オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

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第十章

95.恋夜

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  ーーあいつが家政婦を辞めてから約1ヶ月。
  新しい家政婦は40代前半の主婦になった。
  最近はだいぶ仕事に慣れてきたが、一つ問題がある。
  それは、ミカが全く懐かない事。
  家政婦からの問いかけにうんともすんとも答えないなんて正直驚いた。

  それどころか、連日部屋に閉じこもって『結菜お姉ちゃんに会いたい』と泣きわめく始末。
  平日は毎日会ってたし、前例にないほど懐いていたから仕方がないと思ってたけど、これがまさか1ヶ月間も続くとは思わなかった。
  結菜が家政婦の時は割とすぐに慣れてくれたのに。
  自分にはどうする事も出来ないから暫く頭を悩ませている。


  スマホの中に収まってるたった一枚のあいつの寝顔写真。
  毎日眺めるのが日課になっている。


  『会いたい』と思うのは贅沢な悩みなのだろうか。
  仕事から帰宅したら、クソダサいカエルのエプロンを装着したあいつが笑顔で玄関に出迎えてくれないかと勝手に想像したりして。

  本当はもう忘れなきゃいけないのに。
  世間から非難を浴びせたくないから離れたのに、一向に気持ちの整理がつかない。
  自分が我慢すれば全てが収まるから、こうやって静かに写真を眺めるようになった。


  ーー外は台風。
  ザンザンと吹き付ける雨風が窓をガタガタと揺らしている。
  俺はベッドの上で夏掛け布団を頭から被ってヘッドフォンをしながら台風の通過を待った。
  1年前のトラウマに苦しめられて一晩中手を握りしめてくれていたあいつはもういないから、今後はこうやって1人で乗り越えていかなければならない。

  恋というものがこんなに辛いものなんて、あいつと離れてから初めて知った。

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