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第五章
118.恐怖の叫び声
しおりを挟む一瞬だけ高まっていた期待は寸止め。
迫られた瞬間だけ浮ついた気分は右肩下がり。
ラブチャンスはいつの間にか白紙に。
一方、自宅を出て畑に戻った拓真の機嫌は……。
「お前が散々ふざけたせいで午後の作業時間が減っただろ! さっさとワケギの球根を植えろ。……いいか、15センチ間隔だからな。球根の先端が土の上からちょっと見える程度に植えるんだぞ。お前が適当に蒔いた大根みたいに、山から少しでも曲がったら承知しないからな」
まるで猛吹雪のように荒れ模様。
さっきは一瞬だけいい雰囲気になったのに、時計を見た途端人が変わった。
夢心地気分は雷が落ちたと同時に目が覚めた。
普段から風当たりは強いけど、不機嫌にさせた事によって追い風を起こしてしまった。
「そんなに怒ってたら美味しい野菜が育たなくなるかも。だから、二人で楽しく仲良く一緒に……」
「あー、しつこい! 何度言ってもわからない奴だな。黙って一人で作業しろ」
近付いたと思っていたはずの距離感は、失態が原因で遠退いてしまった。
すごろくで言えば、スタートマスに戻る。
また最初からやり直しに。
はぁ……。
今日はずっとこんな調子でいるつもりなのかな。
参ったなぁ。
指示された配置に着いて、言われた通りにスコップで軽く土をかき分けて、次々と段取りよく球根を植え始めたけど……。
かき分けた土の中から何か白い物体がひょっこり顔を出した。
「……ん? コレなんだろう?」
一瞬、粒状の肥料かと思った。
だけど肥料よりもサイズは大きいし、少し透き通ったような珍しい色をしている。
それがあまりにも不自然な色で気になったので、スコップで土をかき分けて掘り起こしてみた。
しかし、中から出てきたその白い物体とは生きてる虫の幼虫。
周りの土を払いのけるかのように、身体を左右させてムニムニと不気味に動いている。
私は幼い頃から虫が大の苦手だ。
見るのも嫌だし、触るなんて以ての外。
だから、幼虫の遭遇と共に全身の力を振り絞って大声で叫んだ。
「ギ……ギャーーー!」
身体が衝撃波で飛ばされたかのように、勢いよく背後に尻もちをつく。
顔面蒼白の恐怖の叫び声は、畑一帯へと響き渡った。
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