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第十九章
136.相思相愛
しおりを挟む「嫌がらせの根本的な原因は蓮だろ? 俺がお前なら犯人を探し出してボッコボコにしてやるけど」
「私は大和とは違うから力では解決しないの」
「正直、こんな事されてムカつかない?」
「ムカつくけど、顔が見えない相手にどう対処したらいいかわからないから」
「蓮には報告してる?」
「してない……。今は受験シーズン真っ只中だし、余計な心配かけたくないから」
と、普段は勝気な梓が弱音を吐く。
大和は本調子が狂うと、大きくため息をついて梓の右肩をポンッと叩いた。
「そっかぁ……。蓮に守ってもらえないのに我慢ばかりで辛いな」
そう……。
今は蓮という大きな支えがない。
嫌がらせが辛くても我慢している。
きっと、犯人は私なら反発しないと思ってるのかもしれない。
「でもさ、妬んでる奴らはお前らが羨ましかったんじゃない?」
「えっ……」
「お前と蓮は3年間同じクラスだったから、学校行事を一喜一憂した仲間だし、一日中べったりくっつくくらい仲が良かっただろ。こんな俺ですら羨ましいと思う時があったくらいだし」
交際していた頃と、別れた後に復縁を迫ってきた頃と、偽彼氏でいてくれ時は毎日私の傍から離れなかった蓮。
当時は、蓮が隣にいる毎日が当たり前のように思えていたから、つい優しさに甘えていた。
失ってから気付いた大切な存在。
蓮がいなくなってからは、空気が抜けたタイヤのように前に進む事が困難になっていた。
「お前らはお互い思ったり思われたり。一匹狼の俺にはよくわからないけど、お前が言ってた通り長く付き合わないと見えないような絆があるんだろうな」
「大和……」
「この前、お前に『束縛されないって事は、誰からも愛されてない証拠でしょ?』って言われただろ」
「うん」
「あれからじっくり考えてみたんだ。俺にはお前らのように相思相愛が出来てないんだってね。お前らを見ていてつくづく思ったよ」
「大和は何となく本気の恋愛が出来てないんじゃないかと思ってたけどね」
「お陰でいい薬になった。一人の女しか見えなくなるくらい恋愛に夢中になりたいなって」
「大和……」
「今さらだけど前向きに頑張ってみようかな。だから、お前も頑張れよ」
「あっ、うん。ありがと!」
大和は励ましの言葉を伝えると、スクっと立ち上がった。
大和は日替わり彼女で満足しているように思えたのに、2年間付き合ってた私達を羨ましく思ってくれてたなんて、なんか意外。
「あ、そうだ! この間、蓮はひとり身で寂しいから花音と付き合おうかどうか迷ってたみたいだけど、お前どうすんの? ……うかうかしてると、蓮持ってかれちゃうよ」
「えっ! あの花音と?」
「しかも、『推定Dカップに飛び込むまでは、高校を卒業出来ないから』とか言ってたけど。……まぁ、お前のその程度の胸じゃ当分勝てそうにないけどね」
「……っ!」
それはそれは、でっかいでっかい夢だこと……。
しかも、大和まで残念そうな目つきで私の胸を見て嘲笑っている。
どうせ私の胸は小さいですよ。
梓は梅干しのように唇をすぼめながらワナワナと身体を震わせていると、階段の方からパタパタと足音が近付いてきた。
「梓~、お待たせ。……あっ! 大和くん……」
「お! 紬。梓と一緒に帰るの?」
「うん。教室に宿題のプリントを取りに戻ってたの」
息を切らしながら戻ってきた紬は、大和の顔を見た途端、頬を赤く染めた。
大和は「ん、じゃあな」と言うと、紬にハイタッチをして校舎の中へ入って行く。
大和のハイタッチは『後はよろしく』という意味を含んでいるように思えた。
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