Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~

伊咲 汐恩

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第十八章

129.煮え切らない復縁話

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「ねぇ、この数式の答えがどうしても合わないの」

「どれ、見せて……」



  クリスマス以来、口さえまともに聞いてくれなかった蓮に、帰宅困難者としてこの家に押しかけて通常会話まで繋げるという目論見は見事に成功した。
  ブラウンのセンターテーブルで、向かい合わせに座って勉強を進めている。


  蓮は物理。
  私は数学。
  別々の大学を志望している私達は、お互いそれぞれ苦手な教科に力を入れていた。


  数学が得意な蓮は、まるで専属の家庭教師のよう。
  私の目を見ながら、間違っている数式を事細かに説明してくれて、引っかかりやすいポイントまでもを把握していた。

  わからないところを一生懸命説明しているその唇は、クリスマスの日に私とキスをした。
  愛おしい唇に思わず目線が奪われる。


  勉強は大事だけど、復縁も優先順位が高い。
  穏やかな環境の今がチャンスだと思い、話の区切りがついた所で英語の勉強に戻ろうとしていた蓮に話を切り出した。



「大和から聞いたかもしれないけど……。私、先生と別れたよ」

「何で?」



  蓮はペンを滑らせながら顔色一つ変えずに口先だけで返事をした。



「お互い歯車が揃わなかった」

「ふーん……」


「イケメントリオはみんな口が軽いから、てっきり聞いてるかと思った」

「失礼な。お互い価値観は大事にする方なんでね……(よくわかってんな)」



  昨日の『まだダメだ』の【まだ】の意味が気になって仕方ない。
  私がまだ先生と付き合っていると思ってた事が関係してる?
  蓮の反応からして、私が先生と別れた事をやっぱり知らなかったのかも。

  でも、いま別れた事を知ったから、蓮に復縁したいと伝えたら受け入れてくれるのかな。
  だったら伝えなきゃ……。



「この前、将来の夢を聞いてきたよね」

「あぁ……」


「ようやく将来の夢が決まったの」

「……で、お前の夢は?」


「蓮のお嫁さん」

「……俺らもうとっくに別れてるんだけど」



  復縁スイッチにより再稼働した私のハートはメーター振り切り寸前。
  でも、そんな私とは対照的に蓮はスパッと切り捨てる。

  つい2ヶ月前までは、あんなに熱を上げて追いかけ回してくれたのに……。
  若干二人の気持ちに温度差を感じながらも、怖じけず復縁話を続けた。



「私、蓮とやり直したい……。例え蓮が私を忘れようと努力していても、蓮が心配してくれる限りは頑張り続けたい。蓮だって私との将来を見据えて考えていてくれたんでしょ」

「俺と付き合ったらまた誰かに嫌がらせされるよ?  それに、お前はどうしてそんなにやり直したいの?」


「それは……、みんなの前で堂々と本物の彼氏として守って欲しいから」

「……何、それだけ?」


「だって、蓮が『俺にしとけよ』って言ってたし……」

「いつの話だよ。しかも、余り物扱いかよ」



  煮え切らない復縁話に溜息をつく蓮。
  決め手となるもうひとことが、喉の奥でひっそりと潜めている。



「いま私とやり直す可能性は、何パーセントくらいあるの?」

「あのさぁ……。いまお前を忘れようとしてるのに、そんなの言える訳ねーだろ」


「私を忘れようとしているなら、パーセンテージは0じゃないって事だよね。この前だって、美玲のジャージを着ているのを見て心配してくれたし……」

「……あっ……あれは、ついお前を見てしまう癖というか……見境がなくなったというか。とにかく、しょーがねーだろ!」



  口を尖らせてムキになりながらしどろもどろと語るひと言ひと言には、私との希望が見え隠れしている。
  完全に気持ちが消え失せているのなら、心配しないはず。

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