オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第三章

22.主導権

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  ーー2時間目終了後。
  杏は教卓に集められたクラス全員分の国語のノートの端を教卓にトントンと叩き揃えて持ち上げると、結菜の席の横に移動した。



「ねぇ、私の代わりにこのノートを職員室まで持って行ってくれない?  今日は手が筋肉痛なのよね」



  降り注ぐ杏の声に顔を見上げると、言動とは対照的な目はいつものように見下している。
  私がイメチェンをして周りの目が変わっても、彼女は態度を変えない。



『それは杏の仕事だから行けない』



  このひとことが言えないから苦しい。
  私だって杏の言いなりになるのは嫌だ。
  出来れば本音をぶつけたいし、関係改善もしたい。

  でも、私は自分でも笑っちゃうくらい意気地なしだから、両手を前に差し出して言った。



「うん、いい……」
「こいつは行かないよ」



  私の言葉を遮断してきたのは日向。
  杏の横から現れて、ポケットに手を突っ込んで不機嫌な態度をとっている。



「えっ……」 

「こいつは便利屋じゃないから、お前の都合のいいように巻き添えにすんなよ」

「なに?  隠キャ同士でかばい合ってんの?  バカバカしい」


「人の気も知れず自分の任務を押し付けてくるお前の方がもっとバカバカしいと思うけど?」

「……はあぁ?!  偉そうにしてムカつく。だから阿久津は女にモテないんだよ!」
  


  杏は日向をキッと睨みつけると、ノートを両手に抱え直して教室を出て行った。
  すると、日向は杏の背中を見たまま呟いた。



「『だから阿久津は女にモテないんだよ』……か。あいつ、俺の正体を知ったら豹変ひょうへんするだろうな」



  日向は鼻で軽くあしらいながら背中を向けて自分の席へ向かうと、結菜は勢いよく席を立ち上がった。



「ひ……ひなっ……(あっ、どうしよう!  教室だから呼び捨て出来ない)、阿久津くん。どうして私を助けてくれたの?」



  すると、彼は進めていた足をUターンさせて私に顔を近づけると、耳元でささやいた。



「阿久津くんじゃないよ。日向でしょ?」



  ニヤリと笑って自分の席へ戻る彼。
  ぼっちの私が『日向』と呼び捨てにする勇気がない事を知ってて意地悪を言う。

  本当にこの人は味方なのか敵なのかわからない。
  でも、髪を切られた瞬間から雇い主というより主導権を握られてるような気がしてならない。



「素材、いいわ……」



  日向に気を取られたまま背後からそう言われたので顔を前に戻すと、前の席の桜井さんがこっちに身体を向けて私の顔をじっと見つめた。



「まん丸おめめにパッチリとした二重。ノーズシャドウが不要な形の整っている鼻。薄紅色のぷるんとした唇。そして、卵形の輪郭。頭良し、性格良し、顔良し……か」

「えっ??」


「ねぇ、早川さんって頭からつま先までパーフェクトじゃない?」



  彼女は茶髪で胸までの長い髪。
  つけまつげが特徴的で、少し濃いめのメイクをしているギャルと呼ばれてる分類の人。
  声をかけてくれるのはもちろん今日が初めて。
  それ以前に、今日初めて声をかけてくれる人が2人もいるという事に驚きだ。

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