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第二十章
137.恋に生きる女
しおりを挟むーー今日はバレンタイン。
おととい紬と一緒にバレンタインの材料を買いに行って、昨日ブラウニーを作った。
受験勉強にチョコ作り。
目まぐるしいほど忙しかったけど、蓮にどうしてもチョコを渡したかった。
3年連続の熱い想いは、果たして受け取ってもらえるのだろうか。
今日という日が彼にとってどんな日なのかよくわかっている。
おとといも去年も、私という彼女の存在が居ても関係なかった。
寧ろ、相手が私だから簡単に奪えるとでも思ったのだろう。
通学路を歩く女子達の鞄の中には、恐らく蓮に渡すはずのチョコが入ってるだろう。
右に左と、女子達の鞄に次々と目線を移していく私は完全に不審者だ。
蓮を失った今は恋に生きる女。
今日はいつもより早めに登校して真っ先に蓮の下駄箱の扉開けると……。
詰み重なっている大量のチョコレートが、雪崩のようにドサドサと降ってきた。
「うわわわ……!!」
赤、ベージュ、白、ピンク。
色形様々なラッピングをされているチョコレートをざっと数えても15個以上。
今年のバレンタインは初のシングルだから、去年以上に競争率が高い。
だが、床に散らばったチョコの前で不敵な笑みを浮かべながら心の中から語りかけた。
チョコさん、あのね。
君たちには大変申し訳ないだけど、蓮の鞄の中には入れない運命なんだよ。
キョロキョロとして蓮がいない事を確認してから床に散らばったチョコをゴッソリとかき集めて鞄の中にギュウギュウと詰め込んだ。
血眼になってチョコを回収している姿は虚しいが、私も蓮を他の女に取られまいと必死だ。
下駄箱のチョコは全て鞄の中に詰め込んだけど、まだ気は収まらない。
ーー次は机。
教室に入ってから見境もなく蓮の机の中に手を突っ込んで探ると、中には箱っぽい物体の感触があった。
1、2、3……8、9。
指先に触れただけでも、机の中には沢山の箱や袋が詰め込んであるのがわかる。
最初は机の脇で遠慮がちにしゃがんでいたけど、そのうち椅子が邪魔になったからどけた。
恥じらいや理性を捨てて、机の正面からチョコを一つ一つ自分の鞄の中に詰め込んでいく。
「悪気は?」と聞かれても「ある」としか答えようがない。
だって、他人のチョコを一つたりとも蓮に渡したくないから。
自分の席に戻ってから机の横にかけた小さな学生鞄は、他人のチョコでパンパンに膨れ上がって今にもはち切れそうな状態に。
若干ファスナーが悲鳴をあげている。
他の女子がどんな想いで蓮にチョコを渡すかが気になった瞬間、私の目の前に天使と悪魔が出現した。
何処から湧いてきたのかわからないけど、そっと耳を傾けてみた。
悪魔『チョコに添えられた手紙、何て書いてあるか気になっちゃうね。……こっそり見ちゃいなよ』
天使「悪魔さん! チョコを盗んだだけでも大罪なのに、それはダメよ。これ以上罪を重ねないで」
悪魔『うっひっひっひ。手紙はこーんなに沢山あるんだから、ちょっとくらいいいだろ。一枚くらいどうって事はない』
天使「彼にもプライバシーはあるの。手紙を渡した女の子の気持ちも考えてちょうだい」
悪魔『うるせぇ! 見たもん勝ちなんだよ。いい子ぶっても損しか待ち受けてない。今までもそうだっただろ?』
天使と悪魔が葛藤を繰り返す中。
やや優勢気味の悪魔の囁きが、嫌がる右手に襲いかかった。
天使さん、ごめんね。
さすがにそれは良くないと思って心の中で葛藤したんだけど、悪魔さんにはどうしても勝てなかったよ。
悪魔によって呪われた右手が、ゆっくりなぞるように鞄のファスナーを15センチ程度まで開けた。
ファスナーの隙間から手を差し込み、手探りで鞄の中に詰め込んだチョコに手をかけた次の瞬間、蓮は教室内へ入って来た。
想像以上の早い登校に心臓が破裂しそうになり、鞄の中に突っ込んでいた手は反射的に引っこ抜いた。
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