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嫉妬型ヤンデレ、八雲チアキの場合
①-4
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まだ壊されていない校舎の屋上では、魔法少女――ノブユキと、チャイナ服の闇の魔法使いとが戦いを続けていた。
「ぐ……っ!! さっさとそこを退け!! はやく、怪物を浄化しないと……!」
「悪いな! そう簡単に浄化されるわけにゃいかねーんだ! おとなしくそこで寝てろよッ、オラァ!!」
(ッ!! しまった、やられ――)
チャイナの男の拳がノブユキを襲う。咄嗟に目を閉じる――も、なぜか、衝撃は襲ってこない。どういうことだとノブユキが目を開けると、そこには、先程まで影も形もなかったはずの第三の人物が現れていた。
「なっ……!?」
二人の間に割って入り、闇の魔法使いの攻撃を受け止めた男は、ノブユキを見るや否やその身を姫抱きで抱えて飛び上がる。
「……先輩っ!!」
「うわっ……!? お、おい、何をする!?」
「え? 先輩がピンチだったので……とりあえず安全な所にお連れしようかと」
ノブユキの怪訝そうな顔には気付かず、男は、空を飛行しながらチャイナ服の魔法使いを睨みつけた。
「あの男……ッ、よくも、おれの先輩を傷付けやがって……!!」
「ッ、どういうことだ……!? そもそもおまえは何者だ!? その姿からして、闇の魔法使いの……ヤンデリオの一味なんだろう!?」
「……えっ?」
そこまで言われてようやく男――変身した八雲チアキは、己の変化に気がついた。ノブユキの瞳に映った姿は、普段のチアキとはすっかり雰囲気の変わった凛々しい男。ほんのり面影こそあれど、パッと見で同一人物だとは誰も気づけないだろう。
(なんだよこの姿!? そういやおれ、なんで瞬間移動とか空飛んだりとかできてんの!? さっきはカッとなって、何したかあんま覚えてないんだけど……まさか、闇の魔法使いになっちゃったってことなのか!?)
愕然とするチアキのことを、不審そうにノブユキは睨んでいる。彼からすれば敵の新手なのだから当然だろう。
「……妙な奴だな。おまえの目的はなんだ?」
「も、目的? おれの……目的は……」
いつもならば絶対にチアキに向けることのない、厳しい視線。なによりもノブユキを姫抱きしている今の状況。その全てが非現実的で、どこか夢の中にいるような心地で、彼は考える。
(先輩……、いつもなら、絶対おれにあんなカオしない。あんなふうに鮮烈な目で見てくれない……。こんなこと思っちゃいけないのに、どうしよう、おれ、嬉しくなっちゃってる……♡)
八雲チアキとして認識されていない今ならば、と、自然とチアキの口が動く。
「おれの……目的は。先輩を、貴方を愛することです。ごめんなさい、好きです……好きなんです、先輩……」
「は……!?」
「おれは貴方のためにあります、貴方を守りたいんです、貴方が好きなんです。貴方を……愛したくて、おれは……!」
呆気にとられるノブユキに構わず――構うことすらできず、チアキは思いを吐き出していく。止めることができなかった。なにかに追い立てられるように、一方的な愛の告白を紡ぎ続ける。
(ああ……そっか、そうなのか。おれ、あの悪者たちと同じなのか? 先輩の都合も気にせず、一方的に好き好き言って……きっと気持ち悪がられる、嫌われる。……でも、我慢できない。ほんとは、ずっとずっと言いたかった。後輩ですらいられなくのが嫌で、我慢してた。でも今なら、いつものおれじゃない姿なら……壊れる関係がそもそもないのなら、怖がる必要も、隠す必要もなくなるんだ……!)
思考は理性を置き去りにして、狂気的なまでの熱に浮かされる。抑え込んできた感情が、隠し通そうとしてきた恋慕が爆発する。『チアキではない別人』となった今ならば思いを隠す必要もなくなると、チグハグに歪んだ意識は加速して、彼の口から言葉を吐き出していく。
「愛してるんです、先輩。貴方はおれの全てなんだ。ずっと、ずっとこうして……触れられる日を待っていた……」
「い、いきなり何を言ってるんだ!? 俺は魔法少女なんて名乗っているが、見ての通り男だぞ……!?」
「知ってます。魔法少女なんかどうでもいい、おれが好きなのは本当の貴方です、晶水ノブユキ先輩……!!」
「っ……!?」
唐突な愛の告白に、ノブユキの表情が恐怖に歪む。そうだろうなと自嘲しながらも、チアキは、彼に言い寄ることを辞めようとは思えなかった。
「やっぱり、おれの愛は……先輩を苦しめるんですよね」
「な、なんのことなんだ、さっきから……! 俺はおまえなんか知らないぞ!? 見ず知らずの男、しかも闇の魔法使いにいきなりこんな……告白なんかされても、どうしていいか……!」
「……そう、ですよね。先輩は知らないんだ……おれがどんな気持ちで貴方を見てきたのか」
ノブユキの言葉を曲解していることにも気付かず、チアキは、歪に口角を吊り上げた。
「ずっと、ずっと見てました。先輩は知らないでしょうけど。時間の許す限りずっと、密かに、貴方を思ってました……」
「まさか、ストーカー、か……?」
「……そう思われても、仕方ないと思います」
闇の魔法使いの言葉を聞いて、ノブユキが動いた。顔面目掛けての本気のパンチ。一瞬、目が眩んで力が抜けた隙を突き、彼の腕の中から抜け出すと踵落としで攻撃する。チアキの体が、上空から一気に地面へと叩きつけられる。
魔法少女の力なのか、ふわりと浮遊しながら着地したノブユキは、地に伏す彼を冷たく見下ろす。
「……一応、防護の魔法を張った。怪我はないはずだ。悪党とはいえ、大怪我をさせるのは後味が悪いからな」
「っ!! ノブ、せんぱ……」
「悪いが、おまえの気持ちには応えられないし、気安く呼ばれる筋合いもない」
その視線は、決して『八雲チアキ』には向けられないもの。心優しいノブユキが後輩相手に向けるはずのない、鋭い敵意のこもった眼差しだ。
しかし、愛とは真逆の感情を向けられてさえ、チアキの心はときめきを感じていた。それが悪感情であれど、単なる『後輩』という有象無象ではない扱いをされたことに、甘ったるい幸福感がこみ上げてくる。
(先輩が……先輩がおれだけを見てくれた……。蹴られたところがズキズキ痛い、のに、嬉しい……♡ 駄目なのに……こんなの、間違ってるのに……)
己がどこかおかしくなっている自覚は彼自身にもあった。わかっているのに、止まることができない。自分自身をコントロールする術がわからないのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい、先輩……♡」
「……いいか、闇の魔法使い。助けてもらった借りは返す、だから、今回は見逃してやる。でも次はない。俺は、おまえたちの悪行を許さない」
ノブユキは再び、チアキを睨む。彼にとってチアキ――新手の闇の魔法使いは、間違いなく敵として認識されたことだろう。
「俺は今から、あの怪物を浄化する。邪魔をするならおまえごと倒す」
「ま、待ってくださいっ、先輩!! 邪魔なんかするわけないじゃないですか!!」
「……なんだと?」
「おれは先輩が好きなだけです、貴方のためにおれはあるんです!! だから……」
これ以上誤解されてはいけない、ノブユキに好かれることは無くても、彼を邪魔するような連中と同じだと思われたくはない――と、狂気に染まった思考の中でも辛うじて残る理性が告げた。
チアキはなんとか立ち上がると、子供のように無邪気な笑顔で笑う。
「……汚名返上させてください! 今から、先輩に近付いた挙げ句邪魔したクソ野郎どもに、ちょっとお仕置きしてきますから♡」
そう言って、彼は無意識のうちに魔法を使い、その場から跡形もなく消え失せていた。
*
チアキが使ったのは瞬間移動の魔法だった。まばたき一つする瞬間にノブユキの元を去り、チャイナ服の魔法使いのいる屋上までワープしてくると、殺気を隠しもせずに相手を睨みつける。
都合の良いことに、先程チアキを変身させた、シルクハットの中年魔法使いも同じ場所に集まってきていた。
チャイナ服の魔法使いはへらりとした笑顔で、チアキに向かい歩み寄ってくる。
「さっきは邪魔して悪かったよ! おまえすげーな、変身していきなり魔法使うとか。オレだって使いこなすにはけっこー時間かかったのに――」
「……おまえのことなんかどうでもいい。よくも……よくも、先輩に攻撃を……!!」
友好的に近付いてきた男を、チアキは情け容赦なく蹴り飛ばす。
「ぐぁ゛っ……!? てめェッ、いきなり何すんだよ!?」
「おまえが悪いんだ、先輩に近づいて……しかも先輩の邪魔までして。絶対、許さない」
「っ、危ない、ファナティック君!!」
シルクハットの魔法使いが声を上げるも、チャイナ服の男の回避は間に合わない。魔法の炎を纏った拳が、男の鳩尾にめり込んだ。
がくりと倒れ込むチャイナ服の男には見向きもせず、チアキはくるりとターンしながら、もう一人の魔法使いへと蹴りを食らわせる。
「……おまえも、先輩の敵だって言うならおれの敵だ!!」
「ぐぅ……ッ!! なかなかやりますね、八雲くん……」
苦々しげに顔をしかめたシルクハットの男は、諭すような声でチアキに言う。
「力を得て昂ぶるのは大いに結構ですが……、少し、礼儀知らずではありませんか? 誰のおかげでその力を得たと思っているのです。言ったでしょう、我々は仲間だと――君の意思がどうあれ、君は、私達と同じ闇の魔法使いになったのですから」
「そんなの、どうでもいい」
「う゛ッ、ぐぅう……!?」
しかし、男の言葉を拒絶するように、チアキは魔法による攻撃の手を緩めない。その顔には恍惚とした笑みが浮かんでいた。
「誰がくれた力であれ……おれの力なら。これは、先輩を守る力だろ……♡」
チアキの魔法――炎の塊のようなものを立て続けに降らせる攻撃に、二人の闇の魔法使いは逃げ惑う他にない。
「チィっ……!! おい、先生っ! 話が違うじゃねーか!? あいつ、なんで仲間になったのに攻撃してきてんの!?」
慌てふためくチャイナ服の男とは対照的に、先生と呼ばれたシルクハットの男は冷静だ。チアキの様子を伺いながらも、なにやら魔法の準備をしているようだった。
「……彼は、まだ目覚めたばかりですから。力も自我も不安定なのでしょう。ボスのお力を借りれば落ち着きますよ」
「ならさっさとボスんとこに連れてこーぜ! このままだと最悪オレら死ぬぞ!?」
「はは……たしかに、冗談にならない勢いですものねえ。転移の魔法の発動準備をお願いします。彼の捕縛は、私が」
「りょーかいっ! ヘマすんなよ!!」
チャイナの男に指示を出した瞬間、『先生』の手の中に鎖が生み出されていく。禍々しいオーラをまとったソレを空に放れば、チアキめがけて一直線に飛びつき、抵抗する体を難なく縛り上げた。
「うわぁあッ!? この……っ、何するんだよ!?」
「……捕まえましたよ、八雲くん」
「ぐ、ぅう……!! なんだよこれっ!? くそ、力……抜けて……ッ」
鎖に触れた瞬間に、チアキの全身から力が抜けていく。なんとか逃れようともがいてみせるが、その動きもどこか弱々しい。
「わりぃっ、八雲!! 文句はあとで聞いてやっから!!」
「少し、おとなしくしていてください……我らがボスの元に参りましょう」
地面になにやら書き込んでいたチャイナ服の魔法使いが声を上げる。足元でぼうっと発光していたのは、アニメや漫画で見る魔法陣のような紋様だった。
魔法使い二人に引きずられ、チアキが紋様のサークル内へと連れて行かれた瞬間、足元の光がよりいっそう強く輝き出す。エレベーターで急降下していくときのような、鈍い重さに体を引っ張られるような感覚がチアキを襲った。
(だ、駄目だ……ッ、意識が……)
「ぐ……っ!! さっさとそこを退け!! はやく、怪物を浄化しないと……!」
「悪いな! そう簡単に浄化されるわけにゃいかねーんだ! おとなしくそこで寝てろよッ、オラァ!!」
(ッ!! しまった、やられ――)
チャイナの男の拳がノブユキを襲う。咄嗟に目を閉じる――も、なぜか、衝撃は襲ってこない。どういうことだとノブユキが目を開けると、そこには、先程まで影も形もなかったはずの第三の人物が現れていた。
「なっ……!?」
二人の間に割って入り、闇の魔法使いの攻撃を受け止めた男は、ノブユキを見るや否やその身を姫抱きで抱えて飛び上がる。
「……先輩っ!!」
「うわっ……!? お、おい、何をする!?」
「え? 先輩がピンチだったので……とりあえず安全な所にお連れしようかと」
ノブユキの怪訝そうな顔には気付かず、男は、空を飛行しながらチャイナ服の魔法使いを睨みつけた。
「あの男……ッ、よくも、おれの先輩を傷付けやがって……!!」
「ッ、どういうことだ……!? そもそもおまえは何者だ!? その姿からして、闇の魔法使いの……ヤンデリオの一味なんだろう!?」
「……えっ?」
そこまで言われてようやく男――変身した八雲チアキは、己の変化に気がついた。ノブユキの瞳に映った姿は、普段のチアキとはすっかり雰囲気の変わった凛々しい男。ほんのり面影こそあれど、パッと見で同一人物だとは誰も気づけないだろう。
(なんだよこの姿!? そういやおれ、なんで瞬間移動とか空飛んだりとかできてんの!? さっきはカッとなって、何したかあんま覚えてないんだけど……まさか、闇の魔法使いになっちゃったってことなのか!?)
愕然とするチアキのことを、不審そうにノブユキは睨んでいる。彼からすれば敵の新手なのだから当然だろう。
「……妙な奴だな。おまえの目的はなんだ?」
「も、目的? おれの……目的は……」
いつもならば絶対にチアキに向けることのない、厳しい視線。なによりもノブユキを姫抱きしている今の状況。その全てが非現実的で、どこか夢の中にいるような心地で、彼は考える。
(先輩……、いつもなら、絶対おれにあんなカオしない。あんなふうに鮮烈な目で見てくれない……。こんなこと思っちゃいけないのに、どうしよう、おれ、嬉しくなっちゃってる……♡)
八雲チアキとして認識されていない今ならば、と、自然とチアキの口が動く。
「おれの……目的は。先輩を、貴方を愛することです。ごめんなさい、好きです……好きなんです、先輩……」
「は……!?」
「おれは貴方のためにあります、貴方を守りたいんです、貴方が好きなんです。貴方を……愛したくて、おれは……!」
呆気にとられるノブユキに構わず――構うことすらできず、チアキは思いを吐き出していく。止めることができなかった。なにかに追い立てられるように、一方的な愛の告白を紡ぎ続ける。
(ああ……そっか、そうなのか。おれ、あの悪者たちと同じなのか? 先輩の都合も気にせず、一方的に好き好き言って……きっと気持ち悪がられる、嫌われる。……でも、我慢できない。ほんとは、ずっとずっと言いたかった。後輩ですらいられなくのが嫌で、我慢してた。でも今なら、いつものおれじゃない姿なら……壊れる関係がそもそもないのなら、怖がる必要も、隠す必要もなくなるんだ……!)
思考は理性を置き去りにして、狂気的なまでの熱に浮かされる。抑え込んできた感情が、隠し通そうとしてきた恋慕が爆発する。『チアキではない別人』となった今ならば思いを隠す必要もなくなると、チグハグに歪んだ意識は加速して、彼の口から言葉を吐き出していく。
「愛してるんです、先輩。貴方はおれの全てなんだ。ずっと、ずっとこうして……触れられる日を待っていた……」
「い、いきなり何を言ってるんだ!? 俺は魔法少女なんて名乗っているが、見ての通り男だぞ……!?」
「知ってます。魔法少女なんかどうでもいい、おれが好きなのは本当の貴方です、晶水ノブユキ先輩……!!」
「っ……!?」
唐突な愛の告白に、ノブユキの表情が恐怖に歪む。そうだろうなと自嘲しながらも、チアキは、彼に言い寄ることを辞めようとは思えなかった。
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「な、なんのことなんだ、さっきから……! 俺はおまえなんか知らないぞ!? 見ず知らずの男、しかも闇の魔法使いにいきなりこんな……告白なんかされても、どうしていいか……!」
「……そう、ですよね。先輩は知らないんだ……おれがどんな気持ちで貴方を見てきたのか」
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「ずっと、ずっと見てました。先輩は知らないでしょうけど。時間の許す限りずっと、密かに、貴方を思ってました……」
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「……そう思われても、仕方ないと思います」
闇の魔法使いの言葉を聞いて、ノブユキが動いた。顔面目掛けての本気のパンチ。一瞬、目が眩んで力が抜けた隙を突き、彼の腕の中から抜け出すと踵落としで攻撃する。チアキの体が、上空から一気に地面へと叩きつけられる。
魔法少女の力なのか、ふわりと浮遊しながら着地したノブユキは、地に伏す彼を冷たく見下ろす。
「……一応、防護の魔法を張った。怪我はないはずだ。悪党とはいえ、大怪我をさせるのは後味が悪いからな」
「っ!! ノブ、せんぱ……」
「悪いが、おまえの気持ちには応えられないし、気安く呼ばれる筋合いもない」
その視線は、決して『八雲チアキ』には向けられないもの。心優しいノブユキが後輩相手に向けるはずのない、鋭い敵意のこもった眼差しだ。
しかし、愛とは真逆の感情を向けられてさえ、チアキの心はときめきを感じていた。それが悪感情であれど、単なる『後輩』という有象無象ではない扱いをされたことに、甘ったるい幸福感がこみ上げてくる。
(先輩が……先輩がおれだけを見てくれた……。蹴られたところがズキズキ痛い、のに、嬉しい……♡ 駄目なのに……こんなの、間違ってるのに……)
己がどこかおかしくなっている自覚は彼自身にもあった。わかっているのに、止まることができない。自分自身をコントロールする術がわからないのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい、先輩……♡」
「……いいか、闇の魔法使い。助けてもらった借りは返す、だから、今回は見逃してやる。でも次はない。俺は、おまえたちの悪行を許さない」
ノブユキは再び、チアキを睨む。彼にとってチアキ――新手の闇の魔法使いは、間違いなく敵として認識されたことだろう。
「俺は今から、あの怪物を浄化する。邪魔をするならおまえごと倒す」
「ま、待ってくださいっ、先輩!! 邪魔なんかするわけないじゃないですか!!」
「……なんだと?」
「おれは先輩が好きなだけです、貴方のためにおれはあるんです!! だから……」
これ以上誤解されてはいけない、ノブユキに好かれることは無くても、彼を邪魔するような連中と同じだと思われたくはない――と、狂気に染まった思考の中でも辛うじて残る理性が告げた。
チアキはなんとか立ち上がると、子供のように無邪気な笑顔で笑う。
「……汚名返上させてください! 今から、先輩に近付いた挙げ句邪魔したクソ野郎どもに、ちょっとお仕置きしてきますから♡」
そう言って、彼は無意識のうちに魔法を使い、その場から跡形もなく消え失せていた。
*
チアキが使ったのは瞬間移動の魔法だった。まばたき一つする瞬間にノブユキの元を去り、チャイナ服の魔法使いのいる屋上までワープしてくると、殺気を隠しもせずに相手を睨みつける。
都合の良いことに、先程チアキを変身させた、シルクハットの中年魔法使いも同じ場所に集まってきていた。
チャイナ服の魔法使いはへらりとした笑顔で、チアキに向かい歩み寄ってくる。
「さっきは邪魔して悪かったよ! おまえすげーな、変身していきなり魔法使うとか。オレだって使いこなすにはけっこー時間かかったのに――」
「……おまえのことなんかどうでもいい。よくも……よくも、先輩に攻撃を……!!」
友好的に近付いてきた男を、チアキは情け容赦なく蹴り飛ばす。
「ぐぁ゛っ……!? てめェッ、いきなり何すんだよ!?」
「おまえが悪いんだ、先輩に近づいて……しかも先輩の邪魔までして。絶対、許さない」
「っ、危ない、ファナティック君!!」
シルクハットの魔法使いが声を上げるも、チャイナ服の男の回避は間に合わない。魔法の炎を纏った拳が、男の鳩尾にめり込んだ。
がくりと倒れ込むチャイナ服の男には見向きもせず、チアキはくるりとターンしながら、もう一人の魔法使いへと蹴りを食らわせる。
「……おまえも、先輩の敵だって言うならおれの敵だ!!」
「ぐぅ……ッ!! なかなかやりますね、八雲くん……」
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しかし、男の言葉を拒絶するように、チアキは魔法による攻撃の手を緩めない。その顔には恍惚とした笑みが浮かんでいた。
「誰がくれた力であれ……おれの力なら。これは、先輩を守る力だろ……♡」
チアキの魔法――炎の塊のようなものを立て続けに降らせる攻撃に、二人の闇の魔法使いは逃げ惑う他にない。
「チィっ……!! おい、先生っ! 話が違うじゃねーか!? あいつ、なんで仲間になったのに攻撃してきてんの!?」
慌てふためくチャイナ服の男とは対照的に、先生と呼ばれたシルクハットの男は冷静だ。チアキの様子を伺いながらも、なにやら魔法の準備をしているようだった。
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「はは……たしかに、冗談にならない勢いですものねえ。転移の魔法の発動準備をお願いします。彼の捕縛は、私が」
「りょーかいっ! ヘマすんなよ!!」
チャイナの男に指示を出した瞬間、『先生』の手の中に鎖が生み出されていく。禍々しいオーラをまとったソレを空に放れば、チアキめがけて一直線に飛びつき、抵抗する体を難なく縛り上げた。
「うわぁあッ!? この……っ、何するんだよ!?」
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「ぐ、ぅう……!! なんだよこれっ!? くそ、力……抜けて……ッ」
鎖に触れた瞬間に、チアキの全身から力が抜けていく。なんとか逃れようともがいてみせるが、その動きもどこか弱々しい。
「わりぃっ、八雲!! 文句はあとで聞いてやっから!!」
「少し、おとなしくしていてください……我らがボスの元に参りましょう」
地面になにやら書き込んでいたチャイナ服の魔法使いが声を上げる。足元でぼうっと発光していたのは、アニメや漫画で見る魔法陣のような紋様だった。
魔法使い二人に引きずられ、チアキが紋様のサークル内へと連れて行かれた瞬間、足元の光がよりいっそう強く輝き出す。エレベーターで急降下していくときのような、鈍い重さに体を引っ張られるような感覚がチアキを襲った。
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