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13.彼の笑顔
しおりを挟むーー降谷くんが家に来てからもうすぐで2週間が経とうとしている、日曜日の15時頃。
母親と一緒にスーパーから帰宅すると、降谷くんがシンプルな柄シャツに黒のパンツといった外出着でリュックを背負い部屋から出てきたので、すれ違いざまに声をかけた。
「あれ、どこかに出かけるの?」
「ちょっと駅前の画材屋まで」
と言って靴を履いて玄関扉を開けて出ていったので、私は両手の買い物袋を母に押し付けて、「私も出かけてくる」と伝えて後を追った。
「降谷くん、ちょっと待って。私も一緒に行く!」
「……いいよ、来なくて」
嫌そうに振り返る彼。
でも、私は自分の恋心を大切にすると決めたばかり。
私のことなんて興味がないのはわかってるけど、せめて辛い時期は支えてあげたい。
「あのね! 新しいワイヤレスイヤホンが欲しいから私もコンクールに参加することにしたの。だから新しい絵の具でも買おうかなぁ~と思って」
「参加するのは自由だけど、どうして俺がお前と一緒に画材屋に行く必要が? ってか、お前ってほんとに叩かれてもめげないというか」
「それが私のメリットなの! そう思ってるならもっと優しくしてよ~」
「なんで俺が……。あのさ、少し離れて歩いてくれない? 知り合いにデキてると勘違いされたくないし」
「も~っ、ひどいっっ!!」
相変わらず冷たい……。
その上、歩くスピードをワンランクアップさせるから、私は小走りで後を追う。
でも、よくよく考えればデートみたい。
お互い私服だし、降谷くんと二人きりで歩いてるし。
はぁぁあ、幸せ過ぎて夢のよう。
『お前はなに色が好き?』『私は情熱的な赤かなぁ』『俺は赤よりお前の色に染まりたい』
なぁんて、降谷くんとあまぁ~い会話ができたら嬉しいのになぁ~。
厳しい現実が続くあまり、頭の中で妄想を繰り広げていると、すでに足を止めていた彼の背中に顔がバシッとぶつかった。
「いでっ!!」
「……」
「降谷くん、どうしていきなり足を止めたの? 背中にぶつかった瞬間、私の鼻が凹んじゃったよ」
真っ赤に染まった鼻をおさえながら横から彼を見るが、まるで私の言葉が耳に届いていないかのように目は一点方向へ。
不穏な空気が漂い視線の先にたどると、そこには彼が片想いしているあの女性が背の高い男性と腕を組んで街を歩いていた。
しかも、彼女たちは幸せそうに微笑み、ジュエリーショップの扉の奥へ。
私は不安顔のまま再びとなりから見上げると、彼は瞳に輝きを失わせていた。
失恋というものがどれだけ人を苦しめるかわかっている分、胸がキュウっと締めつけられる。
「降谷くん、あの人……」
「彼女もうすぐ結婚するんだ」
「えっ」
「俺さ、もう失恋してんの。諦めなきゃいけないと思ってるのにみっともないよな。未練たらたらでさ」
いま彼はどんな気持ちで本音を吐露しているのだろう。
言葉では強がりを言ってるけど、心の中では気持ちが置いてけぼりになっているのかもしれない。
「そんなことないっ! 私も降谷くんに未練たらたらだから」
自分のことなんて伝えてもなんの慰めにもならないのに、いまなにか伝えなければ彼が壊れちゃいそうな気がしている。
「あははっ、そうだな。お前は叩かれてもめげないど根性女だもんな」
「ひどーい!! 何度も何度もめげそうになってるのにぃ!!」
「あははははっ」
彼が私に笑顔を見せるなんて予想外だった。
あぁ、こうやって笑うんだ。
もっともっと笑って欲しいなって思ったら、心臓がドキンドキンと恋のノックを始めた。
「ようやく笑ってくれたね」
「えっ」
「降谷くんが笑顔を見せてくれるだけで嬉しくなるよ。……あっ、そうだ! 失恋記念にいいところへ連れて行ってあげる」
「どこ?」
「いいからついてきて」
私は来た道をUターンしてある場所へ向かった。
まだ夏のぬくもりが消えない夕空に包まれながら。
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