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第十章
64.蓮はスーパーマン
しおりを挟む「あれぇ……、この写真どうして俺が写ってないの?」
「えっ……」
「これじゃあ、梓と高梨が二人きりみたいじゃん。……しっかし、ヘタクソなカメラマンだなぁ。梓の写りが悪くない? 本物はもっとかわいいのに」
蓮は机から写真をヒョイと手に取ると、まるで現場に居たかのような言いっぷりに。
すると、教頭はすかさず聞いた。
「その写真には高梨先生と菊池さんの二人しか写ってないように見えるけど、現場には柊くんも一緒に?」
「俺が写ってなければその場に居ないって事になるの?」
「そうは言ってない。ただ確認の為に……」
「あの日は梓と一緒にいる時に教室にカバンを置き忘れていた事に気付いたから、廊下で暇そうに歩いてた高梨に声をかけて教室の鍵を開けてもらっただけ。俺がカバンを探してる最中に撮られたモンだと思うけど」
次から次へと繰り広げられる作り話には驚かされたけど、何も知らない校長先生と教頭先生はまんまと洗脳されていく。
「なるほど。つまり、柊くんが鞄を取ってる最中に撮られた写真だから、二人以外写ってないと」
「それが何か? あ~~! もう喉渇いたぁ。ねぇ、俺の女だけ解放してくれない? 早くジュース買いに行きたいんだけど」
蓮はまるで駄々っ子のようにそう言うと、梓の頭に右手を乗せて自分側に寄せた。
蓮の迫真な演技力に、校長先生と教頭先生はお互いの顔を見合わせる。
校長先生はゴホンと軽く咳払いすると、何らかの理解を示したようにこう言った。
「わかりました。戻りなさい」
「はーい。失礼しましたー。梓、行くぞ。早く頭下げて」
「あっ、うん……。失礼しました」
先日、後夜祭の借り物競争でイケメンコンテストの優勝者である蓮の告白が、先生達の間でも話題になったに違いない。
きっと校長先生の耳にも入ったはず。
そのお陰もあってか、疑惑の目が背けられるまで時間はかからなかった。
しかも、今回は写真だけしか二人きりの証拠が無かったせいか、校長先生達は案外あっさりと引き下がった。
私と蓮は二人で頭を下げた後、蓮は高梨先生に目を向けた。
「あ、そうだ。高梨センセー」
「えっ……」
「あの時、最後に言った言葉覚えてる?」
「あっ……、あぁ」
蓮は先生から返事を受け取ると、傍に寄ってそっと耳打ちした。
「センセーはどう思ってるか知らないけど……。俺、マジだから」
と、表情一つ変えず挑発的な態度に。
勿論、校長先生と教頭先生の耳には届いていない。
蓮は言いたい事を伝え追えると、私の所まで戻って手を引いて校長室を後にした。
今までは交際がバレている事を本人に隠していたけど、先生に宣戦布告をしたあの日を境に蓮はライバル心を露わにするようになった。
でも、蓮が校長室に来てくれなかったら、どうしようかと思った。
先生はどうやって切り抜けるつもりだったのかな。
蓮……。
どうして私が校長室に呼び出された事を知っていたの?
蓮は全速力で私を屋上に連れていくと、扉の脇にドスンと腰を落として両手で頭を抱えた。
左人差し指がイライラしたようにトントンと小刻みにリズムを刻む。
だから大人しく隣に座った。
すると……。
「ざっけんな! いちいち心配させんなよ……」
それまで笑顔を取り繕っていた蓮は、騒動後に初めて悲痛の叫びを口にした。
「ゴメン。助けてくれてありがとう……」
すると、蓮は空の方を見上げて両手で軽く口元を押さえた。
横から見ると口元が僅かに震えてるような気がする。
「こーゆーのマジで勘弁。お前が退学になったら意味ないから」
「ゴメンね」
彼が口を開く度に心配度が伝わってくる。
校長室に集まってた時に怖かったのは私と先生だけじゃなかったんだね。
でも、今日の蓮はスーパーマンみたいでカッコよかったよ。
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