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第三章 根津家を支える者たち
第37話 三代目、お帰りなさい!
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ついにカーシャは、地球に行く許可を周囲から得たようだ。カーシャは俺と一緒に地球に行けることをとても喜んでいる。こっちが照れ臭くなるぐらい...。
応接室を出て食堂に向かうと、そこには”飲みつぶ”のメンバーやアーレント家の使用人、さらにはカーシャの妹たちが真剣な眼差しをして、俺たちが来るのを待っていた。
周囲からは様々な反応が飛び交う。
”飲みつぶ”のメンバーや使用人たちは、「カーシャお嬢様、お気をつけて!」と声をかけた。バロンは「良かったですのう、カーシャお嬢...。願いが叶って。じゃが、油断は禁物ですぞ。向こうでの生活に慣れるまでは、太郎様やユリーと行動を共にすることを忘れずにですじゃ」と忠告した。
キャロンとマーシュンはカーシャの左右の太ももにしがみつき、寂しそうな表情を浮かべていた。カーシャは優しく「キャロン、マーシュン、いい子にしてね。パパとママの言うことをちゃんと聞いて、たくさん勉強して、立派に育つのよ」と二人に語りかけた。
「「お姉ちゃん、もう会えないの?」」
キャロンとマーシュンがつぶらな瞳でカーシャを見上げながら呟いた。その姿は、まるで源さんやボルト、そしてカンナ並みの破壊力だ。
カーシャは優しく微笑みながら、「分からないわ。今まで向こうに行った人たちは誰も帰ってこれていない。でも...私は信じているの。いつか、そう遠くない未来に必ず戻ってこれると。それに、たとえ会えなくても私の元気な姿を写真で送るし、手紙も書くからね。だから、そんな寂しい顔をしないで」と、可愛らしい二人の妹たちに向かって語りかけた。
「「お姉ちゃん!!」」
カーシャは、妹たちが理解できる範囲内で、自分の選択について丁寧に説明した。地球に行くことは、もしかするともう二度とサーマレントに帰ってこれないという重大な決断であることを、時間をかけて二人に語りかける。
サーマレントの地では、冒険者や商人が冒険や移動の途中で魔物や強盗の急襲、窃盗や強姦の被害に遭い、最悪の場合命を落としてしまう事も珍しくない。そんな過酷な世界だからこそ、子供相手でも「すぐに帰ってくる」と軽々しく言うことはできない。
だからこそ、カーシャは自分の選択した道を、可愛らしい二人の妹たちに少しでも理解してもらえるよう、粘り強く語りかけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今生の別れのように寂しさ満点の旅立ちになるかと心配したが、カーシャの粘り強い説明により、二人の妹たちは次第にカーシャの決断を理解し、寂しさを乗り越えて応援する気持ちに変わっていった。
「お姉ちゃん、頑張ってね!」とマーシュが声をかけると、キャロンも続けて「太郎様を逃がしちゃだめよ、お姉ちゃん!それから、向うの世界の素敵な男性をいつか私に紹介してね!」と頼んできた。
さらにキャロンは、「年上で、お金はそこそこ持っていればいいけど、一番は”ホウヨウリョク”がある人がいいわ♡」とカーシャに語った。カーシャも恐ろしいが、キャロンも末恐ろしい。
ダイスやサイモンも微笑んでいる。昨日、「もう二度とカーシャの顔が見れなくなる可能性があるのなら行かないで、欲しい...」と呟いてカーシャを困らせたジュージュンも、涙目ながらも笑顔で送り出せそうだ。
ジュージュンはこっそりと何かを口に含み、口元や喉元が絶えず動いている...。
日本にはまだまだジュージュンたちが知らない美味しいモノがたくさんある。五平餅や柏餅、桜餅、葛餅、草餅...。餅ばっかりだけど...。今度買って来てあげようかな?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
揺れる馬車の中で、アーレント家のメンバーとの別れを思い出していた。馬車にはカーシャはもちろん、向こうの世界から戻ってこれるかの確認のために同行を申し出たダイスも一緒だ。その護衛として、”飲みつぶ”のメンバーも乗っている。
馬車の中で、”飲みつぶ”のメンバーとも普通に笑い合える関係になった。今度、ここ10年ほど前にイースカンダス近郊に出現した新しいダンジョン、通称”ニクマツリ”に一緒に行こうと誘われた。
そのダンジョンに現れる魔物の多くは、肉料理の素材になるものばかりで、まさに”肉祭り”だ。
ぜひとも行きたいが、そんな場所は冒険者で溢れ返っていないのか?と尋ねると、意外にも全く人気がないらしい。どうやら上層階にキングミノタウロスが現れたり、集団で不意打ちを仕掛けてきたり、更には罠が多発しているため、死亡率が非常に高いとのことだ。
一攫千金を狙えるが、命を落とせば元も子もないため、誰も寄り付かないのだという。
すげー、まさに俺のために出来たようなダンジョンだな。「ぜひ連れて行って欲しい」とお願いした。さらに、ダンジョンにいるモンスターを倒すと、時折魔石が出現し、宝箱も現れるという。
「タロウなら、単独クリアもできちゃうって!」とエメリアに言われたが、目立ちたくないのでやらない。あと、”ニクマツリ”以外にも、”サカナマツリ”、”ヤサイマツリ”、”クダモノマツリ”などもあるらしい。全部踏破したいな...。
”飲みつぶ”たちと話していてもお尻の痛みは変わらなかったが、何とか扉までたどり着いた。さあ、無事にカーシャが地球に渡れて、そしてサーマレントの地に戻ってこれればいいのだが、どうなる事やら...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
扉の前に到着すると、ダイスは深いため息をつきながら扉を見つめた。そして...。
「私が扉まで太郎様とカーシャについてきたのは、カーシャがサーマレントの地に戻ってこれるかを確かめるためです。戻ってこれれば安心してアーレント邸に帰れますが、戻ってこられない場合は...その事実を家族に伝えます。それだけです」
ダイスはいつもと変わらぬ視線で俺を見つめてきたが、その表情には心配の色が浮かんでいた。
扉を開くと、目の前には見慣れた精肉店の地下室が広がっていた。源さんとカンナ、ボルトが「きゅ~♡」や「わんわん!」と鳴きながら精肉店側に移って行った。
その流れで俺とカーシャも精肉店側に移った。カーシャもすんなりと行けた。何の障がいも無く。ちょっと拍子抜けするぐらい。
だが...。
カーシャは何をしてもサーマレント側に戻ることが出来なかった。俺が考え出した”サーマレント人が帰れるようにできる魔法”や、”サーマレントに誰でも行き来できるようにできる魔法”などを試してみたが、全て無駄足に終わった。
何をやっても、カーシャはサーマレント側に戻れない様だ。
サーマレント側の扉の前には、”飲みつぶ”のメンバーとダイスが、何とも言いようのない表情でこちらを見つめている。
バロンが「この扉の力のせいで、ユリーやバランが帰ってこれなかったのか...またアイツらと酒を飲み交わす日が遠のいてしまったわい」と、苦々しい表情を浮かべて呟いた。
皆んながある程度予感していた。だが、心のどこかで俺の魔法で何とかなるだろうと思っていた節がある。だって俺もそう思っていたから。
俺の魔法は万能だと思っていたが、この扉を通ってカーシャがサーマレントにはどうしても無理なようだった。
何とも言えない罪悪感が胸に広がり、その感情が自然と表情に現れていたようだ。隣にいるカーシャがそれに気づき、「太郎様、そんな表情をなさらないでください!カーシャは今、これから始まる出来事に胸が弾んでいるのですから!」と努めて明るく振る舞ってくれた。
彼女はまだ15歳だというのに...。両親の元に戻れないという辛い状況にもかかわらず、逆に年上の俺を励ましてくれるなんて...。
精肉店の地下室に暗雲が立ち込めたその時...。
カツーン、カツーン...。
地下室に響く足音が、静寂を破った。そして、「そんなに落ち込むことはありませんよ、太郎様。諦めずに他の方法を考えましょう。太郎様、いえ、三代目」と、優しい声が語りかけてきた。
振り返ると、そこにはエリーが立っていた。いや、その三代目という言葉...もしかしてトヨさんなのか...?
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周囲からは様々な反応が飛び交う。
”飲みつぶ”のメンバーや使用人たちは、「カーシャお嬢様、お気をつけて!」と声をかけた。バロンは「良かったですのう、カーシャお嬢...。願いが叶って。じゃが、油断は禁物ですぞ。向こうでの生活に慣れるまでは、太郎様やユリーと行動を共にすることを忘れずにですじゃ」と忠告した。
キャロンとマーシュンはカーシャの左右の太ももにしがみつき、寂しそうな表情を浮かべていた。カーシャは優しく「キャロン、マーシュン、いい子にしてね。パパとママの言うことをちゃんと聞いて、たくさん勉強して、立派に育つのよ」と二人に語りかけた。
「「お姉ちゃん、もう会えないの?」」
キャロンとマーシュンがつぶらな瞳でカーシャを見上げながら呟いた。その姿は、まるで源さんやボルト、そしてカンナ並みの破壊力だ。
カーシャは優しく微笑みながら、「分からないわ。今まで向こうに行った人たちは誰も帰ってこれていない。でも...私は信じているの。いつか、そう遠くない未来に必ず戻ってこれると。それに、たとえ会えなくても私の元気な姿を写真で送るし、手紙も書くからね。だから、そんな寂しい顔をしないで」と、可愛らしい二人の妹たちに向かって語りかけた。
「「お姉ちゃん!!」」
カーシャは、妹たちが理解できる範囲内で、自分の選択について丁寧に説明した。地球に行くことは、もしかするともう二度とサーマレントに帰ってこれないという重大な決断であることを、時間をかけて二人に語りかける。
サーマレントの地では、冒険者や商人が冒険や移動の途中で魔物や強盗の急襲、窃盗や強姦の被害に遭い、最悪の場合命を落としてしまう事も珍しくない。そんな過酷な世界だからこそ、子供相手でも「すぐに帰ってくる」と軽々しく言うことはできない。
だからこそ、カーシャは自分の選択した道を、可愛らしい二人の妹たちに少しでも理解してもらえるよう、粘り強く語りかけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今生の別れのように寂しさ満点の旅立ちになるかと心配したが、カーシャの粘り強い説明により、二人の妹たちは次第にカーシャの決断を理解し、寂しさを乗り越えて応援する気持ちに変わっていった。
「お姉ちゃん、頑張ってね!」とマーシュが声をかけると、キャロンも続けて「太郎様を逃がしちゃだめよ、お姉ちゃん!それから、向うの世界の素敵な男性をいつか私に紹介してね!」と頼んできた。
さらにキャロンは、「年上で、お金はそこそこ持っていればいいけど、一番は”ホウヨウリョク”がある人がいいわ♡」とカーシャに語った。カーシャも恐ろしいが、キャロンも末恐ろしい。
ダイスやサイモンも微笑んでいる。昨日、「もう二度とカーシャの顔が見れなくなる可能性があるのなら行かないで、欲しい...」と呟いてカーシャを困らせたジュージュンも、涙目ながらも笑顔で送り出せそうだ。
ジュージュンはこっそりと何かを口に含み、口元や喉元が絶えず動いている...。
日本にはまだまだジュージュンたちが知らない美味しいモノがたくさんある。五平餅や柏餅、桜餅、葛餅、草餅...。餅ばっかりだけど...。今度買って来てあげようかな?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
揺れる馬車の中で、アーレント家のメンバーとの別れを思い出していた。馬車にはカーシャはもちろん、向こうの世界から戻ってこれるかの確認のために同行を申し出たダイスも一緒だ。その護衛として、”飲みつぶ”のメンバーも乗っている。
馬車の中で、”飲みつぶ”のメンバーとも普通に笑い合える関係になった。今度、ここ10年ほど前にイースカンダス近郊に出現した新しいダンジョン、通称”ニクマツリ”に一緒に行こうと誘われた。
そのダンジョンに現れる魔物の多くは、肉料理の素材になるものばかりで、まさに”肉祭り”だ。
ぜひとも行きたいが、そんな場所は冒険者で溢れ返っていないのか?と尋ねると、意外にも全く人気がないらしい。どうやら上層階にキングミノタウロスが現れたり、集団で不意打ちを仕掛けてきたり、更には罠が多発しているため、死亡率が非常に高いとのことだ。
一攫千金を狙えるが、命を落とせば元も子もないため、誰も寄り付かないのだという。
すげー、まさに俺のために出来たようなダンジョンだな。「ぜひ連れて行って欲しい」とお願いした。さらに、ダンジョンにいるモンスターを倒すと、時折魔石が出現し、宝箱も現れるという。
「タロウなら、単独クリアもできちゃうって!」とエメリアに言われたが、目立ちたくないのでやらない。あと、”ニクマツリ”以外にも、”サカナマツリ”、”ヤサイマツリ”、”クダモノマツリ”などもあるらしい。全部踏破したいな...。
”飲みつぶ”たちと話していてもお尻の痛みは変わらなかったが、何とか扉までたどり着いた。さあ、無事にカーシャが地球に渡れて、そしてサーマレントの地に戻ってこれればいいのだが、どうなる事やら...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
扉の前に到着すると、ダイスは深いため息をつきながら扉を見つめた。そして...。
「私が扉まで太郎様とカーシャについてきたのは、カーシャがサーマレントの地に戻ってこれるかを確かめるためです。戻ってこれれば安心してアーレント邸に帰れますが、戻ってこられない場合は...その事実を家族に伝えます。それだけです」
ダイスはいつもと変わらぬ視線で俺を見つめてきたが、その表情には心配の色が浮かんでいた。
扉を開くと、目の前には見慣れた精肉店の地下室が広がっていた。源さんとカンナ、ボルトが「きゅ~♡」や「わんわん!」と鳴きながら精肉店側に移って行った。
その流れで俺とカーシャも精肉店側に移った。カーシャもすんなりと行けた。何の障がいも無く。ちょっと拍子抜けするぐらい。
だが...。
カーシャは何をしてもサーマレント側に戻ることが出来なかった。俺が考え出した”サーマレント人が帰れるようにできる魔法”や、”サーマレントに誰でも行き来できるようにできる魔法”などを試してみたが、全て無駄足に終わった。
何をやっても、カーシャはサーマレント側に戻れない様だ。
サーマレント側の扉の前には、”飲みつぶ”のメンバーとダイスが、何とも言いようのない表情でこちらを見つめている。
バロンが「この扉の力のせいで、ユリーやバランが帰ってこれなかったのか...またアイツらと酒を飲み交わす日が遠のいてしまったわい」と、苦々しい表情を浮かべて呟いた。
皆んながある程度予感していた。だが、心のどこかで俺の魔法で何とかなるだろうと思っていた節がある。だって俺もそう思っていたから。
俺の魔法は万能だと思っていたが、この扉を通ってカーシャがサーマレントにはどうしても無理なようだった。
何とも言えない罪悪感が胸に広がり、その感情が自然と表情に現れていたようだ。隣にいるカーシャがそれに気づき、「太郎様、そんな表情をなさらないでください!カーシャは今、これから始まる出来事に胸が弾んでいるのですから!」と努めて明るく振る舞ってくれた。
彼女はまだ15歳だというのに...。両親の元に戻れないという辛い状況にもかかわらず、逆に年上の俺を励ましてくれるなんて...。
精肉店の地下室に暗雲が立ち込めたその時...。
カツーン、カツーン...。
地下室に響く足音が、静寂を破った。そして、「そんなに落ち込むことはありませんよ、太郎様。諦めずに他の方法を考えましょう。太郎様、いえ、三代目」と、優しい声が語りかけてきた。
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