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最終決戦
①-4
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――そのとき。ノブユキの掌が、チアキの胸元へと伸ばされた。そこに輝くのは、彼の魔法の源でもある紫色の宝石――アメジスト。
ノブユキがそれに触れた途端、ぐん、とチアキの体から力が抜けていく。同時に、二人を取り囲む炎が、ノブユキめがけて吸い込まれていく。
それは、ノブユキの、チアキを思う心が無自覚に発動させた魔法だった。
相手の魔力を吸収するという、本来、光の魔法よりも闇の魔法の領分であるはずの力。
チアキをなんとか救いたい、彼を苦しめる力から遠ざけたい、悪い力はすべて自分が引き受けてやる――。そんなノブユキの思いが魔法として具現化し、チアキの肉体から、闇の魔力をぐんぐん吸い取っていったのである。
「八雲……、おまえを苦しめる闇の魔法は、俺が引き受ける。おまえ一人を戦わせたりはしない。だからどうか、俺の愛を受け入れてくれ!!」
「で、でも……っ、おれ、デブで、鈍臭くて、先輩みたいにカッコよくないし……」
ぐすぐすと泣きじゃくるチアキに、もう大丈夫なのだとノブユキが微笑みかける。
「体型がコンプレックスだったのか? とっても愛くるしくてセクシーなのに?」
「っ……!? そ、それにおれ、性格もネクラで……先輩のこと、コソコソ追っかけ回してて……」
「好きな子に追われて嬉しくないはずがないだろう! 俺だって、学校でおまえの姿を探しては目で追っていたしな。お揃いだ」
「それから……! 勝手に、先輩と親しい人に嫉妬して、そのせいで闇の魔法使いに……先輩の敵になるような、最低野郎、なのに……」
「嫉妬なら、俺だってしていたさ。……今も嫉妬で気が狂いそうだよ。俺のかわいい八雲が、俺に向けてくれた気持ちを、どこの誰とも知らん神とやらが利用していたらしいからな? ……必ず、この報復はしてやらないと」
ノブユキの声からは、チアキヘ向けたとめどない愛情と、彼を利用していた闇の神への深い怒りが感じさせられる。
真っ直ぐな言葉は、不安に苛まれて冷え切ったチアキの心を、やさしく、ゆっくり溶かしていく。
「ぐすっ……、先輩……、先輩、は……、こんなおれで、いいの? おれなんかが、先輩のこと好きでいて、ほんとにいいの……?」
「当たり前だろう!? 俺はおまえが、八雲が好きだ。おまえでなくては駄目なんだ!! 俺は八雲を……おまえを愛している。おまえのためなら、世界だって捨てても惜しくないくらいに……!」
ノブユキが、そう宣言した――途端。チアキの体から、完全に魔力が抜け落ちた。
淡い光がチアキを包み込む。ゆっくりとその場に崩れ落ちた彼は、ジェラシィとしてのガチムチ姿から、本来のぽっちゃりとした姿に戻っていた。
そして、チアキから奪った闇の魔力は炎となり、ノブユキの体を包んでいく。
「ッ!? 先輩っ……!?」
「大丈夫だ、八雲!! 俺を信じろ!!」
「で、でも……っ、」
「俺は……俺の愛情は、闇の魔法などに負けはしないっ!!」
叫び声と共に、ごうっ、と炎が宙を舞った。炎が晴れた中にいたのは――ジェラシィと同じ、ぴっちりとした黒いスーツに身を包み、全身から闇の魔力を放っている、変わり果てた姿のノブユキだった。
「な……!? なんで、先輩がその姿に……!?」
呆然とするチアキに、ノブユキは、あっけらかんとした笑顔で答えてみせる。
「多分、だが……俺もおまえと同じ、『嫉妬の魔法使い』の素養があったんだろう。さっき吸い込んでしまったおまえの炎が、俺の魔法の力と結合した……? みたいだな」
「そんな……!! そ、その力のせいで、俺、おかしくなっちゃったのに……! そんなものが先輩の力になっちゃうなんて!!」
「ああ、心配はいらない。もともとの、光の魔法使いとしての力も、ちゃんと俺の中で動いてるかんじがする。きっと洗脳から身を守ってくれてるんだな」
冷静に頷くと、ノブユキは、改めて目の前のチアキを見つめ直す。闇の魔力による副作用なのか、今すぐチアキを抱きしめたくてたまらなかった。
「それにしても……、これが闇の魔法、なんだな。たしかに光の魔法とだいぶ違う。体の内側がグルグルするような……。八雲、おまえはこんな苦痛に耐えてまで、俺を思っていてくれたのか?」
「なっ……!?」
ノブユキからの愛に満ちた視線に、チアキは真っ赤になってしまう。オロオロとする彼を前に、耐えきれず、ノブユキはその身を抱きしめていた。
「あぁ、八雲……、今日も本当に愛くるしい……。このまま攫って、俺だけのモノにしてしまいたいくらいに……」
「せ、先輩っ!? あ、あのっ、その、正気に戻って……!」
「俺はいつでも正気だぞ? ……だが、この姿になるとなんというか……アレだな。思考がだだ漏れになる。まあ、八雲に愛を囁けるから俺としては大歓迎だが」
「ひゃっ……!? せ、せせせ、先輩ぃ……!?」
拒まれないのをいいことに、ノブユキは、チアキの額に向かってひたすらにキスの雨を降らせていた。突然のことにチアキはパンク寸前である。
(な、なんだこれ……!? でも……魔法の力は、おれが一番よくわかってる。変身すると感情が暴走しちゃうのも。……ってことは、先輩のコレは、全部本気? 本当に……あの先輩が、おれのことを……好き……?)
――ようやく、愛の告白のすべてが本気らしい、と信じることができたチアキ。その顔がぽっ、と赤く染まる。
「せ、先輩……っ、おれ、おれ……!!」
「ふふ……真っ赤になった八雲もかわいいな。赤い頬が薔薇みたいだ」
「んなぁ……っ!?」
いつもの寡黙ぶりはどこに消えたのか、というくらい、脳内駄々漏れで愛を囁くノブユキ。チアキはいっぱいいっぱいになっている。
(はぅう……♡ 信じられない、なにこれ、夢か……? 先輩が、俺のこと好きで? 世界平和より俺を選んでくれるくらい好きで? こんないっぱい……いっぱい、ちゅー、してくれて……♡♡)
ノブユキからの惜しみない愛情は、チアキを浮かれさせるには十分すぎた。
喜びで頭がクラクラする――が、元来の自責思考が、浮かれたくなる己自身を叱責する。
「……じゃ、なくてですねっ、先輩!! お、おれのこと、そんな簡単に許していいんですか!? おれは……身勝手な嫉妬で先輩の敵になったり、こうして暴走したり、たくさん迷惑かけちゃったのに……!」
「……? 好きな人のすることなら、なんだって許してしまえるに決まっている。八雲、おまえは、俺がおまえに向ける思いをナメているぞ」
「ッッ!! い、いちいち口説かないでくださいっ!! おれは真面目に話してるのに……!」
「俺だって真面目だ。真剣におまえを口説いている」
「せ、先輩ッ……!!」
今のノブユキは、変身して暴走モードに入っているせいもあり無敵だった。1言えば百の口説き文句が返ってくるのだ。
「八雲……、俺はただ、おまえを救いたくてここに来た。おまえを失いかけて初めて、自分がどれだけおまえを愛しているのかを思い知った……。こんな馬鹿な俺でも良ければ、俺と……お付き合いをしてくれないか」
「!!」
愛の告白はあまりにも自然に、しかし、まっすぐにチアキの目を見て行われる。
「い、今、そんなこと話してる場合ですか……!? おれ、状況もなにもわかってないのにっ!! こ、こんなとこまで突入してきて、このまま帰るってわけでもないでしょう!?」
「そんなことより、返事を聞かせてほしい。……すまない、困らせてしまうのはわかっているんだが……。返事を聞いたら、ちゃんと全て説明するから……」
困惑のあまり返事をごまかそうとするチアキだったが、ノブユキの真っ直ぐな視線がそれを阻んだ。
愛する男が、捨てられた子犬のような眼差しで、期待を込めてこちらを見ているのだ。断ることなどまさか無いだろうと確信しながらも、断られたり返事を延期されたりしたら傷つくだろう顔をしているのだ。
元よりノブユキに対して甘すぎるチアキが、その視線に耐えきれなかったのは、当然のことだったのかもしれない。
視線を不安げに彷徨わせながら、それでも、なんとかノブユキを見て、チアキは答える。
「……おれ、は……、おれも、ずっと先輩のことが好きでした。出会ったときから、ずっと……。おれなんかでいいなら、先輩の、恋人になれたら……とっても嬉しい、です……」
「ッッ!! 八雲ッ……!」
感極まった――という様子で、ノブユキがチアキの唇を奪った。強引なくせに優しく丁寧な口づけには、不器用な彼らしさが現れている。
「ッ~~♡♡ ……ぷはっ、ちょ、せんぱ……んむぅうっ♡♡」
「八雲……っ♡ んちゅっ♡ 八雲♡♡ 好きだ、好きだ、愛している!! 一生かけて幸せにするからなっ!!」
「っ!!」
これが普通の男子高校生ならば、死ぬまで添い遂げる気満々の発言を重たいと思ったのかもしれないが、こちらも筋金入りのヤンデレ男だ。
喜びに瞳を輝かせて、そして、照れくささから誤魔化すように視線をそらした。
「う、嬉しいですけどっ、先輩!! 今、こんなことしてる場合なんですか!? まさか……おれのためだけに、こんなとこまで来たってわけじゃないでしょ!?」
「いや? 俺は八雲を助けるためだけにここに来たが……?」
「はぅっ……♡♡ って、いやだから、そうじゃなくて……!」
チアキはチアキなりに現状――自分が暴走してしまったことや、そのせいで、ノブユキがアジトに乗り込むに至ったことを、深刻にとらえているようたった。
こんな大事になっては、ヤンデリオとの全面戦争も止むなしだ。もっとも、チアキ自身に戦う力はもう残されておらず、ノブユキの応援くらいしかできることがないのだが。
「……そう、だな。おまえの友人……阿神だったか、彼からの伝言なんだが……。八雲は、正気に戻り次第、この空間から逃げてほしい……と言っていたな」
はたと、思い出した様子で告げられた伝言。その内容に、チアキは驚きを隠せない。
「えっ、じゃあ……先輩は!? ……っていうか、なんで阿神が先輩の味方になってんだ……!?」
「俺は……闇の力も手に入れてしまったが。魔法少女スイートクリスタルとして……光の魔法使いとして、まだやるべき戦いが残っている。お前を苦しめた闇の神とやらを叩きのめさねばならないからな」
「ならっ、おれも行きます!!」
「駄目だ!! これ以上、八雲を危険に晒すわけには……! それに、おまえの力は俺が奪ってしまったし……!」
「でも!! 先輩だけが危ない目に合うなんて、耐えられないです。それに……先輩が命懸けで戦うときに、おれ以外の誰かが隣にいるのも……それはそれでイヤだ、っていうか……」
――こんな状況になっても、チアキの心に真っ先に浮かんだのは、ノブユキに近づくその他大勢への嫉妬だった。
恋人という立場になれたのならなおさら、ノブユキの特別は、隣にいるのは自分だけがいい。そんなワガママを抑えきれない。
自分勝手を言っていい状況ではないと、頭ではわかっているつもりなのに、感情が追いついてくれなかったのだ。
自分でも勝手なことを言ってしまった自覚があるのか、すかさず、チアキは謝罪を告げる。
「すみません……、大事な話してるのに、おれ、自分のことばっかりで……」
「いや……そんなことない。めちゃくちゃ嬉しい。こんなに可愛い人が俺の恋人で本当にいいのか不安になっている」
「はぅっ♡♡」
もっとも、ノブユキはノブユキで、チアキのやることなすこと全てが可愛いと思えてしまうような浮かれぶりだったので、この提案も嫌がられることはない。
ただ、チアキの身が心配だから止めているだけだ。
「だが……。おまえを、これ以上危険に晒したくないんだ。……阿神から聞いたんだ、おまえが闇の魔法使いに選ばれてしまったのは、俺を好いていたからかもしれないと。俺の都合に、これ以上おまえを巻き込みたくない……!」
「嫌です!! おれっ……、それでも、先輩のそばにいたいです!! たしかに、もう魔法も使えなくて、足手まといかもしれないけど……でも! 先輩のピンチに、先輩の隣にいるのは、おれじゃなきゃイヤだから……!!」
何ができるわけではなくても、愛する人の側にいたい。敵が二人の愛を利用し、その仲を引裂こうとしていた相手ならなおさらだ。
そんなチアキの思いを汲み取ったのか……ノブユキも、とうとう首を縦に振る。
「……わかった。おまえのことは、必ず俺が守ってみせる」
「おれも! なんの力にもならないかも、だけど……、先輩を洗脳から守ってみせます!!」
「ふふっ……それは心強いな。八雲が側にいれば、闇の力なんてへっちゃらだ」
二人が頷きあい、とにかくここから出ようとした――その時である。
ズドドドド……!! と、怪しい地響きが聞こえたかと思えば、地震のように空間が大きく震えだした。魔法で作られたこの場所は、外の自然災害などからも隔離されているはずだというのに、だ。
このままでは空間が崩れるかも、と、二人は急いでこの異空間の外、白い廊下の続く場所まで駆け抜ける。
「ッ……!? この揺れ……、魔法によるものか!?」
「先輩っ、音は、あっちから聞こえました!!
「状況はわからない……が、阿神が、闇の神を封印する儀式をするとか言っていたな。もしかしたらそちらで、何かあったのか……?」
「っ!! とにかく行ってみましょう!!」
「ああ……! 俺のそばを離れるなよ、八雲!」
地響きが聞こえたのは廊下の先、枝分かれした道の右側からだ。
二人は顔を見合わせた後、音のした方へ……地響きの震源地らしき方へと向かうことを決めたのだった。
ノブユキがそれに触れた途端、ぐん、とチアキの体から力が抜けていく。同時に、二人を取り囲む炎が、ノブユキめがけて吸い込まれていく。
それは、ノブユキの、チアキを思う心が無自覚に発動させた魔法だった。
相手の魔力を吸収するという、本来、光の魔法よりも闇の魔法の領分であるはずの力。
チアキをなんとか救いたい、彼を苦しめる力から遠ざけたい、悪い力はすべて自分が引き受けてやる――。そんなノブユキの思いが魔法として具現化し、チアキの肉体から、闇の魔力をぐんぐん吸い取っていったのである。
「八雲……、おまえを苦しめる闇の魔法は、俺が引き受ける。おまえ一人を戦わせたりはしない。だからどうか、俺の愛を受け入れてくれ!!」
「で、でも……っ、おれ、デブで、鈍臭くて、先輩みたいにカッコよくないし……」
ぐすぐすと泣きじゃくるチアキに、もう大丈夫なのだとノブユキが微笑みかける。
「体型がコンプレックスだったのか? とっても愛くるしくてセクシーなのに?」
「っ……!? そ、それにおれ、性格もネクラで……先輩のこと、コソコソ追っかけ回してて……」
「好きな子に追われて嬉しくないはずがないだろう! 俺だって、学校でおまえの姿を探しては目で追っていたしな。お揃いだ」
「それから……! 勝手に、先輩と親しい人に嫉妬して、そのせいで闇の魔法使いに……先輩の敵になるような、最低野郎、なのに……」
「嫉妬なら、俺だってしていたさ。……今も嫉妬で気が狂いそうだよ。俺のかわいい八雲が、俺に向けてくれた気持ちを、どこの誰とも知らん神とやらが利用していたらしいからな? ……必ず、この報復はしてやらないと」
ノブユキの声からは、チアキヘ向けたとめどない愛情と、彼を利用していた闇の神への深い怒りが感じさせられる。
真っ直ぐな言葉は、不安に苛まれて冷え切ったチアキの心を、やさしく、ゆっくり溶かしていく。
「ぐすっ……、先輩……、先輩、は……、こんなおれで、いいの? おれなんかが、先輩のこと好きでいて、ほんとにいいの……?」
「当たり前だろう!? 俺はおまえが、八雲が好きだ。おまえでなくては駄目なんだ!! 俺は八雲を……おまえを愛している。おまえのためなら、世界だって捨てても惜しくないくらいに……!」
ノブユキが、そう宣言した――途端。チアキの体から、完全に魔力が抜け落ちた。
淡い光がチアキを包み込む。ゆっくりとその場に崩れ落ちた彼は、ジェラシィとしてのガチムチ姿から、本来のぽっちゃりとした姿に戻っていた。
そして、チアキから奪った闇の魔力は炎となり、ノブユキの体を包んでいく。
「ッ!? 先輩っ……!?」
「大丈夫だ、八雲!! 俺を信じろ!!」
「で、でも……っ、」
「俺は……俺の愛情は、闇の魔法などに負けはしないっ!!」
叫び声と共に、ごうっ、と炎が宙を舞った。炎が晴れた中にいたのは――ジェラシィと同じ、ぴっちりとした黒いスーツに身を包み、全身から闇の魔力を放っている、変わり果てた姿のノブユキだった。
「な……!? なんで、先輩がその姿に……!?」
呆然とするチアキに、ノブユキは、あっけらかんとした笑顔で答えてみせる。
「多分、だが……俺もおまえと同じ、『嫉妬の魔法使い』の素養があったんだろう。さっき吸い込んでしまったおまえの炎が、俺の魔法の力と結合した……? みたいだな」
「そんな……!! そ、その力のせいで、俺、おかしくなっちゃったのに……! そんなものが先輩の力になっちゃうなんて!!」
「ああ、心配はいらない。もともとの、光の魔法使いとしての力も、ちゃんと俺の中で動いてるかんじがする。きっと洗脳から身を守ってくれてるんだな」
冷静に頷くと、ノブユキは、改めて目の前のチアキを見つめ直す。闇の魔力による副作用なのか、今すぐチアキを抱きしめたくてたまらなかった。
「それにしても……、これが闇の魔法、なんだな。たしかに光の魔法とだいぶ違う。体の内側がグルグルするような……。八雲、おまえはこんな苦痛に耐えてまで、俺を思っていてくれたのか?」
「なっ……!?」
ノブユキからの愛に満ちた視線に、チアキは真っ赤になってしまう。オロオロとする彼を前に、耐えきれず、ノブユキはその身を抱きしめていた。
「あぁ、八雲……、今日も本当に愛くるしい……。このまま攫って、俺だけのモノにしてしまいたいくらいに……」
「せ、先輩っ!? あ、あのっ、その、正気に戻って……!」
「俺はいつでも正気だぞ? ……だが、この姿になるとなんというか……アレだな。思考がだだ漏れになる。まあ、八雲に愛を囁けるから俺としては大歓迎だが」
「ひゃっ……!? せ、せせせ、先輩ぃ……!?」
拒まれないのをいいことに、ノブユキは、チアキの額に向かってひたすらにキスの雨を降らせていた。突然のことにチアキはパンク寸前である。
(な、なんだこれ……!? でも……魔法の力は、おれが一番よくわかってる。変身すると感情が暴走しちゃうのも。……ってことは、先輩のコレは、全部本気? 本当に……あの先輩が、おれのことを……好き……?)
――ようやく、愛の告白のすべてが本気らしい、と信じることができたチアキ。その顔がぽっ、と赤く染まる。
「せ、先輩……っ、おれ、おれ……!!」
「ふふ……真っ赤になった八雲もかわいいな。赤い頬が薔薇みたいだ」
「んなぁ……っ!?」
いつもの寡黙ぶりはどこに消えたのか、というくらい、脳内駄々漏れで愛を囁くノブユキ。チアキはいっぱいいっぱいになっている。
(はぅう……♡ 信じられない、なにこれ、夢か……? 先輩が、俺のこと好きで? 世界平和より俺を選んでくれるくらい好きで? こんないっぱい……いっぱい、ちゅー、してくれて……♡♡)
ノブユキからの惜しみない愛情は、チアキを浮かれさせるには十分すぎた。
喜びで頭がクラクラする――が、元来の自責思考が、浮かれたくなる己自身を叱責する。
「……じゃ、なくてですねっ、先輩!! お、おれのこと、そんな簡単に許していいんですか!? おれは……身勝手な嫉妬で先輩の敵になったり、こうして暴走したり、たくさん迷惑かけちゃったのに……!」
「……? 好きな人のすることなら、なんだって許してしまえるに決まっている。八雲、おまえは、俺がおまえに向ける思いをナメているぞ」
「ッッ!! い、いちいち口説かないでくださいっ!! おれは真面目に話してるのに……!」
「俺だって真面目だ。真剣におまえを口説いている」
「せ、先輩ッ……!!」
今のノブユキは、変身して暴走モードに入っているせいもあり無敵だった。1言えば百の口説き文句が返ってくるのだ。
「八雲……、俺はただ、おまえを救いたくてここに来た。おまえを失いかけて初めて、自分がどれだけおまえを愛しているのかを思い知った……。こんな馬鹿な俺でも良ければ、俺と……お付き合いをしてくれないか」
「!!」
愛の告白はあまりにも自然に、しかし、まっすぐにチアキの目を見て行われる。
「い、今、そんなこと話してる場合ですか……!? おれ、状況もなにもわかってないのにっ!! こ、こんなとこまで突入してきて、このまま帰るってわけでもないでしょう!?」
「そんなことより、返事を聞かせてほしい。……すまない、困らせてしまうのはわかっているんだが……。返事を聞いたら、ちゃんと全て説明するから……」
困惑のあまり返事をごまかそうとするチアキだったが、ノブユキの真っ直ぐな視線がそれを阻んだ。
愛する男が、捨てられた子犬のような眼差しで、期待を込めてこちらを見ているのだ。断ることなどまさか無いだろうと確信しながらも、断られたり返事を延期されたりしたら傷つくだろう顔をしているのだ。
元よりノブユキに対して甘すぎるチアキが、その視線に耐えきれなかったのは、当然のことだったのかもしれない。
視線を不安げに彷徨わせながら、それでも、なんとかノブユキを見て、チアキは答える。
「……おれ、は……、おれも、ずっと先輩のことが好きでした。出会ったときから、ずっと……。おれなんかでいいなら、先輩の、恋人になれたら……とっても嬉しい、です……」
「ッッ!! 八雲ッ……!」
感極まった――という様子で、ノブユキがチアキの唇を奪った。強引なくせに優しく丁寧な口づけには、不器用な彼らしさが現れている。
「ッ~~♡♡ ……ぷはっ、ちょ、せんぱ……んむぅうっ♡♡」
「八雲……っ♡ んちゅっ♡ 八雲♡♡ 好きだ、好きだ、愛している!! 一生かけて幸せにするからなっ!!」
「っ!!」
これが普通の男子高校生ならば、死ぬまで添い遂げる気満々の発言を重たいと思ったのかもしれないが、こちらも筋金入りのヤンデレ男だ。
喜びに瞳を輝かせて、そして、照れくささから誤魔化すように視線をそらした。
「う、嬉しいですけどっ、先輩!! 今、こんなことしてる場合なんですか!? まさか……おれのためだけに、こんなとこまで来たってわけじゃないでしょ!?」
「いや? 俺は八雲を助けるためだけにここに来たが……?」
「はぅっ……♡♡ って、いやだから、そうじゃなくて……!」
チアキはチアキなりに現状――自分が暴走してしまったことや、そのせいで、ノブユキがアジトに乗り込むに至ったことを、深刻にとらえているようたった。
こんな大事になっては、ヤンデリオとの全面戦争も止むなしだ。もっとも、チアキ自身に戦う力はもう残されておらず、ノブユキの応援くらいしかできることがないのだが。
「……そう、だな。おまえの友人……阿神だったか、彼からの伝言なんだが……。八雲は、正気に戻り次第、この空間から逃げてほしい……と言っていたな」
はたと、思い出した様子で告げられた伝言。その内容に、チアキは驚きを隠せない。
「えっ、じゃあ……先輩は!? ……っていうか、なんで阿神が先輩の味方になってんだ……!?」
「俺は……闇の力も手に入れてしまったが。魔法少女スイートクリスタルとして……光の魔法使いとして、まだやるべき戦いが残っている。お前を苦しめた闇の神とやらを叩きのめさねばならないからな」
「ならっ、おれも行きます!!」
「駄目だ!! これ以上、八雲を危険に晒すわけには……! それに、おまえの力は俺が奪ってしまったし……!」
「でも!! 先輩だけが危ない目に合うなんて、耐えられないです。それに……先輩が命懸けで戦うときに、おれ以外の誰かが隣にいるのも……それはそれでイヤだ、っていうか……」
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「すみません……、大事な話してるのに、おれ、自分のことばっかりで……」
「いや……そんなことない。めちゃくちゃ嬉しい。こんなに可愛い人が俺の恋人で本当にいいのか不安になっている」
「はぅっ♡♡」
もっとも、ノブユキはノブユキで、チアキのやることなすこと全てが可愛いと思えてしまうような浮かれぶりだったので、この提案も嫌がられることはない。
ただ、チアキの身が心配だから止めているだけだ。
「だが……。おまえを、これ以上危険に晒したくないんだ。……阿神から聞いたんだ、おまえが闇の魔法使いに選ばれてしまったのは、俺を好いていたからかもしれないと。俺の都合に、これ以上おまえを巻き込みたくない……!」
「嫌です!! おれっ……、それでも、先輩のそばにいたいです!! たしかに、もう魔法も使えなくて、足手まといかもしれないけど……でも! 先輩のピンチに、先輩の隣にいるのは、おれじゃなきゃイヤだから……!!」
何ができるわけではなくても、愛する人の側にいたい。敵が二人の愛を利用し、その仲を引裂こうとしていた相手ならなおさらだ。
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「……わかった。おまえのことは、必ず俺が守ってみせる」
「おれも! なんの力にもならないかも、だけど……、先輩を洗脳から守ってみせます!!」
「ふふっ……それは心強いな。八雲が側にいれば、闇の力なんてへっちゃらだ」
二人が頷きあい、とにかくここから出ようとした――その時である。
ズドドドド……!! と、怪しい地響きが聞こえたかと思えば、地震のように空間が大きく震えだした。魔法で作られたこの場所は、外の自然災害などからも隔離されているはずだというのに、だ。
このままでは空間が崩れるかも、と、二人は急いでこの異空間の外、白い廊下の続く場所まで駆け抜ける。
「ッ……!? この揺れ……、魔法によるものか!?」
「先輩っ、音は、あっちから聞こえました!!
「状況はわからない……が、阿神が、闇の神を封印する儀式をするとか言っていたな。もしかしたらそちらで、何かあったのか……?」
「っ!! とにかく行ってみましょう!!」
「ああ……! 俺のそばを離れるなよ、八雲!」
地響きが聞こえたのは廊下の先、枝分かれした道の右側からだ。
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⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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