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第十七章
118.心配する蓮
しおりを挟む体育の授業はバレーボール。
男女別々のコートで練習している。
練習を終えて出番の人と交代した私と紬は、コートの隅に並んで腰を下ろした。
「顔にまだ泥が付いてるね。いま拭き取ってあげる」
「ありがとう。自分じゃ見えないから助かるよ」
休憩中に紬が泥を指で拭き取ってくれていると、男子側のコートから私達の足元に向かってボールが転がってきた。
ふと見上げると、ボールの後を追いかけて来たのは蓮。
一瞬目が合ったように見えたけど、蓮の目線はすかさず私が着ているジャージの胸元へ。
美玲の苗字に気付いた様子でピクッと目が動いた後、無言でボールを拾ってコートへ戻って行った。
以前、花音からジャージに水をかけられて蓮にジャージを借りた事があったから、また何かあった事がバレちゃったかもしれない。
口に出さなかったけど、心配そうに見つめていた瞳が印象的だった。
体育の授業が終わると、蓮は脇目も振らずに私の腕を掴んでクラスメイトの輪から外れて体育館隅へ連れて行った。
「何で美玲のジャージ着てんの」
蓮は不機嫌な口調でそう言うと、掴んでいる腕をパッと離す。
「……気付いてたんだ」
「自分のジャージはどうしたの?」
「それは、ちょっと……」
「ちょっとじゃわかんねーよ。……ってか、髪に黒いものがついてるけど、それは何?」
間近で聞いた蓮の声。
そして、言葉以上の気持ちが伝わってくる眼差し。
最近は冷たく遇らってきたのに、こんな小さな事に気付いてくれるなんて嬉しくて涙が出そう。
「蓮が傍にいないと辛いんだよ……。一人じゃ頑張れないから……」
梓は瞳にたっぷり涙を浮かべてポロっと弱音を吐いた。
我慢がパンク寸前だった。
弱ってる時に心配されたら甘えたくなる。
付き合っていた頃のように抱きしめてもらいたくなる。
でも、今の距離感からしてそれは出来ない。
蓮は梓の髪をグシャグシャした後、返事もせずに体育館を離れて行った。
梓はそんな蓮の背中を見ながら大粒の涙を零す。
蓮は別れても変わらない。
いつも優しくて。
いつも心配してくれて。
身体は傍に居なくても、心は傍に居てくれる。
だから、余計忘れられない。
諦めきれない。
やっぱり蓮が好きだよ。
私は酷い事を言って傷付けてしまったのに。
偽恋人はもうとっくに解消して忘れようと努力していたはずなのに、まだ心配してくれてる。
その上、学習机の引き出しの中には思い出の日々の品をまだ大切にしまってあった。
このギャップが私の気持ちを錯綜させる。
本心を覗かせてくれた瞬間、また蓮の元に戻れるんじゃないかと期待してしままう。
もう一度やり直したい。
もし、恋の病が完治してないならリスタートしたい。
蓮と約束した10パーセントじゃなくて、これからは自分の意思で100パーセント頑張るから、蓮の彼女に戻りたい。
少し寄り道をしてしまったけど、やっぱり蓮じゃなきゃダメだよ……。
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