23 / 115
第三章
22.主導権
しおりを挟むーー2時間目終了後。
杏は教卓に集められたクラス全員分の国語のノートの端を教卓にトントンと叩き揃えて持ち上げると、結菜の席の横に移動した。
「ねぇ、私の代わりにこのノートを職員室まで持って行ってくれない? 今日は手が筋肉痛なのよね」
降り注ぐ杏の声に顔を見上げると、言動とは対照的な目はいつものように見下している。
私がイメチェンをして周りの目が変わっても、彼女は態度を変えない。
『それは杏の仕事だから行けない』
このひとことが言えないから苦しい。
私だって杏の言いなりになるのは嫌だ。
出来れば本音をぶつけたいし、関係改善もしたい。
でも、私は自分でも笑っちゃうくらい意気地なしだから、両手を前に差し出して言った。
「うん、いい……」
「こいつは行かないよ」
私の言葉を遮断してきたのは日向。
杏の横から現れて、ポケットに手を突っ込んで不機嫌な態度をとっている。
「えっ……」
「こいつは便利屋じゃないから、お前の都合のいいように巻き添えにすんなよ」
「なに? 隠キャ同士でかばい合ってんの? バカバカしい」
「人の気も知れず自分の任務を押し付けてくるお前の方がもっとバカバカしいと思うけど?」
「……はあぁ?! 偉そうにしてムカつく。だから阿久津は女にモテないんだよ!」
杏は日向をキッと睨みつけると、ノートを両手に抱え直して教室を出て行った。
すると、日向は杏の背中を見たまま呟いた。
「『だから阿久津は女にモテないんだよ』……か。あいつ、俺の正体を知ったら豹変するだろうな」
日向は鼻で軽くあしらいながら背中を向けて自分の席へ向かうと、結菜は勢いよく席を立ち上がった。
「ひ……ひなっ……(あっ、どうしよう! 教室だから呼び捨て出来ない)、阿久津くん。どうして私を助けてくれたの?」
すると、彼は進めていた足をUターンさせて私に顔を近づけると、耳元でささやいた。
「阿久津くんじゃないよ。日向でしょ?」
ニヤリと笑って自分の席へ戻る彼。
ぼっちの私が『日向』と呼び捨てにする勇気がない事を知ってて意地悪を言う。
本当にこの人は味方なのか敵なのかわからない。
でも、髪を切られた瞬間から雇い主というより主導権を握られてるような気がしてならない。
「素材、いいわ……」
日向に気を取られたまま背後からそう言われたので顔を前に戻すと、前の席の桜井さんがこっちに身体を向けて私の顔をじっと見つめた。
「まん丸おめめにパッチリとした二重。ノーズシャドウが不要な形の整っている鼻。薄紅色のぷるんとした唇。そして、卵形の輪郭。頭良し、性格良し、顔良し……か」
「えっ??」
「ねぇ、早川さんって頭からつま先までパーフェクトじゃない?」
彼女は茶髪で胸までの長い髪。
つけまつげが特徴的で、少し濃いめのメイクをしているギャルと呼ばれてる分類の人。
声をかけてくれるのはもちろん今日が初めて。
それ以前に、今日初めて声をかけてくれる人が2人もいるという事に驚きだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている
甘酢ニノ
恋愛
クラス一の美少女・強羅ひまりには、誰にも言えない秘密がある。
実は“売れない地下アイドル”として活動しているのだ。
偶然その正体を知ってしまったのは、無愛想で怖がられがちな同級生・兎山類。
けれど彼は、泣いていたひまりをそっと励ましたことも忘れていて……。
不器用な彼女の願いを胸に、類はひまりの“支え役”になっていく。
真面目で不器用なアイドルと、寡黙だけど優しい少年が紡ぐ、
少し切なくて甘い青春ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる