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第六章 エルメス奴隷商会と獣人奴隷
第80話 希望
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俺、サイモン、シリウス、そして源さんは、重厚な扉の前に立っていた。その扉は、まるで古びた城門のように威圧感を放ち、俺たちは商会の使用人たちがそれを開けるのを静かに待っていた。
ギギィィィィィ...。
錆びついた金属音が耳をつんざくように響き、扉がゆっくりと開かれる。
扉が開かれた瞬間、鼻をつく異様な臭いが一気に押し寄せた。「うっ!」と思わず声が漏れる。糞尿や血液、膿汁が混じり合った強烈な臭気が、まるで生き物のように俺たちを包み込み、息が詰まりそうになる。
「本当に...申し訳ございません。これでも日に何度か、使用にたちが清掃を行っています。ですが、どうしても追いついてはいません。商売のため、まずは売れる者のいる部屋から手をつけております」
シリウスは眉間にしわを寄せながら、臭いに耐えつつ俺に言った。その声には、申し訳なさと諦めが混じっていた。周囲には悪臭が漂い、空気が重苦しく淀んでいる。
だが、確かに木桶や柄杓、たわしの様な物を持った使用たちが忙しそうに動き回っている。その手に握られた道具は、使い込まれて古び、このフロアの過酷さを物語っていた。
さらに、ふと目に留まったのは、プニプニした丸い球体だった。あれは何だ?まるで生きたゼリーのような物がゆっくりと這い回り、このフロア内を自在に移動している...。
その球体は淡い青みがかった色をしており、まるで柔らかい波のようにうねっていた。どこか幻想的で、不思議と目を引かれた。
俺がその球体を夢中で見つめていると、サイモンがそっと近づき、こう言った。
「あれは太郎様、スライムです。ゴミや排泄物を吸収してくれる、飼いならされた従魔です」
おお!ファンタジー世界の定番の魔物に出会えた!
ただ、初めての遭遇がダンジョンでも平原でもなく、奴隷商会内って...。これが現実なのかな...。
なんでも、スライムは従魔にしやすく、排泄物や不要なモノをまとめて置いておくと、吸収してくれる便利な魔物らしい。そのため、汚れの酷い場所では、スライムを放しておくと勝手に汚れを吸収してくれるという。その姿はまるで異世界版のルンバのようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
このフロアには、廊下の両側に四人部屋ほどの広さの部屋が並んでいる。全部で四部屋ほどあるようだ。それぞれの部屋には、無理やり詰め込まれた八つのベッドが置かれ、空間には圧迫感と息苦しさが漂っている。
目を凝らすと、負傷者たちが巻いている包帯は時間が経ち、黒ずんでいるのが目に留まった。さらに、布団や毛布には血や尿、膿汁の染みが広がり、乾いた跡が不気味に浮き上がっている。薄暗い照明の下では、その光景がいっそう陰鬱な雰囲気を漂わせていた。
ここの環境と比べると、ジュードが休んでいた場所はまるで別世界のようだった。シリウス、いや、ヒルメス奴隷商会にとって、ジュードは特別な存在であり、その扱いからも彼がどれほど大切にされているかが伝わってくる。
いや、そうとは断言できないのかもしれない。ここに収容されている人々は、本来ならば売り物にはならない存在だ。それでも、雨風をしのぎ、食事が提供される環境に身を置けるだけでも、彼らにとっては幸せなのかもしれない。
「多くのお客様は、美貌のエルフや性技に長けた者、博識な者、そして戦闘技術に優れた者にしか目を向けません」
シリウスは、本当に申し訳なさそうに目を伏せ、部屋の中を一瞥すると、深いため息をついて俺に謝罪した。その後、部屋にいる奴隷たちについて説明を始めた。
薄暗い光が差し込む中、埃が舞う空気が重く感じられる。
「このように、傷ついた者を買いたいと言う輩は殆どいません。いたとしても、特殊な性癖を持つ貴族や、人体実験のために、生きる生命を欲する魔術師等です。奴らは...鬼畜です...どうしようもない輩です」
本当に嫌なのだろう。シリウスの顔には、深い悲しみと怒りが入り混じり、その目はどこか遠くを見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「この者達は、ジュードさんのことを知っているのか?また、この部屋にいる者は信頼できるのか?」と俺はシリウスに尋ねた。
俺の問いかけに対してシリウスは、「このフロアにいる者たちはジュード様の元部下や彼を慕う者たちばかりです。全員が獣人で構成されています。ジュード様が回復されたと知れば、ここにいる者たちもきっと元気を取り戻すことでしょう!」と応えた。
なるほど...。
ジュードが元の姿を取り戻したと知れば、ここにいる者たちも勇気づけられ、積極的に治療を望む様になるかもしれない。その可能性に心の中で微かな希望の光が差し込み、胸が少し温かくなった。
よし、それならば、ここにいる者たちにジュードの回復を伝え、同時に彼のように回復を希望する者を募ろう。
あと、戦争奴隷たちが30人程いるとなると、さすがの俺でも魔力枯渇の心配が出てくる。サイモンもシリウスもその点を気にしたのか、使用人たちに大量のマジックポーションを用意させたようだ。
薄暗い部屋の中では、小瓶を抱えた使用人たちが忙しそうに動き回る姿が目に入る。
もっとも、俺の場合は空気中の魔力を自動的に吸収できるから、少し休憩すれば済む話だ。それでも、せっかく用意してもらったのだから、あとでマジックポーションというモノを試してみるのも悪くないだろう。
小瓶に入った紫色の液体が、ほんのりと光を放っているのが見えた。
何はともあれ、ここにいる者たちに問いかけてみよう。そして、ジュードと同じように未来を共に歩く仲間を探そう!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋の前で足を止めると、中にいる奴隷たちの視線が一斉にこちらに向けられた。その目には友好の色はなく、警戒と敵意がはっきりと浮かび上がっている。
特に動きが不自由そうな者ほど、ひときわ強い警戒心を抱いているように見えた。さらに、この場所にいるのは皆獣人であり、俺が人族であることが、彼らの中の敵意をさらに煽っているのかもしれない。
ここにいる奴隷たちは、人族との戦いで深い傷を負った経緯がある。そのため、俺の存在そのものが、彼らにとっては敵意を抱かせる要因の一つの様だ。
だが、ジュードを治療したこと、いや、彼が回復した事実を伝えれば、俺に対する信頼の糸口になるかもしれない。そう考え、俺は意を決して行動に移すことにした。
深呼吸をし、できるだけ大きな声で彼らに俺の想いを伝える準備を整えた。
さあ、伝えよう!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「俺はジュードさんの身体を治しました!そして...ジュードさんの望むことを叶えれば、彼はこれからの人生を俺に捧げると誓ってくれました!皆さんも、どうかこれからの人生を俺に託して頂けませんか⁉」
その声は、この空間中に響き渡り、張り詰めた空気を切り裂く一計となる...つもりだった。
しかし、俺が言葉を発した瞬間、部屋中の視線はさらに鋭さを増し、ざわめきが広がった。彼らの表情には疑念が浮かび、至る所から罵声が飛びかった。
「嘘をつくな、クソったれ人族が!」
「また、私たちを騙そうとしているのかい⁉」
「ジュード様のあんな傷が、あんたみたいな得体のしれない者が治せるはずが無いだろうが!!」
シリウスや使用人たちの「静かにしろ!」や「太郎様のお話を聞け!」という制止の声も、風に紛れてかき消されていった。その場の混乱は、収まりそうな気配すら見えないままだった。
俺はその場で立ち尽くし、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
しまった...!もう少しジュードの回復を待って、彼と一緒に来るべきだった。後悔の念が胸を締め付けた。目の前の状況に、どうすればいいのか分からず、言葉を失ってしまった。
だが、その瞬間...。
ギギィィィィィ...!!
重厚な扉が大きな音を立てて開き、戦争奴隷たちの区画への入り口が姿を現した。その向こうには、使用人に肩を支えられながら立つジュードが鋭い目で俺を見つめていた。
扉の開く音が部屋中に響き渡り、ジュードが現れた瞬間、まるで時が止まったかのような静寂が訪れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ベッドの上では全身を包帯で覆われていたため、その姿は分からなかったが、今こうして立っているジュードの姿は、まさに獅子族そのものであった。
金色の毛並みは薄暗い部屋でもひときわ輝き、まるで太陽の光を浴びているかのような艶があった。精悍な顔つきで俺を見つめるその瞳には鋭い光が宿り、全身から放たれる圧倒的なオーラは、元最高司令官の風格を感じさせた。
ジュードは真直ぐに俺に近づいて来る。その動きに合わせて金色の毛が美しく揺れ、部屋中の視線が一斉に彼に注がれた。この場にいる全員が息を呑むのが分かる。そして、彼は静かに口を開いた。
「私は太郎様からの治療を受けた後、意識を失ってしまい、すぐにお礼を申し上げることができませんでした。そのため、シリウス殿の使用人の方々に無理を言い、こちらに連れて来て頂きました」
ジュードは自らの身体を支える使用人に目を向けながら、静かに語り始めた。彼を支える使用人は、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。
「この度は、私の腕や脚の再生、さらには全身を蝕んでいた毒を取り除いて頂き、心より感謝申し上げます。先ほどまでの苦痛が嘘のように消え去り、驚きと感謝の念に堪えません」
ジュードはこの部屋にいる者たちを見渡した後、俺を真っ直ぐに見つめながら続けた。
「身分を弁えぬ願いであることは重々承知しております。しかし、いつの日か、私や部下たちをこのような非道な目に遭わせた者たちに対し、報いを果たす機会を頂ければと存じます...!」その言葉には、彼がどれほどの決意を胸に秘めてここに来たのかが、ひしひしと伝わってきた。
奴隷の立場でありながら、主人に願いを口にするなど本来はあり得ない。しかし、ジュードの瞳には抑えきれない熱情が宿っていた。
治療の前に俺がジュードに告げた言葉、「治療後、意識を取り戻したら相談しよう!あなたを苦しめていた者たちへの報復について」が、彼の胸の中で何度も反響しているのだろう。
ジュードは静かに一歩前へ進み、深く息を吸い込んだ。その仕草には、場の空気を一変させるような威厳が漂っていた。
まだ本調子ではない身体を押して、ジュードは肩を支える使用人の手をそっと外すと、静かに床に片膝をついた。その姿勢を保ちながら、彼は真っ直ぐにこちらを見上げ、静かでありながら力強い声で語り出した。
「もし、この願いを叶えて頂けるのであれば、私は今後、全身全霊をもってあなた様にお仕えいたします!」
その声は鋼のように硬く、揺るぎない決意が込められていた。ジュードの表情には覚悟と誓いが刻まれ、その瞳は鋭く俺の目を射抜いてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その場にいた戦争奴隷たちは、目の前の光景に動きを止めた。まるで...時間が止まったかのように、ただ呆然と俺とジュードを見つめている。
俺は一瞬、我を忘れ、その場に立ち尽くしてしまった。ジュードの行動が持つ重みと、その場の空気に圧倒され、言葉を失った。しかし、彼の身体がまだ完全ではないことを思い出し、咄嗟に声をかけた。
「ジュードさん、無理をしてはいけません。今は休むべきです!」
ジュードの姿勢は崩れかけたが、それでも...その姿勢を止めようとしない。いや、あえて周りの者たちに見せつけている様だった。彼の目には揺るぎない決意が宿っており、その瞳が俺をまっすぐに見つめる。
「主人が自分の奴隷に敬語を使うべきではありません。私のことはジュードと呼んで下さい。敬語も、どうかお控え下さい」と彼は俺に言った。
そんなやり取りを見ていた一人が、低い声で呟いた。
「本当...だったんだ!ジュード最高司令官が復活なされた...!」
その声に追随するかのように...。
「ジュード様が人族の前で跪いている...!それに敬語も不要と!あの男がジュード様を治したに違いない!」
「ジュード様が...自分のことを...奴隷って言ったぞ!」
ざわめきは次第にフロア中に広まった。
その静かな波は、大海原を駆け抜けるかのように、部屋中に広がっていった。
「ジュード様の脚も腕もある!あの男の言葉は本当だったんだ!俺も...治してもらえるのか?」と、誰かが叫んだ。その声には、驚きと希望が入り混じり、これまでの不安や疑念を打ち破るような力強さがあった。
部屋のあちらこちらから様々な声が上がり始めた。部屋に入った時とは明らかに違う、このフロアにいる者の目には希望の光が宿り始めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ざわめきが広がる中、俺はしっかりと声を張り上げた。「ジュードさ、いや、ジュード。気持ちは十分に受け取った。だから、今はベッドに戻り、横になって休んで欲しい。体力が回復したら、俺に付き合って欲しい場所がある。いや、一緒に行こう」と、ジュードに伝えた。
部屋の喧騒が一瞬で静まり、まるで時間が止まったかのようだった。そして、全員の視線が再びジュードと俺に集中した。ジュードは一瞬、戸惑いの表情を見せたが、すぐにその瞳は決意の光を宿し、俺に問いかけて来た。
「失礼ですが、それは...どちらでしょうか?」
彼の声は低く力強く、それでいて部屋全体に響き渡るような重みを持っていた。その瞳は俺を真っ直ぐに見つめ、行き先を尋ねるその表情には、希望と期待が入り混じっていた。
俺は一歩前に進み、ジュードの目を見据えた。その瞬間、部屋の空気が一層張り詰め、まるでここにいる全員が息を呑んで次の言葉を待っているかのようだった。俺は深く息を吸い込み、この場の空気を切り裂く刃のように、はっきりと告げた。
「体力が回復したら、ジュードの願いを叶えに行こう。ジュードや部下を陥れた者への報復に!ジュードが動けるようになり次第、ヒメール王国の王宮をぶっ潰しに行く!これは...決定事項だ!」
自分の言葉が部屋の隅々まで届いたことを確信しながら、俺は静かに息を整えた。胸の中での鼓動の高鳴りを感じた。
「ごめん、お袋。しばらく精肉店の仕事を休むことになりそうだ」と心の中で呟いた。
自分の決断を再確認した。今後のことを考えると、ジュードの復讐を早々に終わらせることが最善の策だと信じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジュードや周囲の者たちが呆気に取られる中、俺は足元にいる頼れる部下を見つめながら、少しおどけた調子でジュードに語りかけた。
「大丈夫だ。ここに優秀な部下がいるから。この子はとても頼りになるから」
その瞬間、源さんの耳がピンと立ち、目が輝いた。その姿は、まるで自分の出番を待ち望んでいたかのようだった。
源さんは俺の意図を察し、勢いよく前足を床に叩きつけながら「やるんだわん!わんがご主人様を守るんだわん!」と元気よく吠えた。
尻尾を勢いよく左右に振りながら、床をカリカリと擦る音が響く。
「源さんやめて、床が削れちゃうから!」と俺は苦笑いを浮かべながら、源さんの行動を制止しようとしたが、源さんのやる気は収まらない。その様子に、周囲の者たちも思わず微笑んだ。
ジュードはそんな光景を見つめ、少し眉をひそめた。彼の顔には一抹の疑念が浮かび、その目が静かに問いかけてきた。
「本当に、私の願いを優先して頂いける...のでしょうか?」
ジュードの声には驚きと困惑が入り混じり、彼の目は俺の真意を探るように鋭く光る。
その視線の鋭さに気後れしそうになる心を必死に奮い立たせ、俺はジュードに対して一歩も引くことなく、彼の視線をしっかりと受け止めた。そして、真剣な表情を浮かべながら、静かに言葉を紡いだ。
「ああ。ジュードの願いを早々に叶えようと思っている。そうしなければ、ジュードも安心して俺に仕えることができないだろうからな」
その言葉には、俺の決意と覚悟が込められていた。俺の言葉を聞いたジュードの目が一瞬見開き、その表情には驚きが浮かんだ。しかし、次の瞬間にはその瞳にこれまで以上に力強い光が宿り、口元が大きく開いた。
「わはっはははー!!」
その笑い声は、部屋中に響き渡り、重苦しい空気を一気に吹き飛ばしたかのようだった。
「本当に、あなた様は面白いお方だ。私が全身全霊でお使いするに相応しい...!」
ジュードは快活な声で言いながら、周りの元部下たちに視線を向けた。その目には、かつての最高司令官としての威厳と、仲間への深い信頼が宿っていた。
「ここにいる者たちも、自分の身のふり方を考えよ!私は...やるべきことが出来た!そして、そのやるべきことが済んだ後は、太郎様の元で生きる!お前たちも自分の人生を決めよ。おそらく太郎様は強制はしないだろう...」
彼の言葉は部屋中の者たちに向けられ、その声には力強さと優しさが入り混じっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋の中にいた元部下たちは、ジュードの言葉に耳を傾けながら、互いに顔を見合わせていた。その表情には、驚きと戸惑い、そして新たな希望の兆しが浮かんでいた。ジュードの言葉が、彼らの心に何かを灯したのだろう。
その後、ジュードは声のトーンを落とし、部屋の奥隅で物陰に身を潜めながら今の光景を見つめていた男に視線を向けた。
「あと...」
ジュードはその男を見つめながら言った。「ドリュー、お前は俺の後を必ず追ってこい...!それだけだ...」
その言葉は、まるで試練を課すような鋭さを帯び、部屋の空気を一瞬で変えた。
ジュードからドリューと呼ばれたその男は、ジュードの鋭い視線に耐え、身体を小さく震わせながらも前に歩み出た。彼の表情には驚きと戸惑い、そして一筋の希望が交錯していた。
「ジュード様!俺は...俺は...!」
ドリューの声は震え、その目には涙が浮かんでいた。彼の心の奥底から溢れ出る感情が、声に乗って伝わってきた。
他の者たちも、その光景を固唾を呑んで見守っていた。訪れた静寂は、まるで空間全体を包み込むように重く、全員の視線がジュードとドリューに吸い寄せられた。
ジュードはしばらくの間、ドリューを無言で見つめていた。その瞳には、言葉にできない複雑な感情が揺らめき、まるで彼の心の奥底を探りながら問いかけているようだった。
そして、しばらくの沈黙の後、ジュードは「この者たちを頼みます」と静かに言葉を紡ぎながら、俺の目をじっと見つめた。その視線には、言葉では表しきれない深い思いが込められており、胸の奥に響くものがあった。
ジュードが部屋を後にすると、その足音が次第に遠ざかり、フロアには重々しい静けさが漂った。誰一人として声を発する者はおらず、ただただ...ドリューの嗚咽だけが冷たい空気の中に寂しく響いていた。
ギギィィィィィ...。
錆びついた金属音が耳をつんざくように響き、扉がゆっくりと開かれる。
扉が開かれた瞬間、鼻をつく異様な臭いが一気に押し寄せた。「うっ!」と思わず声が漏れる。糞尿や血液、膿汁が混じり合った強烈な臭気が、まるで生き物のように俺たちを包み込み、息が詰まりそうになる。
「本当に...申し訳ございません。これでも日に何度か、使用にたちが清掃を行っています。ですが、どうしても追いついてはいません。商売のため、まずは売れる者のいる部屋から手をつけております」
シリウスは眉間にしわを寄せながら、臭いに耐えつつ俺に言った。その声には、申し訳なさと諦めが混じっていた。周囲には悪臭が漂い、空気が重苦しく淀んでいる。
だが、確かに木桶や柄杓、たわしの様な物を持った使用たちが忙しそうに動き回っている。その手に握られた道具は、使い込まれて古び、このフロアの過酷さを物語っていた。
さらに、ふと目に留まったのは、プニプニした丸い球体だった。あれは何だ?まるで生きたゼリーのような物がゆっくりと這い回り、このフロア内を自在に移動している...。
その球体は淡い青みがかった色をしており、まるで柔らかい波のようにうねっていた。どこか幻想的で、不思議と目を引かれた。
俺がその球体を夢中で見つめていると、サイモンがそっと近づき、こう言った。
「あれは太郎様、スライムです。ゴミや排泄物を吸収してくれる、飼いならされた従魔です」
おお!ファンタジー世界の定番の魔物に出会えた!
ただ、初めての遭遇がダンジョンでも平原でもなく、奴隷商会内って...。これが現実なのかな...。
なんでも、スライムは従魔にしやすく、排泄物や不要なモノをまとめて置いておくと、吸収してくれる便利な魔物らしい。そのため、汚れの酷い場所では、スライムを放しておくと勝手に汚れを吸収してくれるという。その姿はまるで異世界版のルンバのようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
このフロアには、廊下の両側に四人部屋ほどの広さの部屋が並んでいる。全部で四部屋ほどあるようだ。それぞれの部屋には、無理やり詰め込まれた八つのベッドが置かれ、空間には圧迫感と息苦しさが漂っている。
目を凝らすと、負傷者たちが巻いている包帯は時間が経ち、黒ずんでいるのが目に留まった。さらに、布団や毛布には血や尿、膿汁の染みが広がり、乾いた跡が不気味に浮き上がっている。薄暗い照明の下では、その光景がいっそう陰鬱な雰囲気を漂わせていた。
ここの環境と比べると、ジュードが休んでいた場所はまるで別世界のようだった。シリウス、いや、ヒルメス奴隷商会にとって、ジュードは特別な存在であり、その扱いからも彼がどれほど大切にされているかが伝わってくる。
いや、そうとは断言できないのかもしれない。ここに収容されている人々は、本来ならば売り物にはならない存在だ。それでも、雨風をしのぎ、食事が提供される環境に身を置けるだけでも、彼らにとっては幸せなのかもしれない。
「多くのお客様は、美貌のエルフや性技に長けた者、博識な者、そして戦闘技術に優れた者にしか目を向けません」
シリウスは、本当に申し訳なさそうに目を伏せ、部屋の中を一瞥すると、深いため息をついて俺に謝罪した。その後、部屋にいる奴隷たちについて説明を始めた。
薄暗い光が差し込む中、埃が舞う空気が重く感じられる。
「このように、傷ついた者を買いたいと言う輩は殆どいません。いたとしても、特殊な性癖を持つ貴族や、人体実験のために、生きる生命を欲する魔術師等です。奴らは...鬼畜です...どうしようもない輩です」
本当に嫌なのだろう。シリウスの顔には、深い悲しみと怒りが入り混じり、その目はどこか遠くを見つめていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「この者達は、ジュードさんのことを知っているのか?また、この部屋にいる者は信頼できるのか?」と俺はシリウスに尋ねた。
俺の問いかけに対してシリウスは、「このフロアにいる者たちはジュード様の元部下や彼を慕う者たちばかりです。全員が獣人で構成されています。ジュード様が回復されたと知れば、ここにいる者たちもきっと元気を取り戻すことでしょう!」と応えた。
なるほど...。
ジュードが元の姿を取り戻したと知れば、ここにいる者たちも勇気づけられ、積極的に治療を望む様になるかもしれない。その可能性に心の中で微かな希望の光が差し込み、胸が少し温かくなった。
よし、それならば、ここにいる者たちにジュードの回復を伝え、同時に彼のように回復を希望する者を募ろう。
あと、戦争奴隷たちが30人程いるとなると、さすがの俺でも魔力枯渇の心配が出てくる。サイモンもシリウスもその点を気にしたのか、使用人たちに大量のマジックポーションを用意させたようだ。
薄暗い部屋の中では、小瓶を抱えた使用人たちが忙しそうに動き回る姿が目に入る。
もっとも、俺の場合は空気中の魔力を自動的に吸収できるから、少し休憩すれば済む話だ。それでも、せっかく用意してもらったのだから、あとでマジックポーションというモノを試してみるのも悪くないだろう。
小瓶に入った紫色の液体が、ほんのりと光を放っているのが見えた。
何はともあれ、ここにいる者たちに問いかけてみよう。そして、ジュードと同じように未来を共に歩く仲間を探そう!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋の前で足を止めると、中にいる奴隷たちの視線が一斉にこちらに向けられた。その目には友好の色はなく、警戒と敵意がはっきりと浮かび上がっている。
特に動きが不自由そうな者ほど、ひときわ強い警戒心を抱いているように見えた。さらに、この場所にいるのは皆獣人であり、俺が人族であることが、彼らの中の敵意をさらに煽っているのかもしれない。
ここにいる奴隷たちは、人族との戦いで深い傷を負った経緯がある。そのため、俺の存在そのものが、彼らにとっては敵意を抱かせる要因の一つの様だ。
だが、ジュードを治療したこと、いや、彼が回復した事実を伝えれば、俺に対する信頼の糸口になるかもしれない。そう考え、俺は意を決して行動に移すことにした。
深呼吸をし、できるだけ大きな声で彼らに俺の想いを伝える準備を整えた。
さあ、伝えよう!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「俺はジュードさんの身体を治しました!そして...ジュードさんの望むことを叶えれば、彼はこれからの人生を俺に捧げると誓ってくれました!皆さんも、どうかこれからの人生を俺に託して頂けませんか⁉」
その声は、この空間中に響き渡り、張り詰めた空気を切り裂く一計となる...つもりだった。
しかし、俺が言葉を発した瞬間、部屋中の視線はさらに鋭さを増し、ざわめきが広がった。彼らの表情には疑念が浮かび、至る所から罵声が飛びかった。
「嘘をつくな、クソったれ人族が!」
「また、私たちを騙そうとしているのかい⁉」
「ジュード様のあんな傷が、あんたみたいな得体のしれない者が治せるはずが無いだろうが!!」
シリウスや使用人たちの「静かにしろ!」や「太郎様のお話を聞け!」という制止の声も、風に紛れてかき消されていった。その場の混乱は、収まりそうな気配すら見えないままだった。
俺はその場で立ち尽くし、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
しまった...!もう少しジュードの回復を待って、彼と一緒に来るべきだった。後悔の念が胸を締め付けた。目の前の状況に、どうすればいいのか分からず、言葉を失ってしまった。
だが、その瞬間...。
ギギィィィィィ...!!
重厚な扉が大きな音を立てて開き、戦争奴隷たちの区画への入り口が姿を現した。その向こうには、使用人に肩を支えられながら立つジュードが鋭い目で俺を見つめていた。
扉の開く音が部屋中に響き渡り、ジュードが現れた瞬間、まるで時が止まったかのような静寂が訪れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ベッドの上では全身を包帯で覆われていたため、その姿は分からなかったが、今こうして立っているジュードの姿は、まさに獅子族そのものであった。
金色の毛並みは薄暗い部屋でもひときわ輝き、まるで太陽の光を浴びているかのような艶があった。精悍な顔つきで俺を見つめるその瞳には鋭い光が宿り、全身から放たれる圧倒的なオーラは、元最高司令官の風格を感じさせた。
ジュードは真直ぐに俺に近づいて来る。その動きに合わせて金色の毛が美しく揺れ、部屋中の視線が一斉に彼に注がれた。この場にいる全員が息を呑むのが分かる。そして、彼は静かに口を開いた。
「私は太郎様からの治療を受けた後、意識を失ってしまい、すぐにお礼を申し上げることができませんでした。そのため、シリウス殿の使用人の方々に無理を言い、こちらに連れて来て頂きました」
ジュードは自らの身体を支える使用人に目を向けながら、静かに語り始めた。彼を支える使用人は、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。
「この度は、私の腕や脚の再生、さらには全身を蝕んでいた毒を取り除いて頂き、心より感謝申し上げます。先ほどまでの苦痛が嘘のように消え去り、驚きと感謝の念に堪えません」
ジュードはこの部屋にいる者たちを見渡した後、俺を真っ直ぐに見つめながら続けた。
「身分を弁えぬ願いであることは重々承知しております。しかし、いつの日か、私や部下たちをこのような非道な目に遭わせた者たちに対し、報いを果たす機会を頂ければと存じます...!」その言葉には、彼がどれほどの決意を胸に秘めてここに来たのかが、ひしひしと伝わってきた。
奴隷の立場でありながら、主人に願いを口にするなど本来はあり得ない。しかし、ジュードの瞳には抑えきれない熱情が宿っていた。
治療の前に俺がジュードに告げた言葉、「治療後、意識を取り戻したら相談しよう!あなたを苦しめていた者たちへの報復について」が、彼の胸の中で何度も反響しているのだろう。
ジュードは静かに一歩前へ進み、深く息を吸い込んだ。その仕草には、場の空気を一変させるような威厳が漂っていた。
まだ本調子ではない身体を押して、ジュードは肩を支える使用人の手をそっと外すと、静かに床に片膝をついた。その姿勢を保ちながら、彼は真っ直ぐにこちらを見上げ、静かでありながら力強い声で語り出した。
「もし、この願いを叶えて頂けるのであれば、私は今後、全身全霊をもってあなた様にお仕えいたします!」
その声は鋼のように硬く、揺るぎない決意が込められていた。ジュードの表情には覚悟と誓いが刻まれ、その瞳は鋭く俺の目を射抜いてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その場にいた戦争奴隷たちは、目の前の光景に動きを止めた。まるで...時間が止まったかのように、ただ呆然と俺とジュードを見つめている。
俺は一瞬、我を忘れ、その場に立ち尽くしてしまった。ジュードの行動が持つ重みと、その場の空気に圧倒され、言葉を失った。しかし、彼の身体がまだ完全ではないことを思い出し、咄嗟に声をかけた。
「ジュードさん、無理をしてはいけません。今は休むべきです!」
ジュードの姿勢は崩れかけたが、それでも...その姿勢を止めようとしない。いや、あえて周りの者たちに見せつけている様だった。彼の目には揺るぎない決意が宿っており、その瞳が俺をまっすぐに見つめる。
「主人が自分の奴隷に敬語を使うべきではありません。私のことはジュードと呼んで下さい。敬語も、どうかお控え下さい」と彼は俺に言った。
そんなやり取りを見ていた一人が、低い声で呟いた。
「本当...だったんだ!ジュード最高司令官が復活なされた...!」
その声に追随するかのように...。
「ジュード様が人族の前で跪いている...!それに敬語も不要と!あの男がジュード様を治したに違いない!」
「ジュード様が...自分のことを...奴隷って言ったぞ!」
ざわめきは次第にフロア中に広まった。
その静かな波は、大海原を駆け抜けるかのように、部屋中に広がっていった。
「ジュード様の脚も腕もある!あの男の言葉は本当だったんだ!俺も...治してもらえるのか?」と、誰かが叫んだ。その声には、驚きと希望が入り混じり、これまでの不安や疑念を打ち破るような力強さがあった。
部屋のあちらこちらから様々な声が上がり始めた。部屋に入った時とは明らかに違う、このフロアにいる者の目には希望の光が宿り始めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ざわめきが広がる中、俺はしっかりと声を張り上げた。「ジュードさ、いや、ジュード。気持ちは十分に受け取った。だから、今はベッドに戻り、横になって休んで欲しい。体力が回復したら、俺に付き合って欲しい場所がある。いや、一緒に行こう」と、ジュードに伝えた。
部屋の喧騒が一瞬で静まり、まるで時間が止まったかのようだった。そして、全員の視線が再びジュードと俺に集中した。ジュードは一瞬、戸惑いの表情を見せたが、すぐにその瞳は決意の光を宿し、俺に問いかけて来た。
「失礼ですが、それは...どちらでしょうか?」
彼の声は低く力強く、それでいて部屋全体に響き渡るような重みを持っていた。その瞳は俺を真っ直ぐに見つめ、行き先を尋ねるその表情には、希望と期待が入り混じっていた。
俺は一歩前に進み、ジュードの目を見据えた。その瞬間、部屋の空気が一層張り詰め、まるでここにいる全員が息を呑んで次の言葉を待っているかのようだった。俺は深く息を吸い込み、この場の空気を切り裂く刃のように、はっきりと告げた。
「体力が回復したら、ジュードの願いを叶えに行こう。ジュードや部下を陥れた者への報復に!ジュードが動けるようになり次第、ヒメール王国の王宮をぶっ潰しに行く!これは...決定事項だ!」
自分の言葉が部屋の隅々まで届いたことを確信しながら、俺は静かに息を整えた。胸の中での鼓動の高鳴りを感じた。
「ごめん、お袋。しばらく精肉店の仕事を休むことになりそうだ」と心の中で呟いた。
自分の決断を再確認した。今後のことを考えると、ジュードの復讐を早々に終わらせることが最善の策だと信じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジュードや周囲の者たちが呆気に取られる中、俺は足元にいる頼れる部下を見つめながら、少しおどけた調子でジュードに語りかけた。
「大丈夫だ。ここに優秀な部下がいるから。この子はとても頼りになるから」
その瞬間、源さんの耳がピンと立ち、目が輝いた。その姿は、まるで自分の出番を待ち望んでいたかのようだった。
源さんは俺の意図を察し、勢いよく前足を床に叩きつけながら「やるんだわん!わんがご主人様を守るんだわん!」と元気よく吠えた。
尻尾を勢いよく左右に振りながら、床をカリカリと擦る音が響く。
「源さんやめて、床が削れちゃうから!」と俺は苦笑いを浮かべながら、源さんの行動を制止しようとしたが、源さんのやる気は収まらない。その様子に、周囲の者たちも思わず微笑んだ。
ジュードはそんな光景を見つめ、少し眉をひそめた。彼の顔には一抹の疑念が浮かび、その目が静かに問いかけてきた。
「本当に、私の願いを優先して頂いける...のでしょうか?」
ジュードの声には驚きと困惑が入り混じり、彼の目は俺の真意を探るように鋭く光る。
その視線の鋭さに気後れしそうになる心を必死に奮い立たせ、俺はジュードに対して一歩も引くことなく、彼の視線をしっかりと受け止めた。そして、真剣な表情を浮かべながら、静かに言葉を紡いだ。
「ああ。ジュードの願いを早々に叶えようと思っている。そうしなければ、ジュードも安心して俺に仕えることができないだろうからな」
その言葉には、俺の決意と覚悟が込められていた。俺の言葉を聞いたジュードの目が一瞬見開き、その表情には驚きが浮かんだ。しかし、次の瞬間にはその瞳にこれまで以上に力強い光が宿り、口元が大きく開いた。
「わはっはははー!!」
その笑い声は、部屋中に響き渡り、重苦しい空気を一気に吹き飛ばしたかのようだった。
「本当に、あなた様は面白いお方だ。私が全身全霊でお使いするに相応しい...!」
ジュードは快活な声で言いながら、周りの元部下たちに視線を向けた。その目には、かつての最高司令官としての威厳と、仲間への深い信頼が宿っていた。
「ここにいる者たちも、自分の身のふり方を考えよ!私は...やるべきことが出来た!そして、そのやるべきことが済んだ後は、太郎様の元で生きる!お前たちも自分の人生を決めよ。おそらく太郎様は強制はしないだろう...」
彼の言葉は部屋中の者たちに向けられ、その声には力強さと優しさが入り混じっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋の中にいた元部下たちは、ジュードの言葉に耳を傾けながら、互いに顔を見合わせていた。その表情には、驚きと戸惑い、そして新たな希望の兆しが浮かんでいた。ジュードの言葉が、彼らの心に何かを灯したのだろう。
その後、ジュードは声のトーンを落とし、部屋の奥隅で物陰に身を潜めながら今の光景を見つめていた男に視線を向けた。
「あと...」
ジュードはその男を見つめながら言った。「ドリュー、お前は俺の後を必ず追ってこい...!それだけだ...」
その言葉は、まるで試練を課すような鋭さを帯び、部屋の空気を一瞬で変えた。
ジュードからドリューと呼ばれたその男は、ジュードの鋭い視線に耐え、身体を小さく震わせながらも前に歩み出た。彼の表情には驚きと戸惑い、そして一筋の希望が交錯していた。
「ジュード様!俺は...俺は...!」
ドリューの声は震え、その目には涙が浮かんでいた。彼の心の奥底から溢れ出る感情が、声に乗って伝わってきた。
他の者たちも、その光景を固唾を呑んで見守っていた。訪れた静寂は、まるで空間全体を包み込むように重く、全員の視線がジュードとドリューに吸い寄せられた。
ジュードはしばらくの間、ドリューを無言で見つめていた。その瞳には、言葉にできない複雑な感情が揺らめき、まるで彼の心の奥底を探りながら問いかけているようだった。
そして、しばらくの沈黙の後、ジュードは「この者たちを頼みます」と静かに言葉を紡ぎながら、俺の目をじっと見つめた。その視線には、言葉では表しきれない深い思いが込められており、胸の奥に響くものがあった。
ジュードが部屋を後にすると、その足音が次第に遠ざかり、フロアには重々しい静けさが漂った。誰一人として声を発する者はおらず、ただただ...ドリューの嗚咽だけが冷たい空気の中に寂しく響いていた。
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