オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第二章

20.一筋の光

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「固い殻に閉じこもったままじゃ誰も気づいてくれないよ。まずは自分を好きになる努力から始めてみない?」

「……自分を好きになる努力?」


「そ。変えていこうよ。毎日が幸せで楽しいと思えるくらいにさ」



  彼に言われて初めて気付いた。
  『楽しい毎日を送れてない』と……。  
  小学生の頃は思うがままに喜怒哀楽の感情をむき出しにしていたけど、今は無意識のうちに楽しい事まで封印していた。

  1人の方が楽なんだって。
  人の目に映ったら誰かに迷惑かけちゃうんじゃないかって。
  自分自身を苦しめていたのは紛れもなく自分なのに、そこから目を背け続けていた。



「うん……。わかった」



  影のような存在の私に一筋の光を差し込んでくれる人がいるなんて思いもしなかった。
  髪を無許可で切った事は許せないけど、彼の言葉は卑屈な心を塗り替えた。


  ーーそれから20分後。
  彼は知り合いの男性ヘアメイクさんを家に呼び寄せて「似合う髪型にしてあげて」と指示をした。
  私はダイニングイスに座りメガネを外して準備が整うと、ギザギザになっていた髪を切り揃えてもらう。

  床に敷いた新聞紙にバサバサと落ちていく不揃いな長さの髪。
  美容院みたいに正面に鏡がないからどんな風にカットされてるかわからないけど、だんだん髪が軽くなっていく。
  彼はキッチンの向かいにあるカウンターイスに腰をかけたまま、ヘアメイクさんと話をしながら様子を見守っていた。

  カットが終了すると、彼は洗面所から手鏡を持ってきて私に手渡す。

  手鏡に映り込んでいる新しい自分。
  それがあまりにも素敵だったから、思わず色んな角度から見たくなって首を右に左に動かせた。



「凄い……。さっきとは別人みたい。こんなに短くするのは生まれて初めてだけど、この髪型すごくかわいい」

「セットする時はトップとサイドに少しボリュームを持たせるといいよ。本当にお似合いだね」

「へぇ~、ショートカット似合うんだ。表情もグンと明るくなったし」


「日向は君みたいなかわいい子が好みだから気をつけてね」

「おい、余計な事言うなよ」


「あはは……。ありがとうございます」



  新しい髪型に見惚れていたら、いつしかキッチンバサミで髪を切り取られた悪夢からは解放されていた。


  彼に指摘された通り、私は変わる事を恐れていた。
  長年一本結びにしていた髪型もそうだけど、杏に何も言わなければこれ以上波風が立たなくていいんじゃないかって。
  無難が一番なんじゃないかって。
  変に目立たなければ傷つく事さえないと思っていた。
  でも、それは弱気な殻を破る自信がなかっただけ。

  一度変わってみたら、もっと新しい変化が欲しくなるのは欲張りになった証拠なのかな……。


  勤務終了時刻は40分ほど越えてしまったけど、玄関まで見送ってくれた彼にここ数日気になっていた事を聞いた。



「もしかして、日向が私の靴の中にメモを入れたの?」

「メモ?  何の事?」



  彼はキョトンとした目で返答したので、この質問は見当違いだと思った。



「……なんでもない。また明日。バイバイ」



  私は笑顔で手を振って彼の部屋を後にした。

  日向があのメモの存在を知らないって事は、差出人は一体誰だったんだろう。
  私の運命を変えてくれようとしているから、てっきり彼が入れたと思ってたよ。

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