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第二十二章
165.誠意の塊
しおりを挟む「柊とは上手くいってるの?」
「先生っ!」
「あはは、ごめん……。今更こんな話をするのもなんだけど、客観的に見てたら梓の気持ちが丸わかりでさ」
「やっぱり、私の気持ち気付いてたんだ」
「うん、気付いてた」
「……ごめんなさい」
先生の性格からして私の気持ちを見て見ぬふりをした訳じゃないと思うけど、大人な対応に気持ちが置いてけぼりになった。
「柊ってさ……、凄いね」
「えっ、どんな所が?」
「まっしぐらなところ。柊を見ていたら、本当に梓が好きなんだなって伝わってきたよ。お前達は本当によく似てる」
「似てる? 私と蓮が?」
「うん、似てる」
「そうかな。自分じゃよくわからないけど……」
「後夜祭のステージ上での告白、びっくりしたよ。あれだけ人気のある子が全校生徒の前で誠意を見せつけてくるなんてね。女子の悲鳴が教室まで届いてきたよ」
「私もびっくりした。そのせいで散々な日々を送らされたけどね」
「色々あったね。校長室でまさか恋のライバルにピンチを救ってもらえるなんて思わなかった」
「私も……。蓮が校長室に飛び込んで来るなんて思いもしなかった。あの後、私が退学になったら意味ないからって怒り狂ってたよ」
梓が蓮の事を思い浮かべながら夢中で話していると、梓の変化に気付いた高梨は言った。
「ほら、そーゆーところ!」
「へっ?」
「柊の話をしてる時は恋する顔になってるよ。柊も同じだったから」
「そ……っかなぁ」
「あいつはモテる事を鼻にかけずに梓、梓って夢中に追いかけてたよね。その間、僕の事なんて眼中になかったんじゃないかな。きっと、一途な想いを丸出しにしてきた分、他の子は尚更柊が魅力的に思えたんじゃないかな」
「えっ……」
「疑似恋愛ってやつ? 自分も梓みたいに柊に大切にしてもらいたいから近付く子が多かったんじゃない?」
「どうかな……。ファンが多くて私にはよくわからないけど」
「情けない事に、柊に負けるかもって思い始めてからあっという間だった。結局、僕は自分自身に勝てなかったんだよな」
先生は過去を振り返るような目でそう言い、窓辺に肘をかけて外を眺めた。
私も隣に行き、同じく外に目を向けた。
先生は私の事も蓮の気持ちも十分に理解していた。
蓮は負けず嫌いな上に、私の事になると見境がなくなってしまうから、交際していた頃はさぞがしく大変だっただろう。
いま先生とこうやって落ち着いて話せるようになったのは、先生が恋人から生徒目線にシフトしてくれたから。
私は先生と別れた後も、先生というひとりの大人に救われている。
すると、このタイミングで鞄の中のスマホのバイブが作動した。
発信者は恐らく先ほど通話を一方的に切ってきた大和から。
話に区切りがついたところを見計らって先生に言った。
「先生」
「ん?」
「私、先生を好きになって良かった。先生は信じる事の大切さや、相手を思いやる気持ちを教えてくれたから。大人の魔法をかけてくれたのは先生だけ。いっぱい理解してくれてありがとう」
「こちらこそありがとう。梓と付き合えて幸せだったよ。これからは素晴らしい新生活を送ってね」
「先生も幸せになってね」
最後に先生と握手を交わしてから、その場を離れた。
先生は笑顔で見送り手を振る。
私も半年間愛してくれた先生の方に振り返って、大きく手を振り返した。
高梨は梓の姿が見えなくなってから、壁に背中をもたらせながら見上げた。
『センセーはどう思ってるか知らないけど……。俺、マジだから』
『卒業までには絶対梓を返してもらうからな』
高梨は負けん気な態度で挑んできた蓮を思い描いた途端、プッと吹き出した。
「あいつは誠意の塊だったな。僕も負けないくらい梓を大切にしていたつもりだけど、あいつの想いには到底敵わないな」
誰にも聞こえない声で小さくそう呟いた後、高梨は窓から差し込む光に包まれながら職員室へ戻って行った。
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