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第二十二章
166.大和
しおりを挟むーー大和に一方的に電話を切られてから20分後。
ようやく大和と学校の中庭で会う約束をした。
先程不機嫌にヒソヒソと話していた時は、どうやら在校生に呼び出されて話をしている最中だったらしい。
そんな大和は、自分が忙しい時でも人の想いを後回しにしない人。
イケメントリオの一員の大和は、金髪で短髪のワイルド系イケメン。
聞くところによると、金髪は彼なりのポリシーだとか。
本当は普通に校則違反。
でも、彼の中で校則は関係ないとか。
天然で、面倒くさがり屋で、人に縛られるのが嫌で、来る者拒まずの日替わり彼女。
つい最近まで人の情報を詮索してきて鬱陶しく思ったりもしたけど、私がピンチを迎えた時に助けに来てくれた。
蓮の事だったり、紬の事だったり。
大和とは何かと衝突する機会が多かったけと、温かい人間味には随分救われた。
最近紬に心が傾きかけている事を素直に吐露してくれた。
案外かわいいところもある。
中庭のベンチに足を大に広げて待っている大和は、校舎から出て来る私に気付いてヒラヒラと手を縦に振った。
「おーい。梓、こっち~」
「ゴメンね、お待たせ」
「おせぇー。雲ひとつない晴天を見てみろよ。待ちくたびれて干物になりそうだったよ」
「あのさぁ、電話がかかってきてから5分も待たせてないんだけど。いつも大袈裟なんだから……」
学校で冗談を聞くのも今日が最後。
そう考えただけで寂しさのレベルが一段アップした。
大和の横に座って手紙が入っているブレザーの右ポケットに手を突っ込んだ。
「今日はこれを大和に渡そうと思って」
「えっ、何?」
梓はそう言って、昨晩書いた手紙を取り出して両手で差し出した。
「手紙は必ず家に帰ってから開けてね。約束だよ」
「悪い……。お前からのラブレターは受け取れない」
「は? あんたの妄想私より深刻だね。しかもこんな時に限って即答?」
「ラブレターじゃないの?」
「当たり前でしょ。相変わらずバカなんだから」
「バカにバカって言われたくねーよ!」
「はいはい。私はバカですよ~」
大和は相変わらず厄介だけど、呆れ眼の私から手紙を受け取ってくれた。
「先日は助けてくれてありがとう。それと、約束通り蓮にも黙ってくれてありがとね」
「別に当たり前の事だよ。あの時は何もされずに済んで良かった」
「大和のお陰だよ。……んでね、明日大和に大切な話を伝えたいから、手紙に書いてある場所に来てね。いい? 絶対に時間厳守だよ」
「えっ! これ、ただのラブレターじゃないの?」
「だ~か~ら~っ! ラブレターじゃないっつーの!」
「大切な話なら勿体ぶらずに今話せば?」
「明日じゃなきゃ意味ないの!」
「なんだよ、それ……」
梓は話を終えるとベンチから腰を上げた。
無事に目的が達成してその場を離れようと三歩足を進めて、最後にフワリとスカートを揺らしながら笑顔で振り返る。
「大和、卒業おめでとう。1年の頃から仲良くしてくれてありがとう。お互い本音でぶつかり合う機会が多かったけど、困った時には力になってくれたし、大和のお陰で強くなれたよ。本当に感謝してる」
大和は梓の3年分の想いを受け止めると、ニコリと微笑み返した。
「こちらこそサンキュー。お前には大事な事を学ばせてもらった。本音で語れる女ってお前しかいなかったから随分助けられたよ。卒業してからも、またみんなで遊びに行こう。今度こそバックれんなよ」
「オッケー!」
大和はヤンチャにはにかんで手のひらを向けてきたので、私も手のひらを向けてハイタッチした。
ーーこうして、また一人お別れの言葉を告げた。
残すは紬。
親友として伝えたい事が沢山あるから、時間をかけて話したい。
そして、蓮とは納得がいくまで話し合わなければならない。
泣いても笑っても、高校生活は明日で最後だから。
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