93 / 184
第十三章
93.梓の想い
しおりを挟む恋の病って……。
人がブチ切れてる時によくそんな事が言えたね。
ひょっとして、怒りを鎮める為に笑わせようとしてるの?
正直、笑えないんだけど。
でも、もし蓮の言う通り恋の病にかかってるとしたら、その病は相当進行してるね。
「……は? 恋の病なんてバカじゃないの?」
「思い返してみろ。俺は病気になったなんてお前にひと言も言ってない」
「じゃあ、私が勘違いしてるって気付いた時に言ってくれれば良かったでしょ?」
「俺自身もみんなに病気扱いされていた事を知らなかったよ。裏で身に覚えのない噂が勝手に広がってるし、何故病気に繋がったのか……。そして、それがどうしてみんなに伝わってるのかさえ思い当たる節がないし」
「だったら最初に噂を知った時に教えてくれれば良かったでしょ? 蓮が病気で死んじゃうんじゃないかと思って、本気で心配してたんだよ!」
全身の力を振り絞って感情をぶちまけた瞬間、蓮はハッとした目を向けた。
「お前……、本気で俺の事を心配してくれたの?」
「そうだよ! ……毎日毎日考えてた。何をしてても、蓮の事を思い描いたら自分でも気持ちが抑えられなくなってた。病状が悪化したら、ある日突然倒れちゃったら、この世からいなくなると思ったら私っ……私………」
限られた時間の中。
言いたい事をギュッと凝縮して伝えたら、一気に悲しみが押し寄せてきた。
もしかしたら、言葉の凝縮までもが気持ちを凝縮させていたのかもしれない。
苦しみから解放されたら、涙がポロポロ溢れていた。
泣くはずじゃなかった。
弱気な自分を見せたくなかった。
でも、蓮が病気じゃないと判ったらコントロールが利かなくなっていた。
梓は泣いてる姿を隠す為に、右手の甲で軽く目をこする。
「泣くなよ」
「バカヤロぉぉ……。蓮なんて、もう嫌い! 大大大嫌い! もう絶交だからね! 絶対絶対、許せないんだから……」
「ごめん、悪かった。俺はこれからもお前の傍で生きていくから」
蓮は反省の色を醸し出しながら梓の髪をグシャグシャっとかき乱す。
それにより、梓は水道の蛇口を最大限までひねったかのような涙がドッと溢れてきた。
蓮が病気じゃなくて本当に本当に良かった。
でも、思い込みじゃなくて蓮が本当に病気だったら私は……。
梓が全ての想いを伝え終えた瞬間、校内に本鈴のチャイムが響き渡った。
ーー蓮との話し合いは想像以上に時間がかかってしまい、本鈴が鳴り終えるまでに教室には戻れなかった。
幸い5時間目の国語教師はまだ教室に到着していない。
しかし、クラスのみんなは既に着席。
遅れて教室に入った私達は、一斉にクラスメイトの目線を引いた。
無表情の蓮に次いで、目を真っ赤にして教室へ入る私。
紬は花音の傍で保健室に向かっていく様子を一部始終見ていたから、私の体調が想像以上に悪かったのではないか……と思ったのか、心配そうな目つきで見ている。
その一方で、私達の事情など知るはずもないクラスの生徒達は、顔色一つで別れ話でもしたのではないかと勝手に噂話を始めた。
0
あなたにおすすめの小説
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
お嬢様は地味活中につき恋愛はご遠慮します
縁 遊
恋愛
幼い頃から可愛いあまりに知らない人に誘拐されるということを何回も経験してきた主人公。
大人になった今ではいかに地味に目立たず生活するかに命をかけているという変わり者。
だけど、そんな彼女を気にかける男性が出てきて…。
そんなマイペースお嬢様とそのお嬢様に振り回される男性達とのラブコメディーです。
☆最初の方は恋愛要素が少なめです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる