異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!

たけ

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第四章 "柳ケ瀬風雅商店街復活祭第一弾”

第60話 山ちゃんの頼み事

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 リンカと山ちゃんは、まるで長年の友人のように馬が合い、ニコニコと笑顔を浮かべながら一緒にショッピングに行く計画を立てている。

 好きなブランドやお店について話すたびに、二人の目は輝き、楽しげに話が弾んでいる。

 「ねえ、ZARDザードの新作見た?」「見た見た!H&Lもいいけど、名古屋ならやっぱりSamantha Thavasaサムライ タバサとかLISU LISAリスリザも可愛いよね。あと、SLIMEスライムとかも要チェックだよ!」と楽しそうに話している。何⁉新しいサッカーチームの名前?それとも新作ゲーム⁉

 さっぱりついていけない...。

 お、俺だけ蚊帳の外...。で、でも、い、いいもん!寂しくないもん!二人が仲良く話していれば、それでいいもん!

 そんな中、二人は俺がボーッと見ていることに気づいたようで、気まずそうにリンカが「ご、ごめんなさいね、太郎さん。山ちゃんとずっと話してて...」と謝って来た。リンカに続いて山ちゃんも申し訳なさそうに「太郎君、ごめんね...」と言った。

 別に謝る必要はないのに...。謝られると逆にもっと惨めな気持ちになるのはどうしてだろう...。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 楽しそうに話していたリンカは、山ちゃんに「リンカ、太郎君に頼んでみたら?」と後押しされ、意を決したように「た、太郎さん!山ちゃんも異世界について来てくれるって言っているし、私も向こうの世界、異世界に、い、行きたい...です!」と頼んできた。

 もう断る理由もないし、バレバレだし。ただ、親父がサーマレントに行けなかったことをもう一度話して、どんなに望んでも行けない場合があることだけは、再度リンカに伝えた。

  するとリンカは、「いいの、ニックも行けなかったんだから。もし行けなくても太郎さんや山ちゃんに出会えたんだもの!それだけでも十分な財産よ!」と、微笑みながら言った。

 しかし、リンカの瞳には一瞬の寂しさが宿り、「でも...できれば行ってみたいな、異世界に...」と最後は本音を漏らした。

 そんなリンカの後に、山ちゃんが元の姿に戻り、何かを深く考えるような仕草をしながら、俺に話しかけてきた。

 山ちゃんの表情には、決意と不安が入り混じっているようだった。

 「あ、あのね太郎君...実は私もお願いがあるんだけど...」

 山ちゃんは緊張で少し唇をかみしめながら、真剣な瞳とその内に秘められた決意に、俺は一瞬息を飲んだ。「どうしたの、山ちゃん、そんな思いつめた表情をして...」

 そう、山ちゃんに言葉をかけようとした瞬間...。

 コンコン...。

 特別室のドアを叩く音が聞こえた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 「リンカ、そろそろ時間だ。退院後に必要な用事を片付けて、みなさんと再会する時間を作って頂きなさい」と、父親が優しく語りかけた。さらに、「この部屋代はサービスらしい。きちんとお礼を伝えるんだ」と、穏やかな口調ながらも、真面目な表情でリンカに伝えた。

 そして、リンカの父親は改めて俺たちの方を向き直り、「今回は娘が本当にお世話になりました。また、今後も娘と仲良くしてやって下さい。お願いします」と深々と頭を下げた。

 「お、お父さん...」そう言ってリンカは両頬を赤らめながら、「みみなさん、お、お願いします」と声を裏返らせ、照れくさそうに頭を下げた。

 リンカは直ぐにでも異世界に行きたい様子だったが、警察の事情聴取や保険の対応、各種手続き、仕事先や居合道場への顔出し、さらには新しい車の購入と、やるべきことが山積みだった。

 それでも彼女は、「二日後にはみんなに会いに行く!」と意気込んでいた。

 リンカが二日でこれらを全て終わらせようとするパワフルさには、本当に驚かされる。俺なら一週間はかかりそうだ。

 異世界に早く行きたい気持ちは分かるけど、あまり無理しないでね、リンカ。
 
 そんなやる気に満ち溢れたリンカを残して、俺たちも一旦帰ることにした。ここまで送ってくれた山ちゃんに悪いから、タクシーで帰ろうかと思ったが、山ちゃんはみんなを送りたいと言い、相談したいことがあると言ってきた。

 相談...?

 相談したい事って何だろう?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 車に乗り込んだ瞬間、山ちゃんは外見を”山ちゃん第二形態”にチェンジした。

 出来る限りこの容姿でいたいんだろうな。そしてもちろん、ボンテージ姿ではなく、クリーム色のタートルネックセーター、キャメル色のハイウエストワイドパンツ。

 そして、ブラックのレザーアンクルブーツという装い。本当に一種のイリュージョンだな。

 願うだけで服装を変えられるの⁉

 そんな俺たちの上空から「ゴォォォォォォ!!」という大きな音が鳴り響いた。国道二十一号沿いにある”航空自衛隊基地”から離着陸する自衛隊機の音だ。カッコいいけど名前がちっともわからない。

 その音は、まるで空を切り裂くような迫力で、心臓がドキドキと高鳴る。青空に映える自衛隊機のシルエットが一瞬見えた気がした。

 そうだ、今年の自衛隊航空祭2024に行ってみるのもアリかも。カーシャも連れて行ったら、きっと喜んでくれるだろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 柳ケ瀬方面に走らせながら、山ちゃんは「た、太郎君、ちょっと相談したいことがあって...。カーシャさんやユリーさんにも関わると思うの。そこの喫茶店に寄らない⁉」と言って、”パンプキンパンダ”に立ち寄ることになった。

 ”パンプキンパンダ”は、木造の温かみのあるデザインで、クリーム色の壁と緑の屋根が特徴的な建物。入口には、小さなガーデンがあり、季節の花々が彩りを添えてる。

 店内に入ると、信じられないほど美しい三人の来店に、周りが騒めき出す。

 「げ、芸能人⁉」

 「モデルさんだよね⁉」

 「ねぇねぇ、リンカじゃない?ウィッグしているのかな?あとはモデル仲間かなぁ?」

 「あれは、運転手⁉」

 こらこら、人を「あれ」呼ばわり⁉ しかも運転手だって? まあ、気持ちは分からんことは無いけどね...。

 周りのひそひそ話を全て無視して、山ちゃんお勧めの”パンプキンノワール”をカーシャとユリー、山ちゃんが注文し、俺は山ちゃんから少し分けてもらうことにした。

 カーシャが嬉しそうにパンプキンノワールを食べる横で、少し緊張した様子の山ちゃんがゆっくりと口を開いた。

 「お願いがあるの!パパとママにこの姿を見せたいの。異世界のこともバレちゃうけど...。ダメならもちろん我慢する!でも、パパは医者で、ママは元ナースだから、守秘義務を守ってくれると思う。いえ、絶対に他人に話さないと思う!」と言って、真剣な眼差しで俺を見つめる。

 その表情は不安でいっぱいで、涙袋には溢れんばかりの涙がたまっている。瞬きをした瞬間にでも決壊しそうなほど...。

 そうだよな。せっかく外見で悩んでいた山ちゃんが、女性の身体に変わる能力を手に入れたら、一刻も早く女性として暮らしたいだろう。そのためには家族の理解も得ておきたいはずだ。両親に話すことはしょうがないことだと思う。

 対面に座るユリーとカーシャに視線を送ると、二人も俺の意図を察したかのように、ゆっくりと首を縦に動かした。

 「いいんじゃない⁉しっかりと秘密を守ってくれれば」と山ちゃんに伝える。すると山ちゃんは「あ、ありがとう!!嬉しい!パパとママには散々迷惑をかけたから...。私が外見や性の事で悩んでいることも知っているから、きっと喜んでくれると思う!」と笑顔を見せた。

 さらに...。

 「知人や近所の人には、引きこもり中に肉体改造してたって言うつもり。病院関係の人には従姉妹ってことにしとくわ」と苦笑いをしながら、自分のプランを打ち明けた。

 まあ、絶対に気づかれることは無いだろうな。

 そんな表情で山ちゃんを見るわけにもいかないから、山ちゃんの食べているスプーンを借りてパンプキンノワールを少し貰うと、両頬を真っ赤にして「か、間接キッス♡」と身体をくねくねさせる。

 や、山ちゃん、飲んでるレモンティーをテーブルに置いてから体をくねらせようか。火傷しちゃうよ?

 そんなくねくね山ちゃんが、もう一つお願いがあると言ってきた。そしてと言って、さっきまでの体のくねりがぴたりと止まった。

 さっきの話でも十分驚かされたけど、さらに衝撃的な話題なの...?俺は飲んでいた珈琲がごくりと喉を通る音が聞こえた気がした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ”パンプキンパンダ”の中はシックな造りで、天井が高く、こげ茶色の木目が美しく映えるレトロな雰囲気が漂っている。

 大きな窓からは自然光が差し込み、アンティーク調の家具が並ぶ。壁には年代物のポスターや絵画が飾られ、天井からつるされたランプが柔らかな光を放っている。奥にはゆったりとしたソファ席があり、珈琲の香りが漂う落ち着いた空間だ。

  美女三人とおまけが急に登場したから、店内はなんとなくざわついている。俺たちにカメラを向けると、自動的に携帯がシャットダウンする魔法を店内にかけているためか、「あれ?私の携帯の調子が...」という声が、店内の至る所から聞こえてくる。

 マナーの悪い人たちが多いな。

 少し気分を害している俺に対して山ちゃんが、「あとね、私を太郎君のお店で働かせて欲しいの...それから、太郎君家の近くに住まわせて欲しいの...」と、頬を赤くしながら伺うように尋ねてきた。

 な、何ですと⁉いや、何でまた⁉
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