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第六章
47.近づく心の距離
しおりを挟むバイトの日は、制服姿にエプロンを着用していたけど、今日からはTシャツに短パン姿とおうちスタイルに変身した。
このスタイルにした理由は、ミカちゃんと打ち解けたいから。
あいつに何か言われるかもしれないけど、服装に規定はなかったし。
家事は順調に進んで玄関で掃除機をかけていると、突然背後からTシャツがクンっと引っ張られた。
振り向くと、ミカちゃんがクマの飾りがついたヘアゴムを2つ差し出している。
これが彼女から初めてのアクションだったから正直驚いた。
「急に服を引っ張ってどうしたの?」
「結菜お姉ちゃんに髪を結んでもらいたい」
初のコミュニケーションどころか、いま『結菜お姉ちゃん』って言ってくれたよね。
ううっ……、嬉しい。
やっぱりおうちスタイル効果かしら?
「いいよ~。髪型のご注文は?」
「右と左に三つ編みをして」
「オッケー。じゃあ、ダイニングのイスに座ってね」
「うん」
掃除機を一旦床に置くと、彼女は走ってダイニングに向かい、私はその後を追った。
彼女はイスに飛び乗り、私は背後に周る。
二本のゴムを左手首に通して、彼女の頭のてっぺんから首筋にかけてスッと指を差し込んで髪を半分に分ける。
人の家だし、勝手にクシを借りるのは気が引けたから、手ぐしでささっと髪をまとめて一本ずつ編んでいった。
細くて柔らかくて真っ黒な髪。
サラサラでツヤツヤだから、ゴムで結んでもするりと解けちゃいそう。
彼女は上機嫌なのか、座席の下に垂れている足をぶらぶらと前後させている。
「で~きた! わっ! かわいい~。よく似合ってるよ」
「……本当? 鏡見てくるー」
ミカちゃんダイニングのイスを跳ねるように飛び降りると、タタタと小走りで洗面所に向かった。
無邪気な可愛さにフッと笑みが漏れる。
これがきっかけになったのか、夕食後にミカちゃんに「お風呂に入ろうね」と声をかけたら、キャッキャと笑いながらダイニングを走り回った。
私は幼き彼女を捕まえる為に一緒になって部屋の中を小走りで追った。
「こぉ~ら、まてぇ~!」
「きゃっきゃっ……。きゃはははっ、あははっ!」
ミカちゃんは小さいのに素早しっこい。
手を伸ばして捕まえようとすると、彼女は捕まらないようにひょいと身体をひねる。
ソファーにジャンプして上ったので手を伸ばしたけど、次はソファーから飛び降りて日向の部屋に入って扉を閉めてしまった。
しかし、そこは禁断の地。
「ミカちゃーん、暗い部屋から出ておいで~。……じゃないと、こわ~いお化けが出てくるかもしれないよ~」
扉の外から恐縮しながら声をかける。
日向はまだ帰宅してないけど、部屋に入らないでと念を押されただけに足が止まる。
勿論入る気はないけど、ミカちゃんをいまお風呂に入れないと寝かしつける時間が遅くなってしまう。
電気をつけなければ入っても平気かな。
きっと、部屋にどんな物が置いてあるかなど興味を示されるのが嫌なんだよね。
日向には恋人がいる気配もないし、ミカちゃんを捕まえるくらいなら……。
私は甘い考えを念頭に置いたまま彼の部屋の扉を開けた。
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