ざまぁされた小悪党の俺が、主人公様と過ごす溺愛スローライフ!?

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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「だから君は安心して、君らしく……のびのびと生きてほしい。それだけが、僕の望みなんだ」

 ヒイロの『過去』を、あまりにも壮絶な打ち明け話を聞いた征時は、呆然としていた。
 その話のスケールの大きさだとか、ヒイロの覚悟の重さだとか、そういうものに打ちのめされ、何を言えばいいかもわからなくなっていたのだ。

「……本当は、さ。セージと両思いになったときに、この話をするべきだったんだと思う。けど……、君と、心が通じあえたのが嬉しくて。こんな資格僕にはない、ってわかっていながら、ついつい、打ち明けるのを先延ばしにしちゃったんだ」
「…………うん、」

 ヒイロは、彼らしくもなくおどおどとした調子で言葉を紡ぐ。

「本当は……、僕は、卑劣なヤツで。何人もの君を見殺しにして、君の心を殺してなお、君のそばにいたいと思ってしまうような、自分勝手なやつで。さっきだって……僕の力を見られたから、君の記憶を、勝手に消したりして……、」
「…………おまえの気持ちも、事情もわかった。けどよ!!」

 自分はセインに、征時にふさわしくないのではないか。こんな自分が彼の側にいていいのだろうか。
 そんな迷いの言葉を出そうとするヒイロを、征時は大声で遮った。

「おっ、俺の……俺の気持ちは無視すんのかよ!! さ、さっきから聞いてりゃ、幻滅される~だの、資格がない~だの、か、勝手にウジウジしてんじゃねえ!!」
「……セージ?」
「おまえにとって俺は、セインの……おまえが救えなかった『セインたち』の身代わりなのか!? ……んなわけねえよなぁ!? い、いいか、おまえの目の前にいるのは!! おまえのこいっ、恋人に、なったのは!! おまえに拾われて、救われた俺だ! 一緒に婆さんの唐揚げ作ったり、農作業したり、薪割りしたりしてスローライフしてた俺だ!! ……俺が、本当はセインじゃなくて佐出征時だって、はじめて打ち明けた俺なんだよ!!」

 征時は、らしくもない大声で、彼らしくもなく『愛された』自信に満ちた声で、ヒイロを真っ直ぐに見つめて叫ぶ。

「お、おまえが、俺の恋人だって言うなら! セインじゃなくて俺を見ろ!! こ、この……っ、浮気者ーっ!!」

 渾身の叫びに、ヒイロは、目をぱちくりと瞬かせた。
「……セージ、もしかして……慰めてくれてる?」
「う、うるせえ!! そうじゃねえ、あ、いや、もちろんそれもあるんだけど……、そうじゃなくてっ!!」

 今ばかりは、征時のツンデレも休業らしい。
 ヒイロが彼らしくもなく落ち込んでいるのに気づいたからだろう、その声色はどこか優しかった。

「いいか、そもそもおまえに幻滅するなら、最初っからしてるに決まってるだろ!! お、おまえがストーカー野郎なのは今更だし! むしろ……、そ、そんなに、何度も人生やり直すくらい好かれてた、とか……正直嬉しいし……?」
「……え? ひ、引かないの……? ぼ、僕、自分でも正直……、その、これは怖がられても仕方ないよなぁって、思ってたんだけど……?」
「おまえがキショイのはいつものことだろ!? 気にしねえっつーの!!」

 人によっては、ヒイロの愛を重たいと恐れたのかもしれない。けれど――愛されてこなかった征時にとっては、愛に飢えていた彼にとっては、ヒイロの、ちょっとおかしな距離の詰め方がちょうど良かった。
 何度も人生をやり直すほどに愛されている、と聞いて、嬉しくなってしまうほどには、征時はヒイロを好きになっていたのである。

「……けど、そうまでして頑張って、俺のこと助けたくせに。いなくなっちまった、お、おまえと恋人でもねえ過去の俺のことばっか考えてんなら……それはなんか、ムカつく……。お、俺は、おまえの目の前にいるのに、って」
「っ……! ご、ごめん、セージ!! 僕、そんなつもりは……」
「……わかってるよ。忘れろ、とは言わねえ。けど、見るなら俺だけに……してほしい……。む、昔の俺のこと気にして、俺と付き合わないとかアホ抜かすなら、許さねー……」

 先程までの勢いはどこへやら。やはり照れが出てきてしまったのか、後半は、ぼそぼそとした小さな声になりそう言うと……征時はヒイロにぎゅっ、と抱きついた。
 ちょうど、ヒイロの体がすっぽりと、彼の逞しい体に包まれてしまうような塩梅である。

 恐る恐る、ヒイロも腕を伸ばし、征時に抱きつく。逞しい腕に抱かれていると、なんだか無性に安心して。涙がこぼれそうになっていた。

「セージ……。ごめん、本当、ごめん……。僕らしくなかったね」
「そ、そーだよ!! お、おまえは、アホ犬みてーに俺のこと好き好き言ってりゃいいの!!」
「ええ!? アホ犬って……いくらなんでも酷くないか!?」
「じ、事実だろーが!!」

 ぐすぐすと溢れる涙を拭い、ヒイロは笑う。普段通りの軽口が、不思議と胸に染み込んだ。
(ああ……。僕、セージの、彼の側にいていいんだ。僕たち……恋人同士、なんだから……)

 征時には過去の記憶がないとわかっている。それでも、過去ではなく今を見ろと、他ならぬ彼に言われて許されたことが嬉しかった。
 過去の自分に妬くほどに、征時が己を愛していることが嬉しかった。

 今度こそ、間違えずにこの幸福を守るのだと、ヒイロは強く心に誓う。……しかし。

「……でさ、さっきの話、ちょっと気になることがあったんだけどよ……」
 ふいに、征時から向けられたその言葉に、ヒイロは固くなってしまう。

「っ、ぁ、やっぱり……? じ、自分を殺した相手とか……怖いよね、気になるよね……?」
「いやそこはいい。おまえが今の俺を殺すとかありえねーし、そんときの俺に付き合ってくれただけだろ。全然気にしてねーよ。……そっちじゃ、なくて」
「え……!? き、気にしない、の……?」
 ヒイロがなによりも気に病んでいたことを、征時は大したことではないと言う。その言葉に、ヒイロがどれだけ救われるかにも気付かず、あっさりと。

 ならばいったいなんの話だろう、と、ヒイロが身を強張らせていると、征時は、どこかソワソワした様子で……頬を赤らめて、問いかけた。

「おまえ……、前の俺と、っつーか、俺のフリした疑似人格と、せっ、セックスしたの?」
「ッ!?」

 責められているのだ、と、ヒイロは思った。

 たしかにあれは、セインからしたら強姦も同然だったかもしれない。気付いていなかった、なんて、言い訳にもならないことだ。
 もしや征時にも同様に、性行為を強要するような男だと疑われているのだろうかと。大慌てで、ヒイロは弁解する。

「ごめん……セージ!! あのときは、相手が疑似人格だとも、本当の君が嫌がってることも、気づいてなくて……。その、恋人同士で、合意していたつもりだったんだ……」
「ふぅう~ん? 恋人同士ならセックスすんだ? ……俺とは、まだキスしかしてねーのに?」
「えっ……!?」

 その言葉に、ヒイロも何かがおかしいと気づく。
 行為自体を責められている、のではないようだ。むしろこれは――まるで、嫉妬のような?

 都合のいい考えが頭に浮かぶが、そんなはずはない、と振り払う。

「だ、だっ……て、その……。前のこともあるし……、き、君が僕を好き、って思ってくれてるのも、いつか、変わるかもしれないだろ? ……だから、僕が君を汚すわけには」
「俺が汚される方なワケだ? いったいどんな妄想してんだよ、えぇ?」
「ちっ……! ちがっ! 違うって!! ごめんっ、ふ、不愉快なら謝るし、なんでもするから……!!」

 だから許してくれ、と、そう告げるはずだった。
 けれど、その言葉を聞いた征時は、悪巧みをするかのようににんまりと笑って。

「……今、なんでもするっつったよな♡」
「あ、あの……? セージ、さん……?」
「よし、ヒイロ!! おまえ……俺とセックスしろ!!」
「え……、えぇええ~~ッ!?」

 満面の笑みで、まさかの爆弾発言をかましたのであった。
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