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第十章
63.蓮がここに来た理由
しおりを挟む私は停学、若しくは退学かなぁ。
先生はどうなっちゃうの。
転勤?
……それとも、懲戒免職?
現役教師と教え子の恋愛だから、先生は社会的制裁を受けなきゃいけないのかな。
ーー事態を重く受け止めている私と隣に立つ高梨先生はいま、教頭先生に呼ばれて校長室へやって来た。
室内には、校長先生、教頭先生、高梨先生……、そして私の四人。
以前、脳裏を過ぎった最悪な事態がいま現実のものに。
校長先生の机の上には一枚の写真。
そこには、後夜祭の時に撮られていた先生とのツーショット写真。
距離はとっていたけど、暗闇の中に二人きりという事は一目瞭然だった。
誰かがこの写真を撮って校長先生の手元に周したと思われる。
誰の仕業か判らない。
これは、みんなの目を搔い潜って先生に会いに行った罰かもしれない。
重苦しい沈黙が続く中、校長先生は手元の写真をスッと前に差し出した。
「高梨先生。この写真について詳しく説明して下さい。どうして真っ暗闇の教室内で菊池さんと二人きりだったのでしょうか」
校長先生は厳しい口調で高梨先生に詰め寄った。
自分達以外にも教師と生徒の恋愛関係が発覚した前例があったようで、同じ事が二度と起こらないように先生達は互いに厳しく目を光らせていた。
しかし、一昨年赴任してきたばかりの高梨先生は、その件に関して知らされていない。
先生は目線を落としたまま口を開こうとしない。
何かを考えているかのように一点を見つめている。
すると、教頭は沈黙を貫く先生に声を荒らげた。
「高梨先生!」
「誤解です。この写真は菊池と二人きりに見えるかもしれませんが、実際は二人きりではありません」
「じゃあ、誰が一緒に居たと言うんですか。高梨先生の口から説明して下さい」
「それは……」
「それは?」
メガネを光らせて詰め寄る教頭先生に対して、握りこぶしに力を入れて俯いたまま唇を噛み締める高梨先生。
先日、隣県のショッピングセンターで元教え子に遭遇した時のように、機転を利かせてその場しのぎの嘘をつけばいいのに、今は次の言葉が出て来ない。
ーーしかし、ピンチを迎えていたその時。
ガチャ……
「失礼しまーす。3年B組 柊 蓮入りまーす」
蓮は明るい声で校長室の扉を勢いよく開けた。
室内の人間の目線は一斉に蓮へ。
蓮は扉の奥から足を進ませると、ポケットに手を突っ込んだまま梓の隣に立った。
「梓~。さっき教室で拾ったって言ってた俺の財布早く返してくれない? ジュース買いたいんだけど」
「えっ、財布?」
身に覚えのない話に唖然としていると、蓮は気付かせるように目配せをする。
そこでようやく蓮がここに来た理由が判明した。
「あっ、あぁ……。蓮の財布なら教室に置いてきたけど」
「早く返して。……で、こんな所で何やってるの? 何、その写真」
蓮は短い時間の中で鋭い観察力と洞察力を働かせてそう言うと、校長先生の机の前に立って写真を覗き込んだ。
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