オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第二章

13.連れていかれた雇い主の家

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  堤下さんにタクシーで連れて行かれた先は、高級住宅街にある二十五階建の全面ガラス張りのタワーマン……いや、億ション。
  横並びに二棟建っていて、建物の手前から見上げるだけでも首が痛くなるほど。

  彼はエントランスでインターフォンを鳴らして中の人に自動ドアを開けてもらい、スケールのデカさに見惚れていた私は焦って後を追いかけた。
  金縁でホテル並みの15名乗りのエレベーターに他の住人と相乗りしたけど、私が普段行くようなブティックではお見かけ出来ないような装いや装飾品に格差を感じた。

  部屋に到着して壁面に設置されているインターフォンを押すと、開いた扉の向こうから20代半ばくらいのスーツを着たショートボブの女性が笑顔で出迎えた。



「お疲れ様です。お待ちしてました」

「林さん、お疲れ様です。こちらの方が新しい家政婦の早川さんです」



  堤下さんは私に手を向けて紹介をしたので、彼女にぺこりと頭を下げた。



「初めまして。早川結菜と申します」

「初めまして。林です。後任を引き受けて下さって助かりました」


「(隠キャが条件じゃ見つからないよね……)いえ、よろしくお願いします」

「では、中へどうぞ。これから業務内容を説明しますので」


「は、はいっ!」

「では、私は別の仕事が残っているので、この辺で……」

「堤下さん、ありがとうございました」


「失礼します」



  堤下さんが玄関を出て行った後、足元に用意されているスリッパを履いて彼女の背中を追った。
  家はパッと見で築1~2年くらいかな。
  新居の香りが漂ってくる。
  
  大理石を敷き詰めたような高級感溢れる白い床を進んでいると、ポップ調の音楽が耳に届いた。
  次第にそれが鮮明に聞こえて幼児番組だと判る。
  いよいよ雇い主の妹と対面間近になり、ごくりと息を飲んだ。

  中扉を通り抜けた先はリビングダイニング。
  正面はガラス張りになっていて、右側には扉が閉ざされている部屋。
  左側の杢グレーの壁紙には壁掛けテレビが設置されている。
  その向かいのブラウンのソファにはすっぽりと収まるようにピンクの花柄のワンピースを着た小さな女の子が片足をぷらぷらさせながら寝転がっていた。
  


「こぉら、ミカちゃん。お行儀が悪いわよ。いま新しい家政婦さんが来たよ」

「……」



  林さんが床に散乱している果物やまな板などのおままごとグッズをを避けながら接近して軽く叱るが、彼女は無反応のまま。
  まるで人形のように横たわっているが、テレビに食いついてる様子でもない。

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