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第二十三章
168.あいつ
しおりを挟む「特に花音の嫌がらせは陰湿だった。1週間に何度も何度も……。男子がいない隙を狙っては悪口を言ったり、偶然を装って目に見える危害を加えたり。……実は、花音達に逆らえる人なんてクラスの誰一人としていないの」
「えっ……」
「逆らった時点でいじめの標的になる。だから、どんなに暴言を吐いてもみな口を噤んでるんだ。梓もいま以上に嫌がらせがエスカレートしないようにずっと我慢してたんだよ」
「そうだったんだ」
「蓮くん、本当にこのままでいい? 後悔しない? 目に見えるものだけを信じていたら、大切なものを見過ごしちゃうよ。梓は蓮くんが見えないところでいっぱい泣いてたんだよ」
「あいつ……が、泣いてた……」
「今までは蓮くんが守ってくれたから度重なる嫌がらせにも耐えられた。でも、今はどうだと思う?」
「……」
「最近は卒業間近のせいか嫌がらせレベルも右肩上がりだった。梓は、受験シーズン中だし蓮くんには余計な心配をかけたくないから絶対言わないでって……」
目を逸らしているうちに起きていた、いたたまれない現実。
それを教えてくれたのは、俺の代わりに梓を守り続けていてくれた紬ちゃんだった。
俺と付き合う女は必然的にいじめの対象になっていた。
大概の女は度重なる嫌がらせに耐えかねて去って行くパターンだった。
『すっ……好きなんです……。柊くんが』
『プッ……。俺のどこが好きなの?』
『顔。……顔以外よく分からない』
『えっ、顔? 菊池は俺の顔が好きなの? それだけで告ってるの?』
『……だって、顔も柊くんの一部でしょ』
入学早々、変な告白をしてきたあいつ。
思い返すだけで笑える。
あいつを彼女として受け入れたのは、びっくりするくらいバカ正直で信じていけそうな気がしたから。
嫌がらせが辛いなら離れていけばいい。
最初は軽い気持ちで恋愛をスタートさせたけど、あいつは他の女とは比較にならないほど強い精神力の持ち主だった。
そんな内面の強いところも魅力的だった。
恋愛の醍醐味を教えてくれたのもあいつ。
体裁目的の関係よりも、一つのアイスクリームを奪い合いながらも二人で仲良く分け合うような関係に幸せを感じていた。
でも、俺は彼女と距離を置いているうちに大切な事を見過ごしていた。
『私は蓮じゃないから蓮が言う通りなんて出来ない! それに、私には私の事情があるの。蓮は目で見たものだけを信じてるかもしれないけど、私は蓮が見えてないものだって沢山抱えてる。なのに、それを知ろうともせずに自分勝手な見解ばかり押し付けないで!』
あの時はきっと心が泣いていたはず。
あいつは不器用だから近道する事を知らない。
手を差し伸ばせばいつでも守ってやれるのに。
言いたい事は今まで沢山あったはずなのに……。
人の事を考え過ぎていつも自分を犠牲にしていた。
あいつ……。
バッカじゃねーの。
どうして自分の気持ちや想いを口に出さねーの?
どうして一人で我慢し続けるんだよ。
俺に心配かけたくないからって、最後の最後まで一人で苦しみ続ける気かよ。
蓮が罪悪感に戒められて頭を抱えていると、左隣に座っている紬は蓮の肩をポンっと叩いた。
「蓮くん、明日まで梓と仲直りができるといいね。二人が仲直りしてくれないと私も悲しい」
「ごめん、紬ちゃんには随分迷惑かけたね……」
「ううん、二人とも私の大切な友達だから、復縁してくれる事を心から願ってる」
まぶたを軽く伏せて悲しそうに微笑む紬はスクッと立ち上がると、スカートの汚れをパサパサと払って学生鞄を肩にかけた。
「忙しいのに話を聞いてくれてありがとね。……じゃあ、そろそろ帰るね。また明日」
「うん、ありがと。バイバイ」
「うん。バイバイ」
手を振りながら中庭を離れていく彼女の姿が見えなくなっても、頭の中では彼女の言葉がこだましていた。
俺は知ったかぶりで高梨に偉そうな口を叩いてたんだな。
実際はあいつが何倍も苦しんでいたのに。
感情の波に飲み込まれながら一人で冷静になって梓の気持ちを考えていたら、暫くその場を離れる事が出来なかった。
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