オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第八章

70.面影のない両親

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  幼稚園に到着すると、小さな机とイスが班ごとに並べられている教室の後ろに2人で並ぶ。
  すると、付近の保護者がヒソヒソと噂話を始めた。

  最初は気に留めていなかったけど、日向の隣にいる女性が「お若い夫婦ですね」と声をかけてきたので、私が隣から「彼は父親じゃなくて兄なんですよ」とフォローした。
  確かに20~40代の夫婦に挟まれている10代の私達は周りと比べると圧倒的に若い。


  授業が始まると、それぞれの両親が子どものテーブルの横についてペットボトルに紙粘土を貼っていった。
  私は後ろで待機している母親たちに紛れ込んで、2人が制作物に取り組んでいる所を見守る。
  ミカちゃんはペタペタと紙粘土を貼っていき、彼が土台のペットボトルを支える。
  あーだこーだ言いながらの共同作業があまりにも微笑ましくて、他の母親に紛れてスマホで写真を撮った。


  普段は毒しか吐かないクセに、ミカちゃんにはああやって幸せそうに微笑むんだね。
  ひょっとしたら好きな人にもあんな風に笑いかけるのかな。

  結菜は暖かい眼差しで2人の様子を見守っていた。
  

  すると、いつしか園を訪れていた堤下さんが一旦作業に区切りがついた所を見計らって日向を呼んだ。
  私も一緒に教室を出て彼の背中を見送ると、堤下さんだけ足をUターンさせて私の耳元でコソッと言った。



「こーゆーの、困るんですよ」

「えっ……」


「日向たちの事が気になるのはわかりますが、必要以上に接点を持たないようにお願いします。……雇用契約をした時に約束しましたよね」

「はい……」



  てっきり感謝されると思ってたのに、口から飛び出てきたのは日向との距離感。
  確かに側から見れば任務の範囲を超えている。
  しかも、今回は頼まれて来た訳ではない。
  父兄参観に参加した事によって感謝してくれた彼と、迷惑そうに関係性に釘を刺す堤下さん。
  
  私は堤下さんの背中を見届けながら複雑な気持ちに包まれていた。


  帰りは冷房が効いてる路線バスに乗って帰路に向かった。
  バスを降りてマンションに足を運ばせていると、ミカちゃんは私の手を離してある場所へと走って行く。
  追いかけた先は、先日行方不明になったミカちゃんを発見した公園。
  砂場とブランコと滑り台程度しかない小さな公園だけど、ご機嫌な彼女に付き合って遊ぶ事にした。



「実はね、結菜お姉ちゃんと一緒に公園で遊びたかったんだ」

「いつも夜しか会えないから公園で遊べなかったもんね。じゃあ、今日はお腹が空くまでいっぱい遊んじゃおうか!」


「うんっ!!」



  私は額にびっしりと汗が湧き出ている炎天下の中、彼女と同じ目線になって砂場にお城を作って遊んだ。
  爪の中に小さな砂が溜まっていくけど、ミカちゃんの楽しそうな笑顔を見ていたら次第にそんな小さな事が気にならなくなった。

  スマホの時計が13時半を過ぎた頃、一旦区切りをつけてから声をかけた。



「じゃあ、お腹すいたしそろそろ帰ろうか」

「うん!  結菜お姉ちゃん、また一緒に公園で遊ぼうね」


「いいよ。また遊ぼうね」



  次回の約束をした後に小さな手が指先に届くと、私は彼女の手をギュッと握り返した。

  本当は両親が父兄参観に来るのがベストだったけど、何か来れない事情があったのかな。
  不思議なのは面影が全く感じられない事。
  あいつには詮索しないでと言われてからその話はタブーとされているけど、両親は一体何処で暮らしてるのだろうか。


 しかし、この 『また一緒に公園で遊ぼう』という約束は、結菜にとって話の延長線上に過ぎなかったが、ミカにとっては絶対に忘れられないほどの大切な約束になっていた。

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