Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~

伊咲 汐恩

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第十四章

95.密会メモ

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  ーー蓮が帰宅してから5分後。
  教室で帰り支度を終えた梓は、自分の机でスケジュール帳にメモをしている紬に横から元気な声をかけた。



「紬、か~えろっ!」



  すると、気付いた紬は口元だけ軽く微笑ませて言った。



「……梓、悪いんだけど今日は先に帰っててくれない?」

「えっ!  今日は一緒に帰れないの?」


「うん、ごめん。先生に用事があるから職員室に寄ってから帰るね」



  紬は先程からずっとソワソワしていた。
  何度もチラチラと壁時計を見ていたり、何処となくボーッとしてたり。
  この時は特に気にも留めずに帰宅したけど、紬には大事な用事があった。



  紬は昨日梓から高梨との経緯を全てを聞いた後、一つの考えがまとまった。
  以前梓が高梨を呼び出す方法として秘密のメモを渡していた時のように、紬も数学のノートにメモを挟んでノート提出した。

  一方、紬のメモを読んだ高梨は約束の時間に紬が待つ教室へ。
  グラウンドから部活動が行われている声や音が届いてくるほど物静かな教室内に紬は一人で着席していた。



「工藤、何か悩み事でも?」



  高梨は梓との関係が紬にバレている事を知らない。
  まるで個人面談を始めるかのように、机を向かい合わせに揃えて椅子に座った。



「昨日……、知りました。先生と梓が付き合ってる事を」

「えっ!」



  高梨は声を詰まらせて動揺した。
  まるで芋づる式のように自分達の関係が明かされていく事態に心が対応しきれない。



「先生はどうして梓を助けてあげないんですか?  それとも、身に起こっている事に気付いてないんですか?  梓はいつも苦しんでいるのに先生は手を貸してあげないんですか?」

「一体、何の事?  あんな目って。菊池がどうかしたの?」


「先生は彼氏なのに知らないんですか?  梓は誰かからしょっ中嫌がらせをされてますよ」



  紬は偽彼氏になってまで梓の身を守ろうとしている蓮と、恋人の存在感どころか助け舟すら出さない高梨の事を考えてるうちに疑問が浮かび上がっていた。



「嫌がらせって。一体、菊池の身に何が……」



  高梨は困惑した表情で詰め寄った。
  だが、紬は真顔で一寸たりともブレずに高梨の目を真っ直ぐ見つめる。



「本当に何が起こってるのか知らないんですか?  梓の隣にいても気付かないものなんですか?」

「……」


「私がこんな事を言っていいかわからないけど……。梓は過度な嫌がらせを受けています。靴を水浸しにされたり、知らない間にお弁当が床に撒き散らされたり。その度に柊くんが力になっています」



  紬の口から蓮の名前が上がった瞬間、高梨は先日蓮が言っていた言葉を思い出した。



『センセーは誰にも認めてもらえないような関係を続けているから、見えるものが見えなくなってるの。梓は素直だけど、いつも肝心な事を口にしないから、こっちが先に気付いてあげないと守ってあげれないよ』



  高梨は紬と蓮の言葉を重ね合わせた途端、その意味をようやく理解した。
  痛いところを突かれたが、平静を装いながら椅子に深く腰をかけ直す。



「柊くんが菊池の力に?」

「梓は人に心配や迷惑をかけたくないから肝心な事は言いません。だから、私や蓮くんは気付いた時に支えていました。……だけど、昨日梓から先生が彼氏だと打ち明けられるまで二人が交際してる事に気付きませんでした。それは、先生が一度も助け舟を出していなかったから」


「……」

「実は柊くんが先生の代わりに偽彼氏として梓を守っています」


「柊は僕達の関係がバレないように影武者になってくれてるだけじゃなくて?」

「梓はそう話したんですね。でも実際は梓を守る為。柊くんは別れた今でも梓が好きだから毎日全力で守ってます。先生は本当に梓の事が好きなら柊くんに負けないくらい努力してくれませんか?  私は二人が復縁してくれる事を今でも願っていますけど」

「……」



  高梨は紬の口から次々と明かされていく真実に言葉を失った。


  知らないところで嫌がらせを受ける梓。
  その事実を受け止めて支えている元彼 蓮。
  そして、関係を維持する事が精一杯で堂々と梓の力になってあげられない自分。


  瞼の奥に映し出されているのは、蓮と向き合ったあの日の梓を思いやる表情。
  今思い返してみても、叩きつけてきた言葉一つ一つに愛情がびっしり埋め尽くされていた。



  高梨はやるせ無い現実に打ちひしがれると、机の下で静かに拳を握った。

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