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第八章
47.浮気さえなければ……
しおりを挟む「誰がやったか知らないけど、人を不幸に陥れて何が楽しいのか……」
「いつも思ってたけど、どうして梓に嫌がらせをするんだろう」
蓮は炎が激しく燃えさかるように怒りを露わにして、紬はまるで自分の事のように胸を痛めてる。
梓は二人の心配の言葉が届くと、真っ白になっていた頭がようやく働き出した。
靴はビショビショだからもう履けない。
どうやって家まで帰ろう。
マイナス要素が重なって胸が引き裂かれそうな想いで呆然と立ち尽くしていると、蓮は履いたばかりの靴を脱いで梓の前に揃えた。
「俺の靴を履いて帰って」
「……でも、私に靴を貸したら蓮はどうやって帰るの?」
「ロッカーに置きっ放しにしてある運動靴で帰るよ。だから、その靴を使って」
「でも……」
「いいから。お前を守れるのは俺だけだから」
今は彼女でもないのに靴を借りるのは正直気が引けた。
きっと私に何か出来ないかと考えた結論だったのだろう。
昔と変わらない優しさは、心の奥底へじんわりと浸透していく。
それを隣で聞いていた紬は、肩にかけている鞄に手を突っ込んでティッシュを取り出した。
「蓮くんの靴はサイズが大きくてブカブカだから、ティッシュを詰め込めば少し歩きやすくなるかもね」
「……二人とも、ありがとう」
二人の優しさが身に染みると涙が止まらなくなった。
蓮の靴はティッシュを詰め込んでもブカブカだ。
時につまずき、時に歩きにくく感じるのは、まるで今の私の人生を表しているかのよう。
こうして、蓮の計らいで靴を借りて帰宅する事に。
先日はジャージを借りたばかりなのに、今日は靴。
蓮には頭が上がらないほど感謝していた。
蓮と付き合い始めてから度重なる嫌がらせを受けて散々な目に遭っていたけど、それ以上の根気強い気持ちが恋心を燃え上がらせていた。
あの頃は、他の人に盗られまいとムキになっていたかもしれない。
でも、残念な事に別れた今でも嫌がらせは続いている。
理由はわからないけど、少なからず私を目障りと思っている人がいる。
だけど、蓮はあの時と変わらずに守ってくれるから、私の気持ちは持ち堪えているのかもしれない。
蓮が教室まで運動靴を取りに行ってる間に紬は言った。
「蓮くんって、本当に素敵。二人がまた付き合えたら私は嬉しいのに……」
そう…。
蓮に浮気がなければ。
あの時の浮気さえなければ、今でもきっと……。
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