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第十六章
111.蓮の悩み
しおりを挟む「あいつ、疲れてたんじゃない? 塾へ行った後に俺らと夜遊んでいたから。聞いた限りでは何か深刻な悩み事があって、酒に悪酔いしてその辺の女と寝ちゃったみたいだし。浮気した事は殆ど覚えてないみたいだけど」
「………塾? 悩み? そんなの知らない」
「お前はちゃんとあいつの話を聞いてあげたの?」
「ううん。浮気されたショックで聞けなかった。……でも、蓮はどうしてそんなに勉強してるの?」
「その理由を先日ようやく聞き出したんだけど……。なんか、お前を幸せにする為とか。あいつなりにお前との将来を思い描いたんだろうな」
「私との将来? 何よそれ……」
「あいつ、付き合ってる時も別れた後も、頭ん中はお前一色に染まっていたから、俺らの誘いを断わってばかりだった。お前との時間を優先してたのは気付いてた?」
「う、うん……」
「それが蓮の全てなんじゃない? 最後まで信じてやれば良かったのに。今度はあいつがお前に愛想つかしたんじゃない? ……ま、お前には愛するセンセーがいるから関係ないか」
「奏っ!」
「じゃあ、まったねー!」
奏は立ち上がってから明るい声でそう言い背中を向けたまま手を振ると、クラスメイトが集合している校庭へと向かって行った。
奏の話は自分が知らない事ばかり。
話を聞かなければ、蓮の本心を知らずにやり過ごしていただろう。
塾に通ってる事。
悩みがあった事。
それに、話をちゃんと聞いてあげなかった事。
信じてあげなかった事。
蓮は私との将来を思い描いて頑張っていたのに、私は遊んでばかりいると思っていた。
内面をしっかり見てあげなかった証拠かもしれない。
気付けば、つい先日別れたばかりの先生にも同じ事をしていた。
ゆっくり話を聞いてあげたり、信じてあげていたら、また違う未来が用意されていたかもしれない。
私は昔から全然変わっていない。
蓮は、私との将来を見据えて頑張ってくれていたと思うと、自分の考え方が浅はかで嫌になった。
私は人を責めるばかりで大切なものを見失っていた。
その上、真実を引き出そうとしなかった。
蓮の悩み事に早く気付いて対処していれば、浮気が防げたかもしれないのに。
別れの原因は蓮だけかと思っていたけど、話をちゃんと聞いてあげない私にも原因があった。
8ヶ月以上も前に別れた人を、交際していた時以上に好きになるなんて普通あり得ないよね。
もしかしたら、心の片隅で恋心が生きてたのかな。
蓮が言ってた通り、私の心が迷子になっていただけなのかもしれない。
蓮の学習机の2段目の鍵付きの引き出しの中の思い出の品々を見た時に気持ちに気付いていれば、蓮と先生をここまで傷付けなかったかもしれない。
彼が見向きもしなくなった途端、ようやく自分の気持ちに気付いた。
最近は呼び止めても振り向いてくれないし、口も利いてくれない。
それは、紛れもなく自分が原因だ。
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