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第十二章
86.恋する乙女
しおりを挟むつい先日、校長室に呼び出されて痛い目に遭ったのに、警戒心が薄れていたせいか自らの口で秘密をカミングアウトしてしまった。
人影のない廊下に油断してたのも一つの要因に。
う……そ……。
誰かに聞かれた?
唾をゴクリと飲み込んで恐る恐る背後の階段下へと振り返った。
するとそこには、教室で一人待っていたはずの紬が顔面蒼白状態で佇んでいる。
これは夢だと思いたい。
先生との関係をこんな形で紬に知られてしまうなんて……。
てっきり教室で待っているかと思って油断していた。
紬は蓮との恋を応援し続けていたからこそ、ショックの大きさは計り知れない。
「それは、私だけが知らなかった話? 大和くんは知ってたんだよね」
「……」
「信じられない……。私は梓と蓮くんを応援してたのに、二股かけてたの? しかも、もう一人の相手は高梨先生なんて……」
「紬、私の話を聞いて! 二股なんかじゃない! 先生が本命なんだよ」
「じゃあ、蓮くんがかわいそう。梓をいつも全力で守ってくれたのにひどいよ。梓は蓮くんの事を一体どう思っているの」
ここ1ヶ月半、紬はほぼ毎日蓮と一緒に過ごしていたから、蓮の気持ちを熟知している。
だから、本命の恋を隠していた私に裏切られたと思ってしまったのか、瞳にたっぷり涙を溜めてその場から逃げ出した。
「紬、待って……」
引き止める為に背中に声を届けたけど、紬の足は止まらない。
そんな最中、紬の心情を察知した大和が私の横を通り抜けて後を追った。
すると、紬は焦るあまりに階段を駆け下りる際に階段を一歩踏み外した。
「きゃっ……」
「危ないっ!」
私が悲鳴混じりのその一言を発した瞬間。
ガバッ………
すぐ後ろまで接近していた大和が、紬の後ろからギュッと抱きしめて、階段からの落下を防いだ。
「あっ……あぁ……っ」
紬は恐怖で声が漏れると、足元をガタガタ震わせて息を荒くする。
すると、大和は紬の耳元で落ち着いた口調で囁いた。
「紬……。辛くても逃げちゃダメだよ。あいつを信用してるなら、ちゃんと話を聞いてやって。紬にいつか話すつもりだったと思うから」
混乱していたとは言え、片想いの相手の大和にバックハグされた紬は完全にノックアウト。
大和の温もりが直に伝わった紬の顔は、火が吹きそうなほど真っ赤っかに。
「うっ……、うん。わかった」
紬は本調子が狂わされるあまり、頭を縦に振る事しか出来なかった。
こうして、大和が救助してくれたお陰で、私は紬と向き合うチャンスを与えてもらった。
勿論、誤解を解くのは先なんだけど……。
大和に抱きしめられるだけでいっぱいいっぱいになっていた紬を見た瞬間、恋する乙女なんだなぁとつくづく実感した。
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