175 / 184
第二十四章
175.見過ごしていたアドバイス
しおりを挟む「……あのね。私は今まで散々お節介をしてきたけど……。梓の事が大好きだから最後のお節介を言ってもいいかな」
「そんな、お節介だなんて。私はいつも感謝してたのに。……でも、言いたい事があるなら遠慮なく言ってね」
「……ん、じゃあ遠慮なく言わせてもらうね」
「うん」
紬がかしこまった様子で目を合わせてきた瞬間、胸がドキッとした。
紬は控えめな性格だけど、場合によりけりな時も。
「少し前に私達に『自分の悪い所』を質問してきたよね」
「あ、うん……」
「蓮くんとは視点は違うかもしれないけど、私の視点がヒントになるかもしれないから言わせてもらうね」
「うん、お願い」
梓は長々と考えていた答えが見つからなかった分、少し緊張気味にゴクリと息を飲んだ。
「梓の悪い所は、自分の気持ちを伝えない所だよ」
「え……」
「この3年間、助け舟があったにも拘わらず、梓は誰にも救いの手を求めなかった。大和くん、奏くん、高梨先生、蓮くん、……そして私に迷惑かけるのが嫌で度重なる苦難も心の中で解決してた。……だから、ずっと苦しかったんじゃないかな」
「……」
「辛い時は頼っていいんだよ。迷惑をかけるなんて思っちゃダメ。梓が自分の殻に閉じこもったままだと、私達は解決してあげられないんだよ」
「だって、何度もしつこく嫌がらせが続いたから、せめて自分以外の人には嫌な思い出を作らせたくなくて……」
「伝える事は迷惑な事じゃない。涙を流して自己解決するより、手を重ね合わせて協力する方が人は何十倍も強くなれるんだよ。……それは、今日まで身を以て実感したはずだよ。みんなが梓を見守ってくれてたからね」
梓は溢れんばかりの想いを受け取ると涙が浮かび上がった。
紬はブレザーのポケットからハンカチを出して梓の涙をそっと拭く。
3年間親友でいてくれた紬には何もかもお見通しだった。
嬉しい時も……
楽しい時も……
悲しい時も……
辛い時も……
苦しい時も……
紬から指摘されて振り返ってみたら、以前高梨先生にも奏にも言われていた。
そう……。
私はみんなからのアドバイスを気付かぬうちに見過ごしていた。
高梨先生は、嫌がらせを受けている事を相談せずにやり過ごそうとしている私にこう言った。
『黙ってるだけじゃ思いが伝わらないよ。口にしたら気持ちが楽になる事もある。相手に伝えなきゃいけない話を怠わったり、気を遣い過ぎて一人で塞ぎ込んだり。そこが梓の悪い所だよ』
奏と大和は、嫌がらせの事実を知って誰にも相談しない私に痺れを切らしてこう告げた。
奏『お前は辛いとか、悲しいとか、自分の気持ちを伝えていかないから、俺らは気付かないんだよ。自分の気持ちを言わないのはお前の悪い所』
大和『辛い気持ちを仕舞い込んでたら、いつまで経っても人に伝わらないよ。ちゃんと自分の口から言わなきゃダメだろ』
それだけじゃない。
思い返せば、蓮はいつも私の気持ちを知りたがっていた。
『付き合ってた時、俺のどんな所が好きだった?』
『どうしてそんなに俺とやり直したいの?』
『……お前の悪い所、まだ見つからないの?』
蓮はいつも私からのボールを受け止める準備をしていてくれたのに、私は……。
『蓮が私を想っていても、私は蓮の事なんてこれっぽっちも思ってないんだから……』
残念ながら傷つける言葉しか言ってない。
ケンカしては仲直りの繰り返しで平行線な関係に行き詰まりを感じていたけど、それは自分自身に原因がある事にようやく気付いた。
度重なる試練が待ち受けていても心に平和をもたらせてくれたのはいつも蓮だったのに……。
0
あなたにおすすめの小説
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
お嬢様は地味活中につき恋愛はご遠慮します
縁 遊
恋愛
幼い頃から可愛いあまりに知らない人に誘拐されるということを何回も経験してきた主人公。
大人になった今ではいかに地味に目立たず生活するかに命をかけているという変わり者。
だけど、そんな彼女を気にかける男性が出てきて…。
そんなマイペースお嬢様とそのお嬢様に振り回される男性達とのラブコメディーです。
☆最初の方は恋愛要素が少なめです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる