オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
48 / 115
第六章

47.近づく心の距離

しおりを挟む



  バイトの日は、制服姿にエプロンを着用していたけど、今日からはTシャツに短パン姿とおうちスタイルに変身した。
  このスタイルにした理由は、ミカちゃんと打ち解けたいから。
  あいつに何か言われるかもしれないけど、服装に規定はなかったし。

  家事は順調に進んで玄関で掃除機をかけていると、突然背後からTシャツがクンっと引っ張られた。
  振り向くと、ミカちゃんがクマの飾りがついたヘアゴムを2つ差し出している。

  これが彼女から初めてのアクションだったから正直驚いた。



「急に服を引っ張ってどうしたの?」

「結菜お姉ちゃんに髪を結んでもらいたい」



  初のコミュニケーションどころか、いま『結菜お姉ちゃん』って言ってくれたよね。
  ううっ……、嬉しい。
  やっぱりおうちスタイル効果かしら?



「いいよ~。髪型のご注文は?」

「右と左に三つ編みをして」


「オッケー。じゃあ、ダイニングのイスに座ってね」

「うん」



  掃除機を一旦床に置くと、彼女は走ってダイニングに向かい、私はその後を追った。
  彼女はイスに飛び乗り、私は背後に周る。
  二本のゴムを左手首に通して、彼女の頭のてっぺんから首筋にかけてスッと指を差し込んで髪を半分に分ける。
  人の家だし、勝手にクシを借りるのは気が引けたから、手ぐしでささっと髪をまとめて一本ずつ編んでいった。

  細くて柔らかくて真っ黒な髪。
  サラサラでツヤツヤだから、ゴムで結んでもするりと解けちゃいそう。
  彼女は上機嫌なのか、座席の下に垂れている足をぶらぶらと前後させている。



「で~きた!  わっ!  かわいい~。よく似合ってるよ」

「……本当?  鏡見てくるー」



  ミカちゃんダイニングのイスを跳ねるように飛び降りると、タタタと小走りで洗面所に向かった。
  無邪気な可愛さにフッと笑みが漏れる。

  これがきっかけになったのか、夕食後にミカちゃんに「お風呂に入ろうね」と声をかけたら、キャッキャと笑いながらダイニングを走り回った。
  私は幼き彼女を捕まえる為に一緒になって部屋の中を小走りで追った。



「こぉ~ら、まてぇ~!」

「きゃっきゃっ……。きゃはははっ、あははっ!」



  ミカちゃんは小さいのに素早しっこい。
  手を伸ばして捕まえようとすると、彼女は捕まらないようにひょいと身体をひねる。
  ソファーにジャンプして上ったので手を伸ばしたけど、次はソファーから飛び降りて日向の部屋に入って扉を閉めてしまった。
  しかし、そこは禁断の地。



「ミカちゃーん、暗い部屋から出ておいで~。……じゃないと、こわ~いお化けが出てくるかもしれないよ~」



  扉の外から恐縮しながら声をかける。
  日向はまだ帰宅してないけど、部屋に入らないでと念を押されただけに足が止まる。
  勿論入る気はないけど、ミカちゃんをいまお風呂に入れないと寝かしつける時間が遅くなってしまう。

  電気をつけなければ入っても平気かな。
  きっと、部屋にどんな物が置いてあるかなど興味を示されるのが嫌なんだよね。
  日向には恋人がいる気配もないし、ミカちゃんを捕まえるくらいなら……。

  私は甘い考えを念頭に置いたまま彼の部屋の扉を開けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...