オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
97 / 115
第十章

96.一つの答え

しおりを挟む



  ーー日向のいない二学期が始まりを迎えた。
  額から滲み出ていた汗を冷気で包んでいる教室内は、彼がいない空虚感によってより一層肌寒さを感じさせている。
  終業式の日に彼の正体がバレて大勢の生徒たちに囲まれるという前代未聞の事件は、時の流れと共に消えていた。


  今日は一つの答えを出す決意をした。

  揺るぎない気持ちは100%。
  そして、その傍で200%の恋心を封印している。


  学校が終わってから二階堂くんと一緒に徒歩10分の所にある川辺へ移動した。
  手をかざさないと日差しが眩しい。
  木々に止まっているセミの鳴き声がより一層蒸し暑さを醸し出している。
  彼と肩を並べながらサラサラと流れる川を見つめたまま言った。



「返事、遅くなってごめんね」

「ようやく心が決まったんだね」



  コクンと頷いて彼に目を向けると、彼は私の方へ身体を向けた。
  彼は今日もいつも通り穏やかな眼差しをしている。
  だから、口を開くのが難しい。



「二階堂くんは、私が髪を切る前から心の目で見てくれてたよね。例のラブレターを持ってきてくれた時は、どんな気持ちだったのなかと考えただけでも嬉しかったよ。いつも笑顔の中心にいて、クラスのみんなに好かれていて。こんな素敵な人の彼女になれたら幸せになれるんだろうなぁと信じて止まなかった」

「えっ、それって……」



  陽翔が一瞬期待の目を寄せると、結菜は軽くまぶたを伏せて首を横に振った。



「……でもね。二階堂くんが見てるのは過去の私。あの頃は自信も生まれ変わる力も言い返す力さえ持ってなかった。でも、今は違う。私はある人からもっと自分を好きになるように背中を押してもらったの。そしたら、幸せが何かという事に気づいてしまった。

彼と一緒にいると心が陽だまりのように温かくて、冗談だとわかっていても些細な言動でドキドキして、自分でも知らないうちに目線が持ってかれて、会えない日が苦しくて涙が止まらなかった。

もし、この感情が恋じゃなくても自分に嘘はつけない。……だから、二階堂くんとは付き合えないの。ごめんなさい」



  ーー私、最低だよね。
  二階堂くんの努力や優しさを目の当たりにしながら日向の事ばかりを見てた。
  『友達以上恋人未満』として関係を繋いだのに、私は近づく努力さえ……。

  申し訳なくて下がったままの頭が上がらない。
  私が呼び出した時はきっといい返事を期待してたと思うのに、こんな残酷な答えを突きつけられるなんて思ってもなかったはず。

  川のせせらぎが耳に入らないほど私達は緊張感に包まれていた。
  彼はおよそ15秒間の沈黙を破ると私に言った。



「さっき言ってた『ある人』って、もしかして阿久津の事?」



  結菜は声にしないままコクンと頷く。



「そっか。2人の関係性を見ているうちに何となくそうじゃないかと思ってたんだ」

「ごめんなさい」


「でも俺、諦めないよ」

「えっ……」



  結菜はそのひとことに驚いて、思わず目をギョッとさせた。



「早川が阿久津を想ってる以上に俺も早川を想ってる。例えそれが一方通行だとしても、自分の気持ちを大切にしていきたいから」

「でも、二階堂くんが待ち続けてもいい返事が出せな……」
「人を好きになるってそーゆー事なんだよ。諦めたり遠慮なんてしてたら自分の気持ちを大切に出来ない」


「二階堂くん……」

「早川がいい。……いや、早川じゃなきゃダメなんだ。簡単に諦められる恋なんてしてなかった。どんな言葉よりここ心臓は嘘をつけないから」



  陽翔は胸に手を当てながらそう言うと、勇敢な眼差しを向けた。
  しかし、結菜はいい答えを出す事が出来ない。



「その気持ちわかるよ。私も片想いだし、振り向いてもらいたいと思うだけで精一杯だから」

「以前阿久津から聞いたんだ。早川に興味があるかどうかを」


「えっ……」

「詳しくは話せないけど、俺はあいつより早川を大切にする自信がある。絶対に悲しい想いや辛い想いなんてさせない。だから、これからもずっと想い続けるよ」



  彼がいまどんな心情で言ってるかわかっている分、苦しくなった。
  私の答えは一つしかないから、その先には辛い想いしか待っていないと言うのに……。
  そして、日向との間にどんな話し合いが行われていたのだろうか。

  一方通行の恋に結果が出せない私達は、同じハードルに阻まれている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...