妄想女子はレベル‪✕‬‪✕‬!? ~学校一のイケメンと秘密の同居をすることになりました♡~

伊咲 汐恩

文字の大きさ
21 / 23

21.彼の心の中

しおりを挟む


「先生、遅くなってすみませんでした!」
「塚越さん、次は提出日に間に合うようにね」
「あ、はい……。気をつけます」

 昨日数学のノート提出があったにもかかわらずノートを持ってくるのを忘れてしまったので、この放課後の時間を使って職員室まで提出しに行った。
 職員室の扉を出ると、廊下ですれ違った女子二人の噂話が耳に届く。

「ねぇ、見た見た? 似顔絵コンクールの絵」
「一つだけプロのような作品あったね。美術部の人が描いた作品かなぁ」
「あったあった、色鉛筆画のやつね! あまりにも繊細なタッチだったから、一瞬写真かと思ったよ」

 ……あ、そっか。
 今日は似顔絵コンクールの絵の展示日だったね。
 降谷くんが家を出ていったあの日から大切なことを忘れてしまうくらい気持ちは下降していたからすっかり忘れてたよ。
 私の似顔絵はどんな風に仕上がったのかな。
 何枚も何枚も書き直してたから納得がいく作品に仕上がったのかな。
 最後はどんな気持ちで仕上げたのかな……。

 私は教室に向かっていた足をUターンさせて体育館へ向かった。

 到着すると、体育館内は生徒たちの声で賑わっている。
 入口のすぐ横にある投票用紙と鉛筆を手に取って中へ足を進めた。
 壁一面に貼られている絵の中から降谷くんの作品を探すのは大変だ。
 でも、私の絵を描いていたから、その分見つけやすいかもね。

 ざっと辺りを見回しても50人ほどの生徒たちが絵を眺めている。
 スマホをかざして絵の写真を撮影したり、「誰に投票する?」などといった相談をしあったり。
 会場は大いに盛り上がっていて、少し奥の方に行ってみると一か所だけ人集りができていた。
 みんなは同じ方向を見ているから、もしかして……と思って傍に寄ってみると、そこには予想通り色鉛筆画で描かれている私の似顔絵が。

 それが瞳に映った瞬間、言葉を失った。
 何故ならその絵には、モデルをしていた頃に一度も描かせたことのない笑顔の自分だったから。

「う……そ……」

 彼は以前言っていた。
 絵はその人らしさを表現したいと。
 もしそれが本音だとしたら、彼の中の私は笑顔で溢れていたのかな。  
 それに、貝殻をプレゼントしてくれた時に言ってた。

『これは貝殻?』
『今日のお礼。高台のベンチに座る前に拾ったんだ。なんか、それがお前っぽいなって。小さくて、細くて、頬をピンクにしながら笑っててさ』

 降谷くんはうちで一緒に暮らし始めてから私のことをしっかり見ててくれた。
 ずっと遠い存在だと思ってたけど、絶対に手に届かない人だって思ってたけど。
 私が見ていないところで書き直した絵は、彼の心の中の模写に過ぎない。
 それなのに、私は彼の気持ちも考えずにヤキモチに打ち勝てなかった。

 絵を眺めてるだけで恋しさは募っていく。
 しかし、絵の下に貼られているエントリーナンバーの横のタイトルを見た瞬間、瞳に溜まっていた雫が一直線に降下した。

「汚いよ……。こんなやり方……」

 ーー私、やっぱり降谷くんが好き。
 冷たくてもいい、意地悪でもいい。
 消しゴムを半分くれたあの日から運命の選択は間違ってなかった。
 好きな人はやっぱり降谷くんじゃなきゃ嫌っ!!
 

 心が1つに決まった瞬間、先ほどまで棒のように佇んでいた足は体育館を全力で駆け抜けていた。
 校舎の中に入り、前髪が風で煽られながらも足に全身の力を込めて彼の教室に向かう。

「はぁっ……、はぁっ……、すみません、そこを通して下さい!!」

 一心不乱のまま走って、廊下に残っている生徒の間をするりと抜けて、降谷くんの教室を目指した。
 ところが、教室に到着し、足に急ブレーキをかけてから後方扉に手をかけて中を覗き込むと、教室内には女子二人だけしか残っていない。
 はぁはぁと乱れている息を整えながら、一旦頭の中を整理する。

 降谷くん、もう帰っちゃったのかな。
 絵を描いてくれたお礼を言いたかったのに。
 感想を伝えたかったのに。
 いますぐ伝えたいことがあったのに……。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...