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第九章
50.誰よりも必死な紬
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「ふーっ、よく働いた」
学園祭の午前チームの私達は役割を無事に終えた。
蓮は頭に巻いていた黒タオルを解いて椅子に腰をかけて肩をポキポキ鳴らしている。
さっきは一生懸命働いてたから、『忙しいのは蓮だけだったんだよ』なんて口が裂けても言えなかった。
体調が良くないからもう少し気遣ってあげればよかったな。
最近元気そうにしてるから、病気という事を忘れていたよ。
午後チームとバトンタッチしてから紬と一緒に教室を出た。
パンフレットを開いて紬に聞いた。
「どのクラスから見て周ろうか」
「んー、お腹が空いたからお好み焼き屋さんがいいな。蓮くんは?」
「俺はお化け屋敷」
二人で行動していたはずが、気付いた時にはもう一人増えていた。
何故か間に割って入る蓮。
お陰で女子の視線が集まり、目立ちたくなくても注目の的に。
「どうして蓮も一緒に行動するの? イジワルトリオで一緒に行動すればいいじゃん」
「なんだよ、イジワルトリオって……」
しまった!
心の中に留めていたはずのネーミングが、つい口に…… 。
「梓~。そんなこと言わないで三人で一緒に行こうよー」
紬が梓の腕を引きながらお願いしていると、突然蓮の隣から甘ったるい声が届いた。
「蓮~、二人で一緒に周ろう~」
聞き慣れた声が届いて誘惑している人物に目線を移すと……。
そこには、蓮に3年間想いを寄せている花音が、蓮の腕を両手で揺さぶっていた。
「あ、花音。お疲れ~」
「ねっ! お~ね~が~い~。蓮と一緒に居たいの~」
花音はハチミツのような甘く粘り気のある声を出してここぞとばかり豊満な胸の谷間に蓮の腕を挟み込んでセクシーに誘惑し始めた。
蓮は柔らかい感触が心地が良いのか、鼻の下を伸ばしている。
その様子を正面で見ている私と紬がドン引きしていたのは言うまでもない。
二人とも花音の二重人格なところはよく知っている。
男にはベタベタ甘えて、女には悪口や意地悪など言ってツンケンした態度をとる。
多分、蓮は裏の顔を知らない。
だからバカみたいにのん気でエロい顔をしている。
「花音と一緒に行ってくればぁ?」
蓮の表情がムカついたから冷めた目で冷たく当たった。
しかし、紬は私達の間に割って入る。
「梓、それは言っちゃダメ! 蓮くんは私達と周るんだから。ねっ、蓮くん」
「えっ! あっ、あぁ……。花音、ごめん。梓達と行動するから一緒に周れないわぁ」
「えーっ!!」
この四人の中で蓮を取られまいと一番必死になっていたのは、私達の復縁を願っている紬であった。
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