魔法少女♂とヤンデリオ

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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最終決戦

最終決戦①-1

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 フレンジィを名乗る闇の魔法使いの連絡から、3日後。晶水ノブユキのスマホに、見知らぬアドレスからのメールが届いていた。
 件名は空欄で、本文にはただ一言『ここで待つ』とだけ書かれており、地図画像が添付されている。闇の魔法使いからの招待状と見て間違いないだろう。

(八雲……、八雲は無事なのか!? どうしたらアイツを助けられる!? 八雲を救うためには……、めけと、この世界の平和を差し出すしか無いのか……?)
 この数日間、ノブユキはすっかり憔悴しきっていた。退院して学生寮に戻ったものの、顔色は悪く、常にぼんやりとした様子だったのだ。

 チアキのことを思うとまともに眠ることすらできず、何度も何度も、己が『正義の味方』をやめてしまえばチアキを救えるのではないか、という考えが頭をよぎった。
 彼を救うためならば、こんな世界、どうなったって構わない。他の誰がどうなろうが知ったことではない。チアキの命を救えない世界なんていらない……。
 そんな、普段の彼ならば思いもしなかったであろう感情が、少しずつ心の中を侵食していた。彼自身、自分の中にこんな激情があることを知らなかった。

「……もしも、俺が迷っているあいだに、八雲になにかあったら? たとえそれで、闇の神が倒せたとしても……八雲を見殺しにして得る平和なんか、いらない……。八雲を救うためなら……世界、なんて……ッ!!」
 駄目だ、こんな思考はヒーロー失格だ、と思うのに、ノブユキは己自身を止めることができなかった。止める必要もない、と思ってしまった。

「八雲は……、こんな、醜い俺を見たら失望するだろうか。……それでもいい、それでもいいから……俺は、おまえを……」
 ふらふらと立ち上がったノブユキは、そのまま、たった一人で支持された場所へと向かっていった。




 指定されたのは、学校から離れた住宅地にある公園だった。魔法で空間を隔絶させているのだろう、夕方だというのに、ノブユキ以外の人影は見当たらない。
 姿は見えないが相手は必ずいるはずだ、と思い、ノブユキは虚空に向けて声をかける。

「約束通り来てやった! 八雲は……っ、アイツは無事なのか!?」
『……おかしいなァ? 僕は妖精を連れてこい、と言ったはずだけど?』
「妖精本人はいない……、が、その力の源は俺が持っている。まずは八雲の安否を確認させろ! いいかげん、姿を表したらどうだ!?」
 そう言ってノブユキが掲げたのは、彼が返信する際に使うアイテムでもあるピンク色の水晶石だ。妖精であるめけの力の源であり、それを失えばノブユキは変身できず、めけもまともに活動することもままならなくなってしまう。まさに彼らにとっての急所である。

『妖精本人には劣るが……まあ、悪くはない貢物か。それがこちらの手に渡れば、君が必死になって守っていた世界も、僕らヤンデリオのものになるんだからさ』
「世界なんかどうでもいいッ!! これは八雲と交換だッ、だから早く、アイツの安否を……!!」
 我を忘れたようにまくしたてるノブユキ。そんな彼を――ひとりの少女の声が、呼び止めた。

「――ノブユキっ!! 貴様、なにをしているかわかっておるのか!?」
「やめてっ! いいんだよ、ノコちゃん……!!」
 物陰から現れたのは、光の妖精である二人の少女。サファイアの妖精・ノコがノブユキを止めようと声を上げ、そんなノコを、クリスタルの妖精・めけが引き止める構図である。

「なっ……!? ノコ、めけ!? どうしてここに……!?」
「貴様に会いに行ってみれば、寮からコソコソ出かけるところだったのでな! 後を追ってやったのである!! ……それよりも貴様ッ! めけの石を……、その力を奴らに渡す意味がわかっておるのか!?」
 ノコの剣幕にも、ノブユキは怯むことなく……ただ、悲痛な顔で拳を握りしめる。

「……ああ。すまない、二人とも。だが俺は……これ以上、八雲の危機を放っておくわけにはいかないんだ……!」
「貴様には世界を救う戦士としての自覚がないのか!?」
「もういいよっ、やめてよノコちゃん!! ……仕方ないんだよ。ボクたち妖精の問題に、これ以上、ノブくんたちを巻き込めないよ……!」
「だが!! このままでは、めけの命も、ノブユキたちの世界も危ういのであるぞ!? それを守れるのはこいつらだけであろうに……!」
「でも……! ノブくんやチアキくんを犠牲にするなんて、できないよ……! ボクが一人犠牲になればいいだけだ、もしも世界が危なくなったら、そのときは……ノコちゃんの力で、闇の神を止めてくれればそれで……」
「馬鹿を言うでない!! おいノブユキ! 貴様が血迷ったりするからであるぞ!? さっさとクリスタルを仕舞うのだ……!!」
 ノコはあくまでも世界を守る妖精として、ノブユキには使命を全うさせたいと願い、めけはめけでノブユキの心情を慮り、自ら犠牲になろうとしている。
 混迷極める状況の中、ノブユキは苦しそうに震えて――それでも、チアキを見捨てる選択肢を選ぶことなどできなかった。

「ッ……、本当にすまない……二人とも……。だが……止めると言うなら、八雲を傷つけることを良しとするなら、俺は……おまえたちと戦ってでも……!!」

 震える手で拳を構え、友人であった妖精たちと戦おうと決意を固めた――瞬間。先程までノブユキに話しかけていた声の主、闇の魔法使いを名乗っていた相手が、慌てた様子で大声を上げた。

『あーっと、ストップ、ストーップ!! ……わりィ、晶水センパイをちょっと試すだけのつもりだったんだ!! 落ち着いてくれよっ、センパイも、妖精ちゃんたちもっ!!』
「……は?」
「え?」
「貴様っ、何者であるか!?」

 ノコの問いかけに答えるように、声の主が姿を表す。
 それは――ノブユキと同じ高校の制服を着た、金髪の少年。阿神ケイ、またの名を魔法使いファナティック。
 つい最近、闇の魔法使いから光の魔法使いにジョブチェンジしたばかりの彼が、そこにいた。

「……どもっ。センパイは覚えてるかどーかわかんねーっすけど、八雲のダチで、ルビーの王・ホンイェ様の契約者の魔法使い……阿神ケイっす」
 軽く頭を下げた、いかにも明るいチャラ男といった雰囲気の彼に、ノブユキはたしかに見覚えがあった。

「な……!? 君は……確か以前、八雲を部屋まで送ったときの……?」
「あ、覚えててくれたんスね?」
「どういうことだ!? 俺は……、闇の魔法使いに言われて、ここに……」
 混乱しきった様子のノブユキに、ケイは、へらりとした笑顔で返答する。

「あ~……つまり、まあ、センパイを呼んだのはオレなんすよ。センパイがどこまで八雲にマジなのか、世界と八雲を天秤にかけてどっち取るのか。そのへんわかってねえと、このあとの作戦に支障が出るんで」
「作戦……?」
「っす。八雲と、あと、攫われてる蒼井サン? って人を取り戻して、闇の神の計画ぶっ潰すための作戦っす」
「っ……!! 八雲を、取り戻せるのか!?」
「ユウゴの居場所を知っているのであるか!?」

 ノブユキとノコの驚きの声が重なった。こくりと頷くケイを見て、ノブユキにも、多少の冷静さが戻ってくる。

「めけ、ノコ……。彼は本当に味方なんだな!?」
「うん、この魔力……間違いないよ。君……、本当にあのルビーの王の、ホンイェさんのパートナー、なんだね……? あの人の魔力を感じるよ」
「クソッ!! まったく人騒がせなことを……! 言われてみればこの手口、ホンイェ兄上がやりそうなことである!!」
「あはっ、ビビらせてゴメンね、妖精ちゃんたち~」
 妖精たちからの呆れた視線を、ケイは軽く笑ってあしらった。その飄々とした態度は、ルビーの王・ホンイェ――こと歌風コウヤそっくりだ。

「っつーわけで改めて。オレはホンイェ様の忠実なる下僕、光と闇のハイブリッド魔法使い、ファナティック・ルビー。突然っすけど、今からアンタらには、敵の本陣に突入してもらおうと思ってるんで、色々よろしく!」
「敵の本陣……っ、そこに、八雲が……!!」

 チアキを救える、という可能性を前に、ノブユキから再び冷静さが失われていく。
 場所さえわかれば今にも独断専行しそうな様子に苦笑しつつ、ケイは説明する。

「正確な位置はわかんねーけど、今からつなげる魔法空間のどっかに、八雲はいる。詳しい説明は省くけど……オレの仕掛けた小型GPSのデータから、魔法空間と重なってる物理的な位置を把握。んで、ホンイェ様が物理空間側の魔力を解析して、ルートこじ開けて無理矢理侵入する……って感じっすね」
「じ、GPS……? そなた、なぜそのようなモノを持っておるのだ……?」
「あ~、個人的な趣味で。盗聴器もついてて位置情報もわかる便利グッズなんすよ」
「知っておるぞ!? この世界ではそれ、犯罪ではないか!? 兄上はなんちゅー人間を相棒にしておるのだ!?」
「ま、まあまあノコちゃん……、話が進まないから、ね?」

 ヤンデリオのボス、フレンジィの根城。その位置を特定するために、ケイは自前の盗聴器と発信器を、『チアキに貸していたゲームソフト』に偽装し、彼に渡していた。
 予想通り、それはチアキに渡されることこそ無かったものの、フレンジィの潜む魔法空間内に持ち込まれた。
 あとは、発信器の位置情報を元に、魔法空間と繋がっている現実世界の位置を特定し、そこからコウヤが魔法で逆探知して道を開く……という、言葉にしてしまえば単純な作業なのだが、科学と魔法の合わせ技など普通はできない。ケイのストーカー技術と、コウヤの器用さが合わさったからこそできた神業である。
 魔法での探知には気を遣っていた闇の神とフレンジィだったが、さすがにGPSやら盗聴器やらで情報を盗まれる自体は想定していなかったようで、アジトの特定自体は無事に成功したのであった。

「仕掛けた盗聴器からの情報だと、八雲の状況は、あんまし良くなさそうっす。未だに魔法が暴走してるみたいで……今んとこ命に別状はねえけど、時間の問題かも」
「そんな……!! 早くっ、助けに行かないと!!」
「八雲のことはセンパイに任せます。ちなみに、蒼井サンに関しては情報無し。けど、繋がってる空間に隠されてるっぽいのは盗聴でわかったんで、妖精ちゃんたちはそっちの捜索してくれると助かるかな~。オレは、ホンイェ様からアジトそのものの破壊工作頼まれてるんで」
「承知した。兄上の立てた作戦なのだな? ならば、問題なかろう」
「ボクらにできることならなんでもするよ。よろしくね、ケイくん」

 テキパキとその場を仕切るケイに、否やの声は上がらない。
 妖精たちからすれば、行方不明だったルビーの王ことホンイェ=コウヤは、頼りになる軍師だった。その彼が相棒として選んだ男の指示ならば、問題ないだろうと思われていたのである。

「突然のことですんません。けど、時間ねえんでちゃちゃっと突入しちゃうんで! センパイは先に変身しといてほしいっす」
「ああ、わかった! 《クリスタルパワー! ミラクル☆チャージ!!》」
「オレも……《ルビーパワー! 魔装展開!》」

 ノブユキが変身するのを確かめて、ケイも、コウヤのパートナーとしての新たな呪文を唱え、変身する。
 その姿が以前の、闇の魔法使いとしてのものと同じであることで、かつて闇の魔法使いとしてのケイと戦った三人は驚いていたが、説明している時間も惜しい。
 早速、ケイが用意していた魔法を起動する。空間が歪み、ねじ曲がり、本来存在しない空間への道を強引に切り開いていく。

「な……っ!? その姿は……闇の魔法使い!?」
「あっ、オレ、色々あって光と闇のハイブリッドなんすよ。今はホンイェ様の味方、つまりセンパイらの味方なんで気にしねーで大丈夫っす!!」
「貴様、本当に何者なのであるか!? いい加減にしてほしいのだが!?」
「お、落ち着いてよノコちゃん……!」
「あっ、そろそろ転移魔法起動するぜ。気をつけてな、センパイ、妖精ちゃんたち!」
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