26 / 184
第六章
25.強く握りしめた手
しおりを挟む「蓮っ……、蓮ってばぁ。一体どこに連れて行くつもりなの」
手を振り切ろうとして必死にもがいても、蓮の力に負けて振り切れない。
偽物の10パーセントの可能性は、もはや損の塊。
あの時は、はっきり0パーセントと答えるのが正解だったのだろうか。
「わかった……、わかったからスマホだけでも取りに戻らせて。今日は先生と11時に約束しているから、せめて連絡だけでもしないと」
「スマホなら俺のがあるから、いつでも貸すよ」
「バカッ! 蓮のスマホには先生の電話番号が入っていないでしょ」
「だったらちょうどいいな」
「何言ってるの? それじゃあ、先生との約束をどうするのよ。それに、蓮が突然来たからセットしている最中の髪だって、まだ半分しかカールが終わってないのに」
「本当だ。ウケる」
「蓮~~~っ!」
蓮は一度立ち止まってから梓の腕を離して自身の左腕に巻きつけているミサンガを解いて、手ぐしで梓の髪を後ろで一本に束ねた。
「これでよし! お前はどんな格好でもいつもかわいいよ」
蓮は梓の頭にポンっと手を置いてニコリとしてクサいセリフを吐いた後、逃げないように再び腕を掴んだ。
梓は恋人時代から滅多に言われない言葉が耳に届くと、驚くあまり逃げる事を忘れてしまった。
蓮……。
一体どうしちゃったの?
交際していた頃からかわいいなんて殆ど言わなかったクセに。
蓮は強引で計画性がないけど、付き合っていた時はここまではひどくなかったよ。
「ねぇ、これからどこに行くの?」
先生とのデートに諦めがかかった頃。
駅の改札で肩を並べて歩く蓮に行く先を聞いた。
「行けばわかるよ」
「どうしてわざわざ電車に乗るの?」
「お前とデートするから」
と、私とデートすると一点張りの蓮。
そのせいで、拉致されてから1週間ぶりの先生とのデートがおじゃんになった。
電車に乗ってからも、蓮は強く握りしめた手を離さない。
きっと、扉が開いた瞬間に私が逃げ出すとでも思っているのだろう。
先ほど最寄り駅で見た時計の針は10時前をさしていた。
先生はいま私と蓮が一緒にいる事を知らない。
約束の11時になったらデートがすっぽかされた事に気付くだろう。
最悪……。
私ったら何をやってるんだろう。
いま蓮と二人きりでいるだなんて知ったら、先生はどう思うのかな。
後でどう説明すればいいの?
「着いたよ」
自宅の最寄り駅から二駅先の所で電車を降りた。
ホームに到着した頃には、興奮していた気持ちも治まっていた。
多くの人が行き交う駅で久々に感じる女性からの視線。
どの角度からも注目を浴びてるのがわかる。
勿論、視線の先は私ではない。
蓮はあまり気にしていないかもしれないけど、彼女でもない私が隣で歩くのは少し気が引ける。
過去を振り返ると、蓮と付き合っていた頃が人生の中で最も大変だったような気がする。
0
あなたにおすすめの小説
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
お嬢様は地味活中につき恋愛はご遠慮します
縁 遊
恋愛
幼い頃から可愛いあまりに知らない人に誘拐されるということを何回も経験してきた主人公。
大人になった今ではいかに地味に目立たず生活するかに命をかけているという変わり者。
だけど、そんな彼女を気にかける男性が出てきて…。
そんなマイペースお嬢様とそのお嬢様に振り回される男性達とのラブコメディーです。
☆最初の方は恋愛要素が少なめです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる