オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第十章

96.一つの答え

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  ーー日向のいない二学期が始まりを迎えた。
  額から滲み出ていた汗を冷気で包んでいる教室内は、彼がいない空虚感によってより一層肌寒さを感じさせている。
  終業式の日に彼の正体がバレて大勢の生徒たちに囲まれるという前代未聞の事件は、時の流れと共に消えていた。


  今日は一つの答えを出す決意をした。

  揺るぎない気持ちは100%。
  そして、その傍で200%の恋心を封印している。


  学校が終わってから二階堂くんと一緒に徒歩10分の所にある川辺へ移動した。
  手をかざさないと日差しが眩しい。
  木々に止まっているセミの鳴き声がより一層蒸し暑さを醸し出している。
  彼と肩を並べながらサラサラと流れる川を見つめたまま言った。



「返事、遅くなってごめんね」

「ようやく心が決まったんだね」



  コクンと頷いて彼に目を向けると、彼は私の方へ身体を向けた。
  彼は今日もいつも通り穏やかな眼差しをしている。
  だから、口を開くのが難しい。



「二階堂くんは、私が髪を切る前から心の目で見てくれてたよね。例のラブレターを持ってきてくれた時は、どんな気持ちだったのなかと考えただけでも嬉しかったよ。いつも笑顔の中心にいて、クラスのみんなに好かれていて。こんな素敵な人の彼女になれたら幸せになれるんだろうなぁと信じて止まなかった」

「えっ、それって……」



  陽翔が一瞬期待の目を寄せると、結菜は軽くまぶたを伏せて首を横に振った。



「……でもね。二階堂くんが見てるのは過去の私。あの頃は自信も生まれ変わる力も言い返す力さえ持ってなかった。でも、今は違う。私はある人からもっと自分を好きになるように背中を押してもらったの。そしたら、幸せが何かという事に気づいてしまった。

彼と一緒にいると心が陽だまりのように温かくて、冗談だとわかっていても些細な言動でドキドキして、自分でも知らないうちに目線が持ってかれて、会えない日が苦しくて涙が止まらなかった。

もし、この感情が恋じゃなくても自分に嘘はつけない。……だから、二階堂くんとは付き合えないの。ごめんなさい」



  ーー私、最低だよね。
  二階堂くんの努力や優しさを目の当たりにしながら日向の事ばかりを見てた。
  『友達以上恋人未満』として関係を繋いだのに、私は近づく努力さえ……。

  申し訳なくて下がったままの頭が上がらない。
  私が呼び出した時はきっといい返事を期待してたと思うのに、こんな残酷な答えを突きつけられるなんて思ってもなかったはず。

  川のせせらぎが耳に入らないほど私達は緊張感に包まれていた。
  彼はおよそ15秒間の沈黙を破ると私に言った。



「さっき言ってた『ある人』って、もしかして阿久津の事?」



  結菜は声にしないままコクンと頷く。



「そっか。2人の関係性を見ているうちに何となくそうじゃないかと思ってたんだ」

「ごめんなさい」


「でも俺、諦めないよ」

「えっ……」



  結菜はそのひとことに驚いて、思わず目をギョッとさせた。



「早川が阿久津を想ってる以上に俺も早川を想ってる。例えそれが一方通行だとしても、自分の気持ちを大切にしていきたいから」

「でも、二階堂くんが待ち続けてもいい返事が出せな……」
「人を好きになるってそーゆー事なんだよ。諦めたり遠慮なんてしてたら自分の気持ちを大切に出来ない」


「二階堂くん……」

「早川がいい。……いや、早川じゃなきゃダメなんだ。簡単に諦められる恋なんてしてなかった。どんな言葉よりここ心臓は嘘をつけないから」



  陽翔は胸に手を当てながらそう言うと、勇敢な眼差しを向けた。
  しかし、結菜はいい答えを出す事が出来ない。



「その気持ちわかるよ。私も片想いだし、振り向いてもらいたいと思うだけで精一杯だから」

「以前阿久津から聞いたんだ。早川に興味があるかどうかを」


「えっ……」

「詳しくは話せないけど、俺はあいつより早川を大切にする自信がある。絶対に悲しい想いや辛い想いなんてさせない。だから、これからもずっと想い続けるよ」



  彼がいまどんな心情で言ってるかわかっている分、苦しくなった。
  私の答えは一つしかないから、その先には辛い想いしか待っていないと言うのに……。
  そして、日向との間にどんな話し合いが行われていたのだろうか。

  一方通行の恋に結果が出せない私達は、同じハードルに阻まれている。

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