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第二十二章
164.高梨先生
しおりを挟む「あ、そうだ!」
学校のルールでスマホは電源を切って鞄の中にしまっておかなければいけない。
しかし、大和はそんなルールなどお構いなしにスマホでゲームを楽しむのが日課だった。
多分、大和はスマホを鞄の中に入れた事はない。
ということは、いま手元にスマホがある。
そう思って鞄からスマホを出して大和に電話をかけた。
プルルルル プルルルル プルルルル
カチャ……
『何だよ! 俺に何か用?』
大和は3コール目で電話に出たけど、何故か怒り口調の内緒話風の小声に。
違和感満載だが、そのまま話を続けた。
「まだ学校にいる?」
『いま立て込んでるの! 後にして』
ブツッ…… プーッ プーッ プーッ
大和は無愛想にそう言って電話を一方的に切った。
「何? あいつ……」
電話に出てくれたまでは良かったけど、第一声が『何だよ』って……。
いま何をしている最中なんだろう。
まぁ、また後で電話をすればいっか。
梓はスマホを鞄に仕舞うと、ひとまず自分の教室に戻る事にした。
すっかり人気のない廊下を歩いていると、たまたま向こう側から歩いてきた高梨と目が合った。
先に気付いた梓が声をかけて小走りで向かう。
「高梨先生!」
「菊池……」
授業では週に何度も顔を合わせていたけど、別れてから二人きりで話すのは今日が初めて。
先生は私の目の前で立ち止まってニッコリと微笑む。
その笑顔は交際していた当時と変わらない。
「明日でいよいよ卒業だね」
「うん。先生ともお別れだね……」
「寂しいな。教師や在校生は残っているのに、三年生は未来へ旅立って行くんだから」
「もーっ! そんな事言わないで。こっちだってまだ卒業したくないのに寂しくて泣いちゃうよ……」
「ハハッ……。梓は相変わらずなんだね」
もしかしたら先生は気付いてないかもしれないけど、いま『梓』って。
無意識に呼んだのかな。
それとも、いま周りに誰もいないから?
先生は別れてからも顔色一つ変えずに私を生徒の一員として接してくれた。
別れてから1ヶ月半。
先生とは半年間交際していた。
体育館の用具室で密会を続けていた頃は、スリル満点な緊張感がとても新鮮だった。
しかし、そこには大きな代償が待ち受けていた。
結局自分自身がそこを乗り越える力がなくて、先生に終止符を打たせてしまった。
交際していた頃は本当に大切にしてくれた。
気遣いや多くの理解を示してくれて、こんなにワガママな私にだいぶ苦労したはず。
最近は蓮に振り回されっぱなしだけど、先生と一緒にいるとやっぱり心が落ち着く。
それは昔も今も変わらない。
きっと、私を一人の人間として理解してくれたからだと思う。
最終的に蓮と高梨先生に大きな差がついたのは、私の愛情量だった。
蓮が深い愛情で包み込んでくれた分、私の心は奪われていった。
『俺なら一番近くで守れる。人目を気にせずに付き合える。声を大にして好きって言える。世間の目ばかり気にし続けてる高梨じゃなくて、俺にしとけよ………バーカ』
結果、クリスマスの日に交わした蓮のキスが、先生との関係にピリオドを打つきっかけに。
自分でも蓮の元へ戻るなんて思わなかった。
交際していた間は蓮に恋路の邪魔をされて我慢の連続だった高梨先生。
二人きりで話すのは今日で最後になった。
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