがセオリーだ。
なぜなら、彼らの巣ともなれば、ただでさえ危険な魔物が群れをなして生息する可能性が高いのだ。か弱い人間などゴミのように踏みつけられて即死、餌になること間違いなしなのである。
……だが、ここにいるのはチート転生者と、チート抜きにして最強な世界の主人公様だった。
「っしゃあ! 臨時収入だな!! おいヒイロ、攻撃魔法出し惜しみすんなよ!?」
「もちろん! 僕たちのスローライフのためだもんね! しっかり狩りは済ませないと……!」
二人は闘志を燃やして、颯爽と魔物の巣へと踏み込んでいった。
――そこにいたのは、強靭な鱗を持つ小型ドラゴンの群れだった。ドラゴンたちは、のこのこと現れた2つの獲物に舌なめずりして、我先にとばかりに一斉に襲いかかってくる。……が。
「……邪魔だッ、雑魚ども!! この俺の経験値とメシ代になりやがれぇッ!!」
「さあ……お掃除、頑張らないとね!!」
セインとヒイロが気合を入れて叫ぶ。それだけで、彼らの周囲に魔力が渦巻き、その気迫にドラゴンたちは威圧される。圧倒的な実力差があることを、野生のドラゴンたちは理解させられてしまったのだ。
自らは狩る側ではなく狩られる側なのだと理解したドラゴンたちは恐慌状態となり、錯乱しながら逃げ出そうとする。それを見逃す彼らではない。
「渦巻け業火……【ヘルフレイム】!!」
「そーれ!! なんかすごい光魔法っ!!」
セインの炎の魔法が、ヒイロの光の魔法が、それぞれドラゴンの群れを一気になぎ倒していく。
燃え盛る炎は一瞬で何匹ものドラゴンを蒸し焼きにして絶命させ、横凪の光線は、触れただけでドラゴンたちの首をはねていく。
逃げようとした端から二人の魔法に捕捉され、もはや、ドラゴンたちに逃げ場など存在していなかった。
「おまっ!? なんだそのテキトーな詠唱!? なんでそれで最上級魔法使えんだよっ!?」
「え? でも僕、昔からこうだし……」
「だ~ッ!! こ、これだから主人公サマは……!!」
いつもどおりの軽口をたたき、農作業や薪割りをするときとまったく同じトーンで、作業としてドラゴンを始末する二人。完全にオーバーキルであった。
化け物すぎる二人の全力もあり、この巣に生息していたドラゴンを狩り尽くすまでは5分もかからなかった。探索と称して山歩きをしていた時間のほうがよほど長い。
すっかりドラゴンを殺し尽くし――もちろん二人の魔法制御は完璧なので、ドラゴン以外の自然、森の木々などは無傷である――死体の山を目の前にして、セインは言う。
「さて……あとは素材剥ぎ取って終わりか。この作業がダルいんだよな……」
「さっき倒した猪魔物も解体しなきゃね。素材はそんなに売れないけど、お肉が美味しいって噂だよ!」
「マジ? なら今日はステーキだな! ……ちなみに、ドラゴンの肉って食えねえの?」
「うーん……加工したらいけなくはない、かも……? かなり硬くて食べにくいんだよね、栄養は豊富らしいんだけど……」
「なら、そこまでして食わなくてもいいか……? あ、でも、自給自足すんなら保存食にする手もあるんじゃねーの?」
他愛もない雑談をしつつ、二人はテキパキとドラゴンを解体し、売れる素材――この場合は牙と鱗だ――を回収していく。
二人とも、冒険者として活動していただけのことはあり、解体の手付きも慣れたものだ。
「そういや……おまえ一人で狩りしてた頃って、解体、どうしてたんだよ。その場で解体してたにしちゃあ、帰りが早すぎなかったか?」
「ああ……、面倒なときは、死体をまるごと空間収納にぶちこんだりしてたかな。あっ、もちろん、食料とかとは別の空間にね!? それで、暇なときに解体したり……」
「うっわ……。それ普通、容量オーバーで無理なんだよ!! どうなってんのおまえの空間収納!?」
「あ、あとは、雑に解体してもいい素材のときは、ほしい部分以外を光魔法で蒸発させたり……?」
「え、光魔法ってそんなんもできんの!?」
「うん、でも魔物によるんだよね……。相手が闇属性の魔物だと、素材ごと蒸発しちゃうみたいで……」
「……ってことは、今日の獲物には使えねえな。くっそ、楽できるかと思ったのによ~」
今日の獲物であるドラゴンは、闇属性のブラックドラゴンだ。猪魔物も闇属性だったので、光魔法でのスピード解体は難しそうである。
がっくりと肩を落としながらも、セインの解体ペースは変わらない。感心したようにヒイロが言う。
「セイン、ドラゴン捌くの上手だね?」
「ん~……それな。前よりなんか、サクサク斬れる気がするんだよな。……もしかして、唐揚げ作りの影響か!?」
「そんなことあるんだ!?」
「いや俺も半信半疑なんだが!?」
――まさか、こんなところで鶏肉を切りまくっていた成果が出るとは。二人はなんだかおかしくなって、顔を見合わせて吹き出していた。
けらけらと笑いながらも、二人は無事に魔物の素材を解体し、ついでに肉も空間収納へと放り込むことにした。猪魔物は今晩のおかずになるが、ドラゴン肉は、何かうまい調理法がないかと研究してみる予定である。
なお、剥ぎ取った素材は後日ヒイロが王都で換金して、二人の生活費に当てることになっていた。
「ドラゴン肉なぁ……。硬いんなら、いっそ、ジャーキーとかにして保存しちまえば? 栄養あるなら非常食にはぴったりだろ」
「元々硬いのに、ジャーキーにしたらもっと硬くならないかな……? むしろ、柔らかくなるまで煮込んでみる、とか……?」
「煮込み……っつーと、ビーフシチュー、みたいな? そろそろ寒くなってきたし、いいんじゃねえの」
「保存食にするのも悪くないとは思うんだよね、なにせ、量が量だし……。空間収納に入れておけば腐らないとはいえ、邪魔になるしさあ……」
「おまえの収納、容量ほぼ無限なのに何言ってんだよ……」
「それはそれとして整理整頓も必要なんだよ!? ……ほんとだって!!」
狩った大量の肉をどうしようかと話し合いつつ、二人は家である山小屋への道を仲良く歩く。
化け物レベルの凄腕冒険者とは思えない、穏やかで平和で、そして相思相愛のほのぼのカップルの姿がそこにはあった。
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