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第四章
16.カッコイイ蓮の姿
しおりを挟むーー体育の授業中。
花音から突き刺さる冷たい目線は、時間と共にじわじわと痛みを増していく。
でも、今日は仕方ない。
花音が水をかけてこなければ、蓮にジャージを借りる事はなかったのだから。
しかも、私が貸してくれとおねだりした訳じゃないし。
だけど、このジャージ蓮の香りがする。
まるで腕の中に包まれているみたいに。
ついこの前まで間近で嗅いでいたのに。
……なんか、懐かしい。
今日の授業はバスケ。
体育館のスペースを半々にして男女別々のコートで試合をしている。
暫く出番が回って来ないから、コートの外側で紬と一緒に座って雑談をしていた。
最初は女子チームを応援していたけど、次第に気迫溢れる男子チームの方へ目が奪わた。
紺色のジャージにナンバーを付けている他の男子に対して、蓮は白い体操着の上から黄緑のナンバーをつけているから一際目立つ。
しかも、蓮はバスケ部出身。
身長は180センチ近くはあるから、何処に居ても目立つ。
蓮はプレイ中の生徒の中でもズバ抜けて上手い。
リズミカルにボールを弾ませる瞬発力は、プレイヤーだけでなく、待機している女子達の目線も一斉に引き寄せる。
蓮にボールが回ると、相手プレイヤーは一瞬腰が引ける。
瞬息なパスに、リズミカルなドリブルに、相手の隙をついたシュートにと、多彩なプレイに自然と応援している自分がいた。
蓮は、本当に本当にカッコイイ。
並んで座っている5人先の花音に目を向けると、目からハートのビームを発している。
ーーあれは、高校に入学してから1ヶ月が経とうとしていた、ある日の放課後。
つまり、今から2年前の一年生の春。
学校帰りに、机のフックにかけていたお弁当箱を持ち忘れた事に気付いて、来た道をUターンして教室に戻った。
すると、同じクラスの蓮は耳からイヤホンのコードをぶら下げて音楽を聴いていた。
窓へと寄りかかり、黄金色の夕陽を浴びながら外の景色を眺めている姿は、絵になってもおかしくないほどサマになっていた。
あまりの美しさに胸がドキンと鳴った。
校内でアイドル的存在の蓮がいま目の前に。
しかも、一人きり。
邪魔する人なんてここにはいない。
入学当初から蓮に一目惚れしていた私には、願っても無いチャンスだった。
「柊くん……、帰らないの?」
「……」
後方扉から思い切って声をかけた。
これだけでも心臓が口から飛び出しそうなくらい緊張している。
でも、音楽のボリュームが大きいのか蓮は私に気付かない。
「柊くん?」
教室に入ってからそっと近付き、自分の存在を知らせるように蓮の腕に触れた。
蓮はそこで私が傍にいる事に気付く。
目と目が合った瞬間、鼓動は高まっていき、顔はゆでダコ以上に赤くなった。
「……あれ、菊池。まだ学校に居たの?」
「私の名前、知ってたんだ」
「ははっ、女子の名前は全員覚えてるよ」
と、イヤホンを外して冗談を交えながら私に笑いかけている。
毎日女子からキャーキャー騒がれている蓮がいま私の為だけに。
それだけでも嬉しくて失神しそうになった。
何故なら平々凡々な私からすると、彼は手の届かない存在に思えていたから。
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