魔法少女♂とヤンデリオ

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

文字の大きさ
48 / 60
最終決戦

①-3

しおりを挟む
 ――一方その頃、ノブユキは、チアキを探して真っ白な廊下を駆けずり回っていた。
「どこだ……っ、どこにいる、八雲……!」

 走り続けること数十分。廊下にある無数の扉の一つに、炎で充満した部屋があるのが目に止まった。慌ててそちらに近寄り、扉の小窓から部屋を覗きこめば――奥にいるのは間違いなく、己の炎で苦しむチアキである。
 思わずドアノブをつかんで開けようとするが、魔法によりロックがかかっているようでびくともしない。
 チアキのいる空間はすぐそこなのに、手出しできない状態だった。

 そうこうしている間にも、チアキが苦しそうに呻いているのが見える。ノブユキは、焦りと怒りですっかり我を忘れていた。
「っ!! くそっ、目の前にいるのに、助けられないのか……!? ……そんなの、許していいはずがないッ!! こうなりゃ、魔法で無理矢理……、《クリスタル☆シャワー》ッ!!」

 そのとき、ノブユキがとった行動は、ほとんど発作的なものだった。魔法であつめたエネルギーをぶつけて、扉をブチやぶり、空間同士を無理矢理にこじ開けたのだ。
 普通は、ある程度相手の魔法を解析しなければできないはずの芸当なのだが――ノブユキの怒りが、とてつもないエネルギーを生み出した結果の産物である。

 魔法で扉を引きちぎったノブユキは、中に充満する炎にも目をくれず、ひたすらチアキめがけて突っ込んでいく。


「――八雲ッ!!」

 ゴウッ、と、大きく炎が巻き上がる。

 うつろな瞳で、変身姿で部屋の中央にうずくまっていたチアキだったが、ノブユキの声に気が付き、ゆっくりとそちらに目線を向けた。

「ぁ……、せ、ん、ぱい……?」
「八雲っ、無事か!? 生きてるな!?」
「先輩……っ、なん、で……? おれ、おれ、は……」
「おまえが無事で良かった……!! さあ、早くここを出よう、一緒に帰るんだ!!」
 ノブユキはチアキに駆け寄り、うずくまる彼に手を差し伸べる。……しかし。

「だ……、駄目だッッ!! 来ないで……!!」

 チアキの拒絶を示すかのように、彼を取り囲むようにして、大きな火柱がゴウッと燃え盛った。

「やめて……、来ないで、先輩……。こんな俺を見ないで。やめて……許して……いやだ、いやだいやだいやだ……!!」
「っ……!? これが……魔法の、嫉妬の暴走、か……!」

 ――ノブユキはここにくるまでの間に、チアキの現状について、ケイから話を聞いていた。
 おそらくは魔法と本人の感情とが相乗効果を起こし、強い嫉妬の感情と、炎の魔法が連動して暴走状態にある、と。
 今のチアキは、自責の念と嫉妬に支配され、冷静に話ができる状態ではないかも、とも聞いていた。

「お、おれっ、本当は、先輩と仲良くしてもらえるような立派な人間じゃない!! 先輩に好きになってもらえるような人間じゃない!! いつも嫉妬して、コソコソ先輩に片思いしてる、気持ち悪いストーカー野郎で……先輩の目に映る価値なんか、ないのに……!!」
 チアキの悲鳴じみた独白に合わせて、荒れ狂う炎の魔法がノブユキを襲う。

「あぐっ……!? 八雲、落ち着け!! 俺はここにいるっ、どんなおまえでもかまわない……おまえを助けに来たんだ!!」
「……許せない……っ、先輩に近づく奴ら全て!! 許せないんだ!! こんなっ、こんな醜いおれなんて、先輩の隣にふさわしくない……! お願い、先輩、おれを見ないで……ッ! こんな……、こんな、醜いおれを……!」

 今のチアキの心を満たすのは、強い自責の念と、自制してなお抑えきれない嫉妬の感情だった。
 彼の心を示すように荒れ狂い、近づく者全てを拒絶する炎を見ながら、ノブユキは、ここに向かう最中のケイとの会話を思い出していた。



『闇の魔法は、術者の感情を起爆剤にして発動してるみたいなんで……つまり、八雲が自分自身の感情をコントロールできたら、魔法の暴走も収まるはずなんスよ』
 ケイ曰く、闇の魔法も光の魔法も、その動力源は人間の感情エネルギーにあるらしい。魔法は心を映し出す鏡であり、精神的に不安定であるほどに、魔法は暴走しやすくなるようだ。
 要するに、チアキの暴走を止めるには、彼の心を落ち着かせてやればいいのだと、彼はそう語ったのである。

『実際、オレは素でストーカーで、そういう自分を受け入れてたし……あの人もオレの好意を肯定してくれたんで。自分自身のヤベェ部分を認めて受け入れてたから、感情の暴走も、魔法の暴走も起きてなかったっつーわけっす』
『……つまりどういうことだ? どうすれば八雲を助けられる!?』
『だから、オレはセンパイを試したんスよ。……八雲のために世界捨てられるくらいなら、大丈夫。素直な気持ちをガツンとぶつけてやりゃあ、さすがに伝わるっしょ!! センパイと相思相愛ってわかれば、きっと正気に返るハズっすよ!』


 ――ケイの言葉を信じるならば、今、ノブユキのとるべき行動はただ一つ。チアキの不安をかき消してやればいい。
 ノブユキになら、それができるとケイは託してくれた。
 ノブユキ自身、この役目は他の誰にも譲れやしないと思っている。

 自分自身の『愛』を全力でぶつければ、きっと、チアキの不安なんてかき消してやれると信じていたからだ。


「……八雲ッ!!」

 ノブユキは、燃え盛る炎の中を突っ切って、チアキの目の前に飛び込むと――そこで変身を解除し、思い切り、彼を抱きしめた。
 愛の言葉をぶつけるために、魔法の武装は必要ない、と思ったからだ。正義のヒーローとしての自分では、チアキに向き合えないと思ったからだ。

「ッ……!? だ、だめ、先輩……っ、来ないで……!!」
「俺は……八雲が好きだっ!! 愛している! 恋愛感情的な意味で、おまえとお付き合いしたいという意味で、あわよくばデートやキスや、もっとスゴイこともしたいという意味で……おまえを愛しているんだ!!」

 唐突にも思える愛の告白は、真っ直ぐに、チアキの瞳を見つめて行われた。

「…………う、そ、」
「本当だ……! おまえに拒絶されるのが怖くて、ずっと、ただの『いい先輩』のフリをしてきた。おまえが俺を思ってくれていたように、俺もずっと、おまえに惹かれていたんだ!!」

 呆然とするチアキを前に、ノブユキの告白は止まらない。
「すまなかった……、おまえがジェラシィだと気づいてやれなくて! 俺は、おまえに操立てしたつもりで、おまえの告白を断った大馬鹿者だっ!! こんな……愚鈍で、馬鹿で間抜けな俺に、おまえは失望するかもしれない。嫌いになったかもしれない。……それでも俺は……おまえを、諦められない……!」

 情熱的な愛の告白を、信じられない、とチアキは首を横に振る。

「ッ……嘘だ!! だって、先輩の周りには、俺なんかより素敵な人がたくさんいるのに……!」
「おまえほど素敵な人なんてどこにもいない!! 八雲、俺の目にはおまえしか見えていないんだッ!! ……だから、」
 ノブユキはチアキの炎に、燃え盛る嫉妬の感情に手を伸ばした。己自身すらも焼き払う業火は、ノブユキの肌を焼いていく。
 いくら炎がノブユキを傷つけようとも、彼は、恐れることはない。それがチアキの心の具現化ならば、受け止めるのが当然だと思っているからだ。

「だから……、おまえの気持ちを利用して、おまえを苦しめた連中を許せない。俺よりも先に、八雲の気持ちを知っていた奴がいるなんて許せない。おまえに闇の魔法なんかを与えた奴が、俺とおまえの間に割って入った奴が、許せない――!!」
「先輩、だめっ……、だめ……! 俺の近くは……危ないから……!」
「嫉妬の炎? 魔法の暴走? ……それがどうした!! 愛しいおまえが俺に向けた嫉妬なら、それが炎だろうがなんだろうが構わない……! 全て、俺が受け止める!!」
「やめて……っ、もういいんですっ!! これ以上は、先輩が死んじゃう……!」
 チアキの悲鳴などお構いなく、炎は燃え上がり、ノブユキの全身へと燃え移る。

 メラメラと燃え盛る炎の中、ノブユキは叫んだ。
「八雲!! そんなくだらない力より、俺を選べ!! ……いや、おまえが嫌だと言ってももう止めない。止められない。俺は……おまえのすべてが欲しい、おまえが欲しくてたまらないんだ……!!」
「っ、先輩……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...