オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第六章

56.飴と鞭

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「ミカちゃんは以前の自分と同じ、人と繋がる事に臆病になってた。私自身が生まれ変わって幸せをつかむようになってから、ミカちゃんにもそれを味わって欲しいなと思ってね。だから、向き合い続けたの。毎日顔を合わせてるからこれからも仲良くしていきたいしね」



  いまはミカちゃんの話をしてるけど、頭の中は自分を変えてくれた彼に感謝をしていた。
  彼が私の髪を切って人生を変えてくれなかったら、今も同じままだったから。



「……俺、お前のそーゆーところ好きかも」

「えっ!」


「ミカに変わってもらうのを待つんじゃなくて、変えようと思ってくれてたんだよね。今までそーゆー考えの人に当たらなかったから俺も諦めかかってた。でも、お前はミカの気持ちを大切にしながら向き合い続けてくれてたなんて。……結構やるじゃん」



  彼はそう言うと、笑顔で左手で私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

  ドキン……
  ドキン……

  男性に頭を撫でられる経験がないせいか、急に心臓がうるさくなった。
  更に拍車をかけるように、夕方に撮影していたドラマのセリフが思い浮かぶ。
  あいつなんて意識したくないのに、なんか他の事が考えられないくらいいっぱい考えてる。



「あっ……、そっ……そうだ!!  この家に来てから一つだけ気になってる事があるんだけど」



  私は異常なくらい赤面してたので、照れ隠しの一環で話を切り替えた。



「何?」

「どうして親と一緒に暮らしてないの?  2人とも未成年だし、ミカちゃんはまだ小さいし、日向は仕事があるのに……」



  ところが、この話題にシフトした瞬間彼からスッと笑顔が消えた。



「……どうしてそんな事を聞くの?」

「両親と一緒に暮らしていれば家事や食事の心配はなくなるし、ミカちゃんも安心だと思う」



  当たり前のように両親の元で育った私は、何も考えずに価値観をぶつけてしまった。
  それが彼の地雷を踏んでいたとも気づかぬまま……。



「あのさ。以前も一度忠告したけど、人んちの事を詮索しないでくれる?」



  日向は180度人が変わったかのように素っ気ない態度でダイニングイスから立ち上がると、話を遮断するかのように自分の部屋へ向かった。
  結菜はそこでようやく以前言っていた言葉を思い出す。



「ごっ、ごめん。気になって、つい……」



  声で引き止めるように焦って席を立ち上がると、彼は一旦足を止めて背中越しに言った。



「……俺の心ん中、入って来ないでくれる?」



  彼は心に高い壁を作って扉の奥に消えていった。
  罪悪感に苛まれた私は、扉を見つめたままその場に佇む。



『言いたくないのには理由があるから、日向が切り出すのを待ってみれば?』



  同じ悩みにぶつかったあの時、AIヒナタが忠告してくれたのに、先を行き急ぐあまり大切な事を忘れてしまった。

  私たちの関係は波のよう。
  波が一斉に押し寄せてきた後は静かに引いていく。
  あと一歩が届きそうで届かない。
  だから私は、いつまで経ってもこれ以上前に進めない。

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