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第九章
49.思い出の共有
しおりを挟むーー今日は待ちに待った学園祭。
大学受験を控えた私達だけど、高校生活締めくくりの一大イベントとして生徒達は気合いが入っていた。
およそ三週間前から本格的に装飾などの準備を始めて、今日ようやく本番へ。
クラスの出し物は、ごくごく普通の焼きそば屋さん。
一括購入した黒いTシャツに、頭には黒タオル。
私達のクラスは黒で統一感を出した。
学園祭は一日のみの開催の為、午前チームと午後チームの2チーム編成に。
クジで決められた午前チームの中には紬と蓮の姿が。
思わずホッと胸を撫で下ろす。
焼きそば作りの下準備で机の上にまな板を置いてキャベツを刻んでいると、蓮は隣から肩を突っついて呼び掛けた。
「ねぇねぇ、梓ってば」
「なによー、オープンまで時間がなくて忙しいんだって」
と、包丁を持ったまま文句を言いながら振り向いた瞬間。
カシャッ……
蓮はスマホを自分達の方へ向けてツーショット写真を撮った。
心の準備をする時間がなかったから、口が開いたままのショットに。
「ちょっと! 写真を撮るならひと声かけてよ。いきなり撮られたから変な顔になっちゃったじゃん」
「あはは、ごめんごめん。ツーショットが撮れたからもう仕事に戻っていいよ」
「もう……。相変わらず自分勝手なんだから」
蓮は写真を撮り終えて満足すると、スマホをポケットにしまって受付の準備に取り掛かった。
彼は毎年こんな感じで、3年間私とのツーショットの写真を撮り続けていた。
でも、その数々の写真達がまさか机の鍵付きの引き出しにしまわれていたなんて……。
オープンすると、ここぞとばかりに押し寄せてくる人人人……。
一般客に加えて来年度に入学予定の中学生も学校説明会がてらに遊びに来ている。
ごくごく普通の焼きそば屋さんに、行列が出来る事は滅多にないと思うんだけど……。
受渡し口を三ヶ所設けているのに、何故か蓮の列だけは長蛇の列に。
蓮はお客さんから代金を受け取って、山積みされている焼きそばのパックと割り箸をレジ袋に入れて渡す。
一人だけ忙しそうにせっせと働いてるから、きっと周りは見えていない。
他の人も自分と同じように忙しいと思ってるに違いない。
お客さん。
私の列……、誰も並んでいませんけど。
バイト経験がないから焼きそば販売を楽しみにしていたのに、蓮目当ての客が多過ぎてどうも張合いがない。
蓮の写真を撮っているスマホのシャッター音が時たま聞こえてくる。
でも、本人は忙しいから多分気付いていない。
独り身になった今年は、去年と比べるとファン数が増えているような気がする。
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