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第六章
55.結菜に懐いてるミカ
しおりを挟むーー同日の数時間後。
堤下は日向の帰宅より先に日用品が入ったレジ袋をぶら下げたまま家のインターフォンを押した。
扉が開かれると、目線の先には笑顔で出迎えた結菜と、その横で結菜の服を掴んでいるミカの姿があった。
堤下が一番驚いたのは、アルバイトを採用した時の結菜のイメージが180度変わっていた事。
「堤下さん、こんばんは。お疲れ様です」
「あっ……あぁ、お疲れ様です。……あの……早川さん……ですよね?」
「あっ、はい。そうですが……?」
「イメチェンされてたので一瞬わかりませんでした」
「あはは、そうですよね。メガネもコンタクトに変えたから別人とも呼ばれてます」
「そうですか……。シャンプーなどの日用品を買ってきたので、保管をお願いします」
「うわぁ。お忙しい中、わざわざありがとうございます」
結菜は玄関先でレジ袋を受け取ると、ミカがなになにと言った様子でレジ袋に手をかけて中を覗き込む。
堤下は結菜の変貌っぷりに、先ほど撮影現場でスタッフと話していたのは本人ではないかと思い始める。
すると、堤下の背後の扉が開いた。
「ただいま~。遅くなってごめん」
「お兄ちゃん、遅いよー」
「ごめんごめん。結菜、ミカをもう風呂に入れた?」
「これから入れる所。日向が一緒に入る?」
「そうするか。ミカ、お兄ちゃんと一緒に風呂行くか」
「うんっ! 行くー!」
堤下は、日向が帰宅してもミカは抱きつこうとしない様子に異変を感じた。
その上、2人の関係性が想像以上に良好に思えた。
結菜が夕方現場に訪れた件に加えて、つい先日まで日向に一直線だったミカが一度も離れない事に危機感を覚える。
ーーそれから1時間半後。
ミカの寝かしつけから戻ってきた結菜はリビングに戻ると、日向はダイニングテーブルにマグカップに入ってる淹れたてのコーヒーを置いた。
「お疲れ。コーヒー淹れたから少し休めば?」
「うわぁ! ありがとう! 日向がコーヒーを淹れてくれるなんて珍しい~」
「珍しいとはなんだ。実は、今日のお礼も含めて。夕方は現場まで台本を届けに来てくれてありがとう。せっかく来たならひと声かけてくれれば良かったのに」
「あんなに大勢のファンに囲まれてるのに声をかけられる訳ないでしょ。あっ、そうそう! 演技をしている時は別人のように見えたよ。観客もすっかり魅了されてたし……」
「そっかぁ。俺様がカッコ良すぎて痺れたか」
「そこまで褒めてない!」
「冗談だよ。それよりさ、ミカと仲良くなったの? 最近1人で玄関まで出迎えなくなったし、俺が寝かしつけに行く必要もなくなったから」
「時間はかかったけどね。話してるうちに自然と分かり合えたみたい」
「珍しい……」
「えっ?」
「この1年間に3回家政婦が変わったけど、誰1人懐かなくて。きっと、愛想のない子だって思われてたかもしれない」
彼はそう言うと、テーブルに肘をついて口元に両手を添えたまま深刻そうな表情をした。
それを見た瞬間、初めて家に上がった時に彼女がソファから片足をブラブラと垂らしたままテレビを観ていた時の事を思い出した。
それが彼の悩みだとわかった途端、石像のように佇んでいた心の奥底の何かが動いた。
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