95 / 184
第十四章
95.密会メモ
しおりを挟むーー蓮が帰宅してから5分後。
教室で帰り支度を終えた梓は、自分の机でスケジュール帳にメモをしている紬に横から元気な声をかけた。
「紬、か~えろっ!」
すると、気付いた紬は口元だけ軽く微笑ませて言った。
「……梓、悪いんだけど今日は先に帰っててくれない?」
「えっ! 今日は一緒に帰れないの?」
「うん、ごめん。先生に用事があるから職員室に寄ってから帰るね」
紬は先程からずっとソワソワしていた。
何度もチラチラと壁時計を見ていたり、何処となくボーッとしてたり。
この時は特に気にも留めずに帰宅したけど、紬には大事な用事があった。
紬は昨日梓から高梨との経緯を全てを聞いた後、一つの考えがまとまった。
以前梓が高梨を呼び出す方法として秘密のメモを渡していた時のように、紬も数学のノートにメモを挟んでノート提出した。
一方、紬のメモを読んだ高梨は約束の時間に紬が待つ教室へ。
グラウンドから部活動が行われている声や音が届いてくるほど物静かな教室内に紬は一人で着席していた。
「工藤、何か悩み事でも?」
高梨は梓との関係が紬にバレている事を知らない。
まるで個人面談を始めるかのように、机を向かい合わせに揃えて椅子に座った。
「昨日……、知りました。先生と梓が付き合ってる事を」
「えっ!」
高梨は声を詰まらせて動揺した。
まるで芋づる式のように自分達の関係が明かされていく事態に心が対応しきれない。
「先生はどうして梓を助けてあげないんですか? それとも、身に起こっている事に気付いてないんですか? 梓はいつも苦しんでいるのに先生は手を貸してあげないんですか?」
「一体、何の事? あんな目って。菊池がどうかしたの?」
「先生は彼氏なのに知らないんですか? 梓は誰かからしょっ中嫌がらせをされてますよ」
紬は偽彼氏になってまで梓の身を守ろうとしている蓮と、恋人の存在感どころか助け舟すら出さない高梨の事を考えてるうちに疑問が浮かび上がっていた。
「嫌がらせって。一体、菊池の身に何が……」
高梨は困惑した表情で詰め寄った。
だが、紬は真顔で一寸たりともブレずに高梨の目を真っ直ぐ見つめる。
「本当に何が起こってるのか知らないんですか? 梓の隣にいても気付かないものなんですか?」
「……」
「私がこんな事を言っていいかわからないけど……。梓は過度な嫌がらせを受けています。靴を水浸しにされたり、知らない間にお弁当が床に撒き散らされたり。その度に柊くんが力になっています」
紬の口から蓮の名前が上がった瞬間、高梨は先日蓮が言っていた言葉を思い出した。
『センセーは誰にも認めてもらえないような関係を続けているから、見えるものが見えなくなってるの。梓は素直だけど、いつも肝心な事を口にしないから、こっちが先に気付いてあげないと守ってあげれないよ』
高梨は紬と蓮の言葉を重ね合わせた途端、その意味をようやく理解した。
痛いところを突かれたが、平静を装いながら椅子に深く腰をかけ直す。
「柊くんが菊池の力に?」
「梓は人に心配や迷惑をかけたくないから肝心な事は言いません。だから、私や蓮くんは気付いた時に支えていました。……だけど、昨日梓から先生が彼氏だと打ち明けられるまで二人が交際してる事に気付きませんでした。それは、先生が一度も助け舟を出していなかったから」
「……」
「実は柊くんが先生の代わりに偽彼氏として梓を守っています」
「柊は僕達の関係がバレないように影武者になってくれてるだけじゃなくて?」
「梓はそう話したんですね。でも実際は梓を守る為。柊くんは別れた今でも梓が好きだから毎日全力で守ってます。先生は本当に梓の事が好きなら柊くんに負けないくらい努力してくれませんか? 私は二人が復縁してくれる事を今でも願っていますけど」
「……」
高梨は紬の口から次々と明かされていく真実に言葉を失った。
知らないところで嫌がらせを受ける梓。
その事実を受け止めて支えている元彼 蓮。
そして、関係を維持する事が精一杯で堂々と梓の力になってあげられない自分。
瞼の奥に映し出されているのは、蓮と向き合ったあの日の梓を思いやる表情。
今思い返してみても、叩きつけてきた言葉一つ一つに愛情がびっしり埋め尽くされていた。
高梨はやるせ無い現実に打ちひしがれると、机の下で静かに拳を握った。
0
あなたにおすすめの小説
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
お嬢様は地味活中につき恋愛はご遠慮します
縁 遊
恋愛
幼い頃から可愛いあまりに知らない人に誘拐されるということを何回も経験してきた主人公。
大人になった今ではいかに地味に目立たず生活するかに命をかけているという変わり者。
だけど、そんな彼女を気にかける男性が出てきて…。
そんなマイペースお嬢様とそのお嬢様に振り回される男性達とのラブコメディーです。
☆最初の方は恋愛要素が少なめです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる