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第十六章
110.何も知らない奏
しおりを挟むーー今日は雲一つない晴天。
五時間の体育の授業を前に校庭に次々と集まるジャージ姿の生徒達。
花壇の縁のレンガに座って頬杖をついてボーッとしている梓の横に、同じくジャージ姿の一員が腰を下ろした。
「何しけたツラしてんの。らしくないよ」
話しかけてきた相手を横目でチラリと見ると、左横には奏が座っていた。
顔を向けた途端、奏は話を始めた。
「クリスマスに蓮と愛の逃避行したんだって? 大和から聞いたよ。結構やるじゃん」
「バーカ。愛の逃避行なんてする訳ないでしょ。それより、前々からクリスマスパーティの予定を決めてたのにドタキャンしないでよ」
「色々頑張ったんだけどさぁ、ワガママな女が多くて都合がつかなくてね~。ま、俺が行かなかったお陰で蓮と二人きりになれたんでしょ? 逆に感謝してね」
「だから違うっつーの。蓮と二人きりになったのは気を遣っただけ」
「へぇ、誰に?」
「奏には関係ない!」
「チェッ……」
蓮の相談相手はいつも奏。
大和に恋愛相談しても、交際経験があまりないから参考にならない。
奏の話っぷりから私達の現況を把握していない様子。
でも、奏なら何かしらの相談を受けているかもしれないと思って探りを入れた。
「もしかしたら蓮から聞いてるかもしれないけど。蓮が私を忘れるって……」
「……何? あいつ、お前にそんな事を言ったの?」
「ここ数日間は話すら聞いてくれなくて」
「そりゃおかしいな……。あいつは梓一筋なのに」
「ねぇ、本当に蓮から何も聞いていないの?」
「聞いてないよ。お前があいつに浮気浮気ってしつこく責めるから愛想尽かしたじゃない?」
会話の内容からして、奏はやっぱり何も聞いていない様子。
ガッカリして瞼を落とすと、奏は半やけになりながら頭を軽くかきむしった後、口を窄めて言った。
「あのさぁ。お前に言いたい事があるんだけど……」
「なぁに?」
「お前らが別れた時の話だけど、あいつの身体は浮気してたかもしれないけど、心は浮気してたの?」
「蓮は浮気したとしか言わなかったから、心が浮気していたのかまではわからない」
蓮が浮気を白状した時、深く追及しなかった。
ただですら傷付いているのに、これ以上傷口を広げるような真似はしたくなかったから。
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