Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~

伊咲 汐恩

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第二十二章

157.怒りの矛先

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  閑散としている理科室前に到着すると、蓮は私の手首を解放した。
  教室を出てからずっと背中を向けたまま。
  怒りの矛先が何故悪口を言われていた側の私に向いている理由がわからない。



「どうして私をここへ連れてきたの?」



  壁のような背中に向けてそう言った。
  すると、蓮は大きく息を吸って背中越しに話を始めた。



「お前は目の前で自分の悪口を言われてるのにどうして言い返さないの?  花音達の悪口が聞こえてただろ?」

「それは、花音に言えなかった……から」



  蓮は『言えなかった』という言葉に反応したようにゆっくりと振り返った。
  久々に合わせてきた瞳は悲しみと怒りに満ち溢れている。



「言えなかった……?  じゃあ、バレンタインの日に告白してきた女に言い返したアレはなんだよ。俺の前ではいい顔がしたかった?」

「違う!  そんなつもりはない」


「あの時は相手に立ち向かっている姿を見て、以前と比べて強くなったな~って感銘を受けたけど、俺がいなければ黙認してるだけ?」

「だから、違うって言ってるじゃない。落ち着いて話を聞いて」


「今までもそうだったんだろ。あいつらの話っぷりからすると、今日初めて悪口を言ったような感じじゃなかった」

「確かに蓮の言う通り、花音達の悪口は今日始まった事じゃない。でもね……」
「やっぱりそうなんだな。じゃあ、どうして今まで相談しなかった。3年間という時間があったのにどうして黙ってた」


「それは……、花音が私を名指ししてた訳じゃないから確信がもてないし……」

「誰が聞いてもあれはお前だって気付くだろ。お前は俺と別れた途端、もう知らんぷりってか?  俺じゃあ役不足?」


「蓮が役不足なんて思った事はない!  蓮はいつも守ってくれたし、気持ちを受け止めてくれた事には感謝してる。でもね……」
「……っざけんな!」



  花音の件は、蓮の気持ちを考えて口を閉ざしていたけど、蓮は逆にそれが受け入れられなかった。
  昔から頭を悩ませていた問題が、再び彼の心を惑わせてしまうとは思いもしなかった。


  でも、何度も違うと否定しているのに蓮はマトモに話を聞こうとしない。
  しかも、自分勝手な見解を押し付けてくる。
  それに受験のストレスがあるのは蓮だけじゃない。
  私も蓮と同様、明日は大学の二次試験なんだよ。


  卒業まであと1週間しか残されていないプレッシャーと、復縁に応じてもらえない不安。
  それに加えて、我慢重ねで張り裂けそうな気持ち。

  一方的な見解を突きつけられても我慢していたけど怒鳴り声を聞いた瞬間、私の中の何かが崩壊してしまった。



「……勘弁してよ。蓮はどうして見たものでしか判断できないの?」

「え……」


「私は蓮じゃないから蓮が言う通りなんて出来ない!  それに、私には私の事情があるの。蓮は目で見たものだけを信じてるかもしれないけど、私は蓮が見えてないものだって沢山抱えてる。なのに、それを知ろうともせずに自分勝手な見解ばかり押し付けないで!」



  梓は全身の力を振り絞って怒鳴り散らした後、ポロっとこぼれ落ちた涙を拭う事なく蓮の元から走り去った。

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