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第十六章
114.境界線の向こう
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バタン……
蓮の部屋で受験勉強をしていると、一階の玄関から扉が閉まる音が耳に入った。
すかさず部屋の壁時計で現在の時刻を確認。
19時24分
蓮の家にお邪魔してからおよそ3時間が経過していた。
窓の外を見ると外はまっ暗闇に。
話がしたくて部屋で待っていたけど、蓮の香りに包まれているこの場は、いつしか不安な気持ちをかき消していた。
玄関扉の音は恐らく蓮が帰宅した合図。
しばらく待っていても、蓮はなかなか部屋に入って来ない。
きっと、母親は私がお邪魔している事を伝えてる最中なのかもしれない。
いつでも話ができるように、机の上に広げていた教科書やノートをカバンにしまっていると、蓮はようやく二階の部屋に入室。
部屋に入るなり冷ややかな目で私を見た。
「蓮、おかえり……」
「何しに来たの? 自分の家に帰れよ」
蓮は当然の如く冷遇する。
だけど、これは想定内。
無視され続けているより、少しでも話してくれている今の方がずっとマシだから。
「この前奏から聞いたんだけど、蓮は私との将来を思い描いて勉強していたなんて、ちっとも知らなかった」
「塾に通い始めた頃はそうだったかもしれないけど、今はもう自分の将来の為。俺は大学に進学して気持ちをリセットしたいんだ。だから、お前はお前で自分の人生の為に頑張っていけよ」
突っぱねてくるのは予想通り。
だけど、会話へと繋がったチャンスを逃したくない。
蓮は少し攻撃的になってるけど、私は傷付けてしまったあの日の事を謝りたかった。
「クリスマスの日、ひどい事を言ってしまって、ごめんなさい」
「あれはお前の本音だろ?」
「違う! あの時は気持ちが中途半端だったと言うか……なんと言うか……。今は蓮とやり直したい」
「やり直したいって……。今さら何言ってんの? お前は高梨が好きなんだろ」
「だからね。あのね、それは……」
「俺の事なんてこれっぽっちも思っていないんだろ? あれが本音なんだろ? もういい加減にして出て行けよ。そんな話なら聞きたくない」
蓮は部屋の隅に置いてある梓の荷物を鷲掴みにすると、梓と一緒に部屋の外へと追いやった。
部屋の扉が閉まると共に、蓮の怒っている顔が見えなくなる。
クリスマスの日のあの時の言葉が根深く彼の心を傷付けていた。
まるで、ナイフで境界線を刻んでしまったかのように私と彼の間に大きな溝が生まれていた。
つい先日まで蓮は私を追いかけてくれたけど、いつの間にか形成逆転に。
今度は私が蓮を必死に追いかけている。
境界線の向こうにいる私は、蓮と付き合う以前のファンの一員に戻った。
蓮……、辛いよ。
今までは毎日寄り添ってくれたのに、急に傍からいなくなったから、私の気持ちが置いてけぼりになったよ。
好きな人にフラれるってこんなに辛いんだね。
蓮もこんな気持ちだったのかな。
私は自分の恋愛で精一杯だったから、蓮の気持ちは何一つわかってなかった。
クリスマスの日まで、散々ヒドイ事を言って傷付けてきたよ。
蓮は人一倍モテるくせに、偽彼氏として嫌がらせから私を守ってくれたし、先生との関係がバレそうになった時も、瞬時に頭を働かせて助けてくれた。
頭が上がらないほどいっぱい助けてもらったのに、私からはまだ何も与えていない。
仲良く笑い合ってた日々はもう二度と戻って来ないまま卒業式を迎えちゃうのかな。
蓮は大学へ行ってから、新生活をスタートさせようとしている。
私は同じ所ばかりで足踏みしてないで、早く何とかしないと、卒業と同時に蓮とは一生会えなくなっちゃう……。
だけど、謝っても跳ね除けられてしまうから、これからどうしたらいいかわからないよ。
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