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20.あいつの絵
しおりを挟むーー場所は教室。
放課後を迎えて教室から出ていく生徒を横目に机の前でリュックを背負うと、焼津が陽気な様子で俺の肩を組んできた。
「涼~っ! 一緒に帰ろうぜ」
「ちょっと寄るところがあるから無理。先帰ってて」
「え、なになに? どこ行くの~?」
「似顔絵コンクールの絵が10月1日の今日展示だから、いまから体育館に見に行こうと思って」
「え、なにお前。似顔絵コンクールに参加したの? すごくね?」
「賞品のワイヤレスイヤホン目当てだよ」
焼津は俺が絵を描いてることを知らないから嘘をついた。
本当はコンクールを機に色んな人の目で絵の実力を認めてもらいたかった。
「なぁ~んだ、俺も参加すればよかった。似顔絵コンクールのことなんてすっかり忘れてた」
「お前の画力じゃ無理だよ」
「は? なんだよそれ。お、おい……ちょ、ちょっと待って。俺も一緒に見に行く」
俺たちは教室を出ると、そのまままっすぐ体育館へ。
ーー3日前の午前中。
両親が出張から戻ってきたので4週間近くお世話になったみつきの家を出た。
みつきの家にお世話になった時は色々面倒なことがあって先行き見えなかったけど、あいつのお陰で自信を出すことができたし、気持ちにケリをつけることができたのに、帰りぎわに『いままでありがとう』と伝えられなかった。
家を出る前日の夜に、扉越しに聞こえてきたむせび声がいまでも頭の中にまとわりついている。
「……人に好かれるって、なんか不自由だよな」
「お前がそんなことを言うなんて、なにかあった?」
「女って難しい。笑ったり、泣いたり、本音を隠したりさ……」
あいつの家を出る前に伝えたいことがたくさんあった。
でも、どうすれば伝わるかな……とじっくり考えていたら、結局最後まで伝えられなかった。
さちかに想いを伝えられなかったあの頃と同じように。
「誰のこと言ってんの?」
「……別に。一般的な話」
「お前が女の話をするなんて珍しい~。まさか、好きな人でも?」
「うっせ」
体育館の手前に到着すると、扉付近に出入りする生徒が多く見られる。
その合間をぬって焼津と中へ。
賞品目当てで参加する生徒が多い似顔絵コンクール。
全校生徒のおよそ5分の1は参加してると思われる。だから投票しに来る人も多い。
体育館の壁にはびっしりと絵が敷き詰められていた。
その正面には投票用紙をもった生徒たち。
コンクールは無記名で参加できるので、ほとんどの人が自分に一票入れていると思われる。
俺の絵は左から四列目の真ん中に貼られていた。
周りには軽く人だかりができていて、「上手じゃない? この絵」「あーっ、本当だ!」と、噂の声が耳に届く。
「うっわぁ、涼! 見てみろよ。みんなが噂している絵はレベチだよ! すげぇな。あの絵は塚越さん本人そのものだよ」
「……」
焼津がテンション高く指をさしているのは俺が描いた絵。
自分でも納得いく作品に仕上がっている。
絵を提出したのは提出日ギリギリの昨日。
前日徹夜で描き終えたばかり。
みつきにモデルを頼んでから毎日のように描かせてもらったけど、納得いくものが描けずに何度も何度も破り捨てた。
特に3日前は絶望的だった。
画用紙は真っ白のままな上にあいつの心の中が土砂降りだったから。
土曜日に自宅に戻ってから、あいつを思い浮かべながら新たに描き始めた。
モデルは目の前にいないし、写真がない状態で挑んだから、立体感や人間の温かみを感じられなくなってしまったかもしれないけど、あいつらしさを存分に表現したかった。
「ねぇねぇ、レベチな色鉛筆画の隣の絵……。あれって、モデルはお前じゃね?」
焼津が俺の肩に手を乗せて絵に指をさす。
言われた通り隣の絵に目を向けると、そこには俺の似顔絵が描かれていた。
「これって偶然? ……それとも、必然?」
焼津はニヤケ眼でそう言うと、肩を2回叩いてから体育館の扉の方に向かって歩き始めた。
なぜあいつがそんなことを言ったかというと、絵の下のエントリーナンバーの横に書かれたタイトルがとなり同士で共通していたから。
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