勘違いは日常茶飯事!!

椚都無羅

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蘇生

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ど貧乏少年カズキ18歳、親は家を出ていき、兄弟もおらず今日ここで死す。

「――っなわけあるかーー!!」

自分の死を受け入れがたい少年はこれでもかという声量で誰かに叫んだ。

「ってかここ何処だよ、何か妙に静かだし。何か眩しいし」

頭上に手かざしながら、辺りを不思議そうに見渡している。それも当然だ。目を覚ましたら自分の知らない場所にいるのだから。

「あ~可哀想にまだ若いのに。死んでしまったのね」

宙に浮いており、頭上に輪っかを付けている女は哀れみの目で少年カズキを見ていた。

「えっ、えー」

天から突如舞い降りてきたので驚き恐怖したのだろう。腰を抜かし、生まれたての小鹿のように小刻みに足が震えていた。それも異常な程に。

「そ、そんな反応されてはいくら女神の私でも傷つきますわ」

背中にある翼は元気を失い萎れており、顔もなんとなく悲しい表情をしていた。

それを見たカズキは悪いと思い、小刻みに震える足を必死に止めようとしていた。

しかし、体とは正直なもので気持ちでは止めようと思っていても実際怖いので足は震え続けるのだ。

「ふふふふふ..」

震えを止めようとしているカズキをよそに誰かが笑っていた。カズキは誰だろうと思い笑いのする方向に顔を向けた。

「な、なんで笑ってるんですかね~女神様」

震える声で質問をした。

「すいません、我慢出来ず。ふふふ…私あなたみたいなビビってる人間みるのだっっっいすきなんです」

頬を赤く染め、悶える様子で語った。

「えっ...」


カズキはその様子を見て女神という概念の失望よりもただ単純に引いたのだ。何故ならば体を弄(ひねく)らせ自分の体を両腕で抱きしめその上、涎(よだれ)を垂らしているのだから。

「ぐふふふ」

その様子を見てビビっているのが馬鹿馬鹿しくなったのかカズキの足はいつの間にか震えが止まっていた。

「あらまぁ、震えが止まってるではありませんか~残念ですわ」

「あぁ..そうですか...」

項垂れて(うなだ)いて今度は本当に悲しんでいるようだ。

そして、冷静になったカズキは当たり前の疑問などが思い浮かび口火を切った

「女神の性癖はどうでもいいんだよ。それより質問してもいいか?」

「あらら、私の性癖を無視ですか、まぁいいでしょう。時間も惜しいですし、質問をどうぞ」

数分前まで涎を垂らしたり、自分の体をくねらせたり、変態的な行動をとっていたとは思えない程に淡々と冷静に述べた。

「切り替えはえーな」

「そうですか?普通ですよ。それより質問するなら早くしてくださいません?」

指を三本たてて言った。

「あーそうだな」

察したカズキは早々に質問をした。

「一つ目の質問だ。ここは何処だ。」

「ここですか?ここは天界であり、死す者が来る所ですわ」

「そうか..まぁ見る所そうだよなぁ。で、ここは天国なのか?」

「いえ、ここは天界でありますが、天国ではありません。天国はこの先にある扉の向こうですわ」

女神は長々と続いている階段の先を指差した。

「あれか~遠いな」

「ご心配なくその扉に行く際は、私の転移で行きますので」

自信満々に胸を張って言った。

その姿を見、そしてその扉を見、嫌でも実感出来るであろう。認めたくない、自分の死を...

「――おっと、ちょっと脱線したが二つ目の質問行くぞ」

「はい、どうぞ」

一瞬の沈黙があったが、すぐさまカズキの声でその沈黙は破られた。

「天国ではないと言ったが、じゃあここは何処なんだ?」

「ここは天国とあなたの世界との中間に位置するスカイアイランドですわ」

聞き覚えのない単語に混乱するかと思ったのだが、質問をしたらする程新たな疑問が生まれるため混乱する暇を与えなかった。
そして新たな質問をしたのだ。
 
「その続きになるのだが、何故死んだ者を直接天国へ行かせないのだ?」

「それは簡単なことです。その者が本当に天国に行くにふさわしいか私が判断するためですわ」

「ふむふむ」

納得したカズキは、腕に目をやり時間を確かめようとした。しかし、死んだからか時計はなく、ただただ色白い肌だけが晒されていたのだ。

「ん?腕なんか見てどうしました?質問はもう終わりですか?」

「あぁ質問は終わりだ。それより時間は大丈夫なのか?」

カズキは心配そうに女神に問いかけた。

「ぞくぞくしますわ、その表情。いいですわ、その物欲しそうな顔。あ~たまりませんわ。」

じゅるりと音をたてながら、興奮気味に語った。

「また性癖発動かよ..」

呆れ果てたカズキは、自分の頬を叩き真顔で先程と同じ質問をした。

「あ~ぁ...時間?何のことですの?」

一瞬曇った表情をしたが、お得意の切り替えの速さで質問の問いかけに答えた。

「何って、指三本たてて、あと三分と合図出していたじゃないか」

「ん?...あっ..あれね~あれは三分ではなく、あと三時間って意味ですわよ」

「えっ...じゃあ、あれか俺はあと三時間を三分と勘違いして早口で話していたというのか」

息を切らせながら話した。

「まぁそうなりますわね」

軽くあしらい、普通指三本たてたら三時間ですわよともいいたげそうだった。

その態度には黙ってはいられなかった。

「俺らの世界では指三本たてたら、大抵の人は三分と理解するぞ!!」

それに対し反論をした。

「いいや、私の世界では指三本たてたら大抵の神々たちは三時間って理解しますわよ!!」

「それ神々の話だろ、俺は人間の話をしてるんだよ」

「そうですわ、私は神々の話をしてますのよ。あなたが勝手に人間界での合図と勘違いしていただけじゃないですの!!」

ああ言えばこう言うといった感じで何分間も言い争いをしていた。

この言い争いは終わらぬと思っていたがゴーンゴーンと鳴り響く鐘の音で言い争いは幕を閉じた。

「もう議論は終わりに致しましょう。そろそろ時間のようですし」

「なんだよ、逃げるのか」

挑発混じりに言った。

「いいえ、逃げてませんわ。それよりあなたにジャッジを下す時間が来たのですわ。」

「ま..だ...」

カズキはまだ議論の勝敗は決してないと言いたかったが、議論していた時とは違う神々しいオーラーにより口を動かせなかった。

そして唐突にジャッジが下された

「地獄行きですわ」


「...はぁーーー!!何でだよ!!」

一瞬の沈黙の後女神に怒鳴りつけた。

「はい!!決まったことに文句は許しませんわよ。では地獄へどうぞー」

両手を軽く叩き、天国の扉とは反対の方を指差した。

「なんでだよ!俺生きてる時なんも悪いことしてないし、地獄に行く理由はないはずだ!!」

「いいえ、十分悪いことしてますわよ」

「なんだよ!?言ってみろよ」

「それは...私に背いたことですわ!!」

一瞬溜めカズキに返答した。

「はぁぁー!!それだけで俺は地獄に行くというのか馬鹿馬鹿しい。女神の権力を乱用するなよ!!」

私情を挟んでのジャッチに納得がいかなかったカズキは先ほどの震えとは違う別の震えを感じていた。

「決まったことはもう無理、私の決定は絶対遵守ですわ!!」

「そんなジャッジ認めない!!」

そう言いカズキは天国の扉の方へと全力で走りだした。

それを見るや否や女神は指をパチンと鳴らした。すると天から5歳ぐらいの背の低い幼女天使達が現れカズキの方へと飛んでいった。

「へっへー扉の向こうさえ行けば、こっちのもんだ...ってなんだあいつら!?」

調子づくもすぐに幼女天使達はカズキに追いつき、捕らえ、女神の元へと転移したのだ。

「離せよ!!俺は何もしてねぇ!!その女神の私情で地獄に行ってたまるかよ!!」

「先程も言ったように私のジャッジは絶対遵守、従ってもらいますわよ」

「絶対地獄は行かない!!」

その姿を見た女神はいいことを思いついたのかニヤリと笑みを浮かべ、カズキに問うた。

「そんなに地獄は行きたくないの?」

「当たり前だろ!!しかもお前の私情もはいってるしな」

「ふふふ、そうですか分かりました。では私に『 女神様どうか先程のご無礼をお許しください 』と土下座+上目遣いをしながら言いなさい。そしたら考え直してもいいですわよ」

興奮を抑えられないのか、先程の凛とした顔が崩れおちていた。

「何でそんなことを言わないといけないんだ!!」

「そんな口の聞き方をしていたら地獄に落としますわよ。大人しくおっしゃってくれればこの蘇生魔法を撃って天国に5年間滞在なしで今すぐにでも生き返らせてあげますわよ。」

右手から緑色のオーラーを醸(かも)し出しており、それをカズキに見せびらかしていた。
唇を噛み締め、女神を睨んだ。そんなことをしたって状況は変わらない。しかしイラつきを抑えるには、それしか無かったのだ。相手は女神だ。暴力に頼っても負けるのは目に見えている。それがどんなに苦しくて残酷なのか。そこに立っている少年カズキだけが知っている。女神の言う事を聞けばその残酷な思いから抜け出せるかもしれない。しかし、カズキはそうしようとはしなかった。何故ならプライドが許さないからだ。カズキは孤独に生きてきた。親もおらず、兄弟もいない。もちろん友達もいない。そんな中生きてきたカズキは己のみを信じるようになったのだ。他人の言うことなんか信用出来ない。嘘に決まってる。もう騙されたくない。。そういった感情が積もり積もって、気づけば右手に黒いオーラが滲み出ていたのだ。何かはわからない。しかし、何故かこの右手を使えば現状を打破出来ると思った。使い方も分からない、この黒いオーラーが何かさえもわからない――

「ふふふ、どうしたのです、俯いて。さぁ土下座して私に媚びるのですよ。ふふふ」

両手をV字に上げ、カズキに眼差しを向けたがカズキは未だに俯いたままでいた。待ちきれなくなったのかカウントダウンを始めた。

「3. . .」

地獄は行かない

「2...」 

女神の言うことは嘘だ、虚言だ!!

「1…」

絶対生き返ってやる!!

キーーーーン

「0!タイムアップですわ。助けを媚びる姿を見ることが出来ないのは残念ですが時間ですので、では」

女神は幼女天使達に地獄に行かせるよう命じ、魔法も解除し、立ち去ろうとした。


「――女神様ぁ助けてくださぁ..ぃ..」

突如背後から悲鳴が聞こえた女神は、後ろを振り向き、幼女天使達を魔法で薙ぎ払うカズキを目にした。

「なっ..なんですか..これは..」

俯いていて、幼女天使達に捕らわれていた無力な少年カズキ。そう思って、幼女天使達に任せた。その結果がこのザマだ。女神は驚きよりも怒りに近い思いをカズキにいや、女神自身に馳(は)せていた。

「あなた、何故魔法を扱っているのです?あなたには魔法特性反応は無かったはず。」

怒りをなんとか隠しながらカズキに平然と質問をした。

「ふん、それは簡単なことだ。この右手と左手で魔法を自在に操ってるんだよ」

幼女天使達が放った魔法を右手で吸収し、左手でその魔法を撃ち放う様子を高らかに女神に見せた。

「そんな魔法聞いたことありませんわ。真似ることはともかく吸収だなんて」

得体の知れない謎の力に警戒し一歩引き下がった。

「まぁ俺もさっき知ったばっかなんだよな。でも使い方は何となく分かってさ」

「嘘は止めなさい!!元々持っていましたわね。あなたのその両手を見たらわかりますわ」

右目を見開きなにか見通す鋭さで両手を見ていた。

「ほんとにさっき知ったんだって」

「いえ、私のジャッチアイの前では嘘は通用しませんわ。何故なら私のジャッジアイは全ての嘘、運命を見ることが出来るのですから」

目に手を当て次は左目で更に深く両手を凝視した。

「えっ...有り得ませんわ、絶対有り得ませんわ」

頭を抱え、目を閉じた女神は何か見たのだ。

「なんだよ、突然」

「だから、ジャッジアイは地獄行きにしたんですわね」

ボソッと誰も聞こえない声で呟いた。

「あなたは地獄に行くべきですわ、その行くべき理由、罪を知らなくても!!」

「なんだよ、それ!?」

「この世には知らない方がいいことだってあるんですのよ!!」

女神は魔法による吸収を恐れ殴りにかかった。

「ぐっっはぁ、あっぶねぇ」

ギリギリよけ、殴った所は大きなクレーターが出来ていた。

「よく避けましたわね。私1人でも捕らえることは可能ですが、時間も惜しいので援軍を呼ばせていただきましたわ」

天から幼女天使達の大軍が100m先から飛んできていた。

「さすがにあの数は多いな」

大空を見上げ嘆くが、ここで立ち止まっては、生き返ることは出来ない。そう思い女神の方へと振り向くとキーーーーーンと先程の耳鳴りが鳴った。その瞬間カズキはニヤリと笑みを浮かべた。

「よそ見とは、随分と余裕をお持ちのようでっ」

はぁぁーーっ!!

女神の拳はもろカズキの腹に命中した。

「よし!!これでもう動けませんわ、ふふふ、どんな姿になっているやら」

「ぐぅぉぉっ!!いてぇぇー」

死んでいるカズキだが天国の扉に入っていない以上、肉体とのリンクがまだ切れておらず痛みなどの感覚はまだ残っている。

「ふふふいい顔ですわね、その顔さいっっこうです!!私の勝ちですわね、援軍もついたようですし」

「はぁ..はぁ..バカ..か..俺の..勝ちだ」

息を切らし途切れ途切れになりながらも、相手に勝利宣告をし、右手で女神の右手を掴んだ。

「ふふふ、そんな見栄っ張りはいらないですわよ。では地獄に参り――」

女神は突如力を吸い取られたように膝をついた。

「なによ..力が..入ら..ない」

「だから言った..だろ俺の勝ち..だってな」

カズキは右手で女神の右手にあった蘇生魔法を吸収したのだ。

「何故私の..蘇生魔法を..吸収してるのよ..魔法は..解除した..はずですわ」

「残念だったな..俺の両手はただ単純に吸収したものを..放出するだけじゃ..ないのさ」

「嘘を..ついて..ますわね」

右目のジャッチアイを発動させていた

「いやさぁ..ほんとにさっき..知ったんだよね」

「そう..ですか...」

女神は意味の無い相づちを打ち、幼女天使達にテレパシーを送り背後から襲うよう命令した。

「では、俺はこれで..蘇生してやるぜ」

勝ち誇った顔をし、カズキは左手で蘇生魔法を唱え放出し自分の体にかけた。肉体とのリンクが切れていない今なら、仮の肉体にかけても効果があるのだ。

そして、幼女天使達がカズキを襲う前に蘇生し、天界から消え去ったのだ。

「くっ!!あれは逃がしてはならない存在でしたわ。地上世界で放置していては危険ですわね」

幼女天使達に少年カズキを暗殺するよう命令し、準備を整え始めた。


   ■■■   ■■■

目の前が真っ暗で何も見えないがすぐにそれは改善された。全身をめぐる液体、そして、光が目に差し込み視界、次に聴覚、嗅覚、味覚そして触覚と感覚を取り戻した。完全に生き返ったカズキが最初に感じた感覚は重力という重みだった。

「――おおおお、おっと重い重ぃぃっと」

ドアの扉を横に倒し立ち上がった。

「ぷはぁー、何で俺の体の上に扉があったんだ?..ってまた扉壊れてるし!!」

あたりを見渡すと、所々壊れていたり、汚れていたりしていた場所を複数発見した。

「ん~まぁいいか!それより俺本当に生き返ったんだな」

手や足顔などを触り、生きている実感が湧き、本当にうれしいと心の底から思った。

「ん~何しようかな...そうだ!!掃除しよう。改心し生まれ変わった俺だ。掃除をして、ちょっとでも心を綺麗にしとこうじゃないか」

そう言い何も前触れなく掃除をやり始めた。

「おおお、細かいとこのほこりとると気分いいな。おっとこんな所にカビがある。ゴシゴシっとあ~スッキリ」

掃除の気持ちよさを知り気分が乗っていたのだか、突如家が崩壊した。

何とか奇跡的に瓦礫の隙間におり、助かった。

「なんだよ急に、やっと生き返れたというに。もしや天界の差し金じゃないだろうな」

不安を抱き、恐る恐る瓦礫の隙間から覗いてみると争っているみたいだ。

「グラサンをかけたオッサンともう1人は...って俺を殺した女じゃねぇか!!」

怒りがこみあげてきたが、即座に冷静になり、怒りを抑えた。ここで飛び出しても勝てるかどうか分からない相手だからだ。
しかし、赤髪の美少女が魔法を唱えグラサンのおっさんに放とうとしているのを見た瞬間カズキの足は動いた。カズキは人を信用出来ないが、困っている人などを見かけると助けずにはいられないという人が嫌いなのか分からない性格なのである。その性格が人を救おうとはカズキ本人も思わなかっただろう。カズキは、グラサンのおっさんを助けようと全力で前へと走り出したのだ。

「おらぁぁっーー!!」

                                        ...continue
      
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